
村上凛『おまえをオタクにしてやるから、俺をリア充にしてくれ!』3巻
(2012年 富士見ファンタジア文庫 イラスト:あなぽん)
ファンタジア文庫の新刊が発売されていたので、購入。楽しみにしていた『おまえをオタクにしてやるから、俺をリア充にしてくれ!』の続きが出ていました。早速読了。今回かなり薄くて、流して読んだら1時間ほどで終わってしまい、もう1周。じっくり読んでも(途中で恥ずかしさのあまり悶えるとかしなければ)2時間かからないと思います。
まだシリーズが始まったばかりということで、これから読もうかと考えている人もおられるかもしれませんから、簡単に2巻までのあらすじを説明していきましょう。オタクの主人公・柏田直輝は高校で「リア充」になろうと決意。オタク趣味をひた隠し、あれこれチャレンジしようとはするものの、どれも「思う」だけで実行に移せず、思い切って行動すると全部的外れで空回り。思い人の長谷川さんに想いを告げることもできず、悶々とした日々を送っていました。
ところが、ふとしたきっかけで超イケメンにして重度のアニヲタ・鈴木くんと仲良くなった直輝。それが縁となって、鈴木に惚れている美少女の恋ヶ崎桃と親しく話すようになります。桃は、直輝が最も苦手とするギャル系女子で、直輝曰く浮ついた「ビッチ」かと思いきや、実は色々斜め上の方向に勘違いをしているだけで、実は清純派のお嬢様。気性が荒いのが玉に瑕だけど、面倒見も良い「女の子」でした。
で、二次元にしか興味のない鈴木を振り向かせるべく、直輝は桃がオタクになる協力を。逆に桃は、直輝が長谷川をゲットできるよう脱オタ指南をするという協定を結びます。その後は色々あって桃と鈴木・直輝と長谷川がうまくいきそうだったり駄目だったりしながら物語は進行。2人に桜井小豆というコスプレ大好き巨乳少女の友人が出来たところが2巻までの概要。
本巻は、いよいよ直輝が長谷川とデートします。
詳しい内容には触れませんが、なかなか良い感じになったり、思ったより進展しました。小豆と直輝の関係もはっきりしてきましたし、長谷川さんの「意外な」(むしろ読者からするとほぼ予定調和ですが、直輝的には意外な)過去も少しずつ見えてきた。ほとんどが点線だった人間関係が、実線で描かれる部分が増えてきた、という感じです。
今回の直輝は、桃・小豆らと夏コミに出かけたり、クラスの花火大会にでかけたりと、一気にレベルアップ。前回はスライムを倒すのもやっとだったのが、今やキラービーくらいなら瞬殺できるのではないかという成長ぶり。相変わらずヘタレてはいるのですが、モテ期到来を予感させる、ニヤニヤ巻でした。
構成としては、これまで曖昧だった桃以外のヒロイン・長谷川と桜井の2人と直輝の距離感をやんわりと固めてしまおうという形だったと思います。桃と直輝との関係は最後の方まではっきりさせるわけにはいかないでしょうから、脇で釣るパターン。セオリー通りですが、それだけに揺るがぬ面白さがあります。ついでというと失礼ですが、直輝の妹、あかりも色々態度がはっきりしてきて、これは今後台風の目も期待して良いのでしょうか。全然関係ないですがあかりちゃん、p.75のパンチラがヤバいです。
気になる新キャラ、同人作家のムラサキさんも登場。私としてはカラオケボックスのあの人の関係者じゃないかと思っているのですが、どうでしょう。完全MOB気味のくせになぜかイラストがあった渡辺さんともども、今後の出番に期待ですね。
最後はまたちょっと気になる終わり方。恐らく一悶着したあと、実は妹だったとか従姉妹だったとかいう話になりそうですが、次巻は桃の恋が描かれる巻になることが予想されます。なかなか楽しみなヒキでした。「非常にちょうど良かった」とか「受容がある」(需要)のような微妙な表現、誤字などが散見されましたが、まあ許容範囲。総じて良い巻だったと思います。
さて、3巻の話はこの辺にして、ちょっとだけ作品全体についての話を。
あらすじでおわかりの通り、本作は『とらドラ』と『俺妹』と『はがない』を足して割ったような感じがします。その辺は発売当初から、ネット界隈で言われていました。私も、そんな印象を受けます。
ただ、そういう有名作品群から本作を区別できるものがあるとすれば、ひとえに主人公・直輝の「痛々しさ」に尽きるかと思います。京介はもともと常識人という設定ですし、竜児も思考回路はマトモ。顔面のせいで差別迫害されているといっても、直接そういう描写はほとんど無いし、作品の中ではイケメン主人公と大差なし。小鷹は確かに残念な奴ですが、周りに更に残念無双している連中がわんさかいるせいで、相対的に真人間に見える(※)。
ところが直輝は、間違いなく作品内で差別迫害されているし、一番の非モテキャラ。考え方の後ろ向きさ加減なども割と等身大に描かれていて、笑えると同時にちょっと身につまされて痛い(とくにオタクには)ところがあります。女の子の反応に一喜一憂したり、メールの返事の仕方一つでうんうん悩んだり。もちろん物語用にデフォルメされていますが、最もかっこわるくて、でもだからこそ応援したくなる主人公が出てくるのが、この作品でしょうか。複雑に絡んでくる恋愛模様もそうですが、直輝の心の揺れ動きを見るのが楽しい作品ですね。
高校生であるにもかかわらず主人公がエロゲーしますし、あとクラスメイトが飲酒する場面が出てきたので、そういうのが気になる人は(あまり居ないとは思いますが)ご注意ください。このご時世になかなか思い切ったことをやるな、と個人的には賞賛したい気持ちもありますが、エロゲーはともかく飲酒のほうは、作品的に必然性が無いばかりか、これまで描かれてきたプラトニックな恋愛を「酔った勢い」に転換することにもなりかねない、マイナス要素の方が多い仕掛けだったと思うので、使うならもっと効果的に使って欲しかったです。ご時世を考えればせめて、苦情が来たときに「作品にどうしても必要だから」と突っぱねられるような使い方が求められるかもしれません。
目下の不満としては、単に「リア充」の象徴として、直輝の真逆という相対的ポジションのキャラとしてしか描かれていない鈴木くん。彼が、今後どのくらいスタンドアロンに動くのかがポイントでしょう。三角関係になるのか、我が道を行き続けるのか……はたまた、別の女性があらわれるのか。期待したいと思います。
と、言ったところで本日は失礼します。それでは、また明日。
(※)…小鷹の場合は「リア充」の要素が恋愛ではなく「友達」なんですよね。この辺は『はがない』最新刊でどうして「恋愛」関係を嫌うかという話が出てきて、『はがない』的には消化されそうですが、普通にリア充の定義としてモテ要素が入っているぶん、直輝の場合は非モテ的痛さが増幅されています。





