よい子わるい子ふつうの子2(仮)

18禁PCゲームをメインに、ラノベや漫画についてもダラダラ話を書きます。長文多いです。

ラノベ (レビュー)

レビュー:『正捕手の篠原さん』

正捕手
千羽カモメ『正捕手の篠原さん』

(MF文庫J、全3巻、イラスト:八重樫南)

さて、今回ご紹介するのは『正捕手の篠原さん』。残念ながら3巻で終了してしまいましたが、色んな意味で実に面白い本でした。

まず、題材。タイトルからおわかり頂けるでしょうが、野球ラノベです。世に「野球マンガ」は多々あれど、ラノベでサッカーやら野球やらというのはあまり聞かない。そういう意味では恋愛シフトを敷いているラノベ業界の、隙だらけの三遊間をうまいこと抜きに来た感があります。

次に、イラスト。八重樫南さんといえば、『閃乱カグラ』でおなじみ。女の子が特にですが、どのキャラもカワイイです。そして何より、ブルマが巧い。とくに、足の付け根の辺りのラインはピカイチ。個人的にはブルマ絵師 三ケツ 三傑に入るお方と目し、お慕いしております。

……何の話でしたっけ。

そう、この作品の面白いところでした。最後は、形式。この『篠原さん』は、ほとんどの話が見開き2ページで終了します。1冊200ページとちょっとですが、だいたい100話くらいのエピソードが入っている。

著者の千羽さんが1巻のあとがきで、「誰もが一度は思いつきながらあえてやらなかった」形式であると言っておられましたが、本当に他に例がないかはともかく、確かに余り見ないタイプ。ただ、このコンセプト自体は、私たちにとって非常におなじみのものです。

決まった分量の中に短い1エピソードを詰め込んで行くという手法は、完全に4コマ漫画のもの。つまりこの作品、ラノベで4コマをやってみよう、ということなのだと思います。4コマより『高校球児ザワさん』に近い気がしないでもないですが、とにかくそんな感じ。

これが思ったより新鮮で、しかも面白い。基本1エピソードで話が簡潔するのですが、毎回「オチ」がきちんと用意されている。

4コマ漫画の面白さというか「読みごたえ」の一つに、「オチがどういう意味か考える」というのがあります。読み取るのが難しいというわけではないのですが、周りの反応とかちょっとしたセリフを駆使して、直接ことばで書く以上の楽しい雰囲気が出せていて、ちょっとうまい。綺麗にオチた4コマ目が醸し出す妙な余韻みたいなのが、各話にきちんと出ています。

一応キャラクターや舞台は全エピソードを通じて統一。エピソードを重ねながらも全体のストーリー的なものがあり、明神学園野球部のキャッチャー、篠原守さんと、彼を巡るヒロインたちのラブコメです。主なヒロインはピッチャー(男装)の綾坂さん、幼なじみでマネージャーの月夜さん、妹でブルマの杏さん。他にもちょくちょく出てきますが、1巻から通しはこの3人。あ、涼子先生もいたな……。4人!

恋愛以外は特に起伏のない、いわゆる4コマらしい「日常系」作品で、退屈なところもありますが、1話ずつのまとまりがきっちりしているのでちょくちょく読んで楽しめます。一気に読むのではなくて、暇なときに少しずつ読むとか、そういうのが正解の気がする。

いま言った通り基本的に日常ダラダラで、野球の試合とかはほとんど無し。ただ、随所に野球ネタが差し挟まれるので、さすがにルールしらないとか全く興味が無い人は見送りが無難でしょう。

3巻で終わりってことはやはり、あまりウケが良くなかったのでしょうか。個人的には面白いと思っていただけに残念ですが、まあ一般に訴求力があるタイプの作品ではないことも事実なので、仕方ないかもしれません。とはいえ色んな意味でチャレンジングな内容でしたし、全部新品で買っても2000円弱だし、関心があればお試しあれ。

今後こういうタイプのラノベが『あずまんが大王』や『WORKING!!』、『けいおん!』のように、どこかでブレイクしたら、その時元祖として注目を集めることがある…………かなあ?

それでは、また明日。

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レビュー:『烙印の紋章』

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杉原 智則『烙印の紋章』
(電撃文庫、2008年~続刊 イラスト:3)

関連記事 :『烙印の紋章』完結(2012年10月10日)

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【訂正】主人公の名前を「オリバ」と誤って記載していた箇所をすべて「オルバ」へと訂正しました。初歩的なミスでファンの方にご不快を与えていたら申し訳ございません。ご指摘ありがとうございました。(2012年12月14日)
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いま(刊行中の)一番面白いラノベは何ですか? そう聞かれたら「わかりません」と答えます。「ラノベとは何か」などという問いは措くとして、面白いラノベはたくさんあるし、違う面白さを比較することは難しいから。けれど、もしも問いが、いま(刊行中の)一番好きなラノベは何ですか? だったら。私は、迷わずこの『烙印の紋章』の名前を挙げます。……いや、『ソードアート・オンライン』も好きだし、『なれる!SE』も……ってまあ細かいことはいいんです! そのくらい好きということです!

ジャンルとしては、ファンタジー+戦記もので良いと思います(11巻紹介文では「戦記ファンタジー」)。一部に根強いファンがいるとはいえ、昨今の主流は学園もので、ただでもファンタジー停滞の時代。しかも更に人気薄の戦記もの。ファンタジー+戦記の相性がどのくらい厳しいかというと、『ビブリア古書堂の事件手帖』シリーズで一躍脚光を浴びた三上延氏が、ほぼ同時期に書いておられた電撃文庫の『偽りのドラグーン』がわずか5巻で終了していることからも、なんとなく推察できるかもしれません。『偽ドラ』に関しては、巷で騒がれているように実際に打ち切りだったのか否か、その辺定かでありませんが、いまやラノベの主流は現代学園モノ。それはほぼ間違いない。学園ファンタジーならまだ主流派の感じもしますが、歴史小説風の戦記ファンタジーのジャンル的な逆風たるや、少なからぬものがあったのではないかと思います。

そんな中、戦記ファンタジーが10巻以上も続いたというのは快挙と言っていいのかな……。この前全13巻でめでたく完結を迎えた、師走トオル『火の国、風の国物語』もあり、これに並ぶかと期待していたのですが、とうとう今回、11巻のあとがきで、「次巻完結」の旨が告知されてしまいました。・゚・(ノД`)・゚・。うゎぁあああん!!

言い回しが複雑で漢字率が高く文字がぎっしりで効果音ほとんど無しと、文体はかなり硬派。しかもイラストの男率が異様に高かったり(今回のカラーページなんか、キャライラスト6枚中女性キャラ2人でした。この辺が師走トオル先生との違いといえば違いですか)、ヒロインがサッパリ出てこない巻があったりと、ある意味でラノベのお約束を完全スルーした潔い内容でしたから、いつ打ち切りが来るか、ファンとしてはヒヤヒヤ。意外と長持ちして安心していたら、やはり油断大敵というべきか、とうとう、来るべき時が来てしまいました。

打ち切りなのかどうなのかはわかりません。あとがきに散りばめられた、「打ち切り」だの「敗者は無言で去るのみ」だのという言葉からは打ち切りなのかなあ、という気もするし、公開プロットを見ると一応想定していた最後のところまでは(三国同盟)行くから、納得の終了なのかなあ……とも思える。その辺ボカしてかいておられます。まあ、実際のところどうでもいいといえば良い。打ち切りだろうが何だろうが、素晴らしい作品があればそれで良いのです。それは真理。しかし、これで終わりというのはいかにも勿体ないし残念です。

世界が広がる余地はまだまだあったし、とても味のある新キャラが複数、11巻にして登場。キャラも世界も深みを増してきていただけに、もちろんこれまででも高い完成度を誇っているのですが、もう少し、オルバやビリーナの活躍を見ていたかった。そんな思いが止まりません。打ち切りなら勿論ここからバカウレして撤回になる可能性は低いですし、著者がここで終わる、と決められたなら余計に、これ以上話が続くとは考えにくい。『烙印の紋章 Second Season』とか出てくれないか……という秘かな期待が叶う可能性は低そう。

とはいえ、完結せずにいつの間にか消え去っていく多くの名作たちと比べると(十二国記とか、皇国の守護者とか、続きはいつでるんでしょうか……)、きちんと「終わり」を迎えられるのは、作品としても読者としても、はるかに幸せなことかもしれません。

そんなわけで、今回は2012年6月8日に発売された最新刊、『烙印の紋章 XI あかつきの空を竜は翔ける(上)』の感想がてら、遅すぎるステマを展開したいと思います。作品全体については12巻発売の際にあらためて行うつもりですが、この面白い作品がまだ現刊本として入手しやすい間に、興味をお持ちの方に伝われば良いな。そんな風に考えて今回の記事になりました。


メフィウス皇国の皇太子ギルは皇子であることを盾に取り、傍若無人な振る舞いを続けていた。ある時、近衛兵の娘・ライラに「初夜権」を行使しようとしたギルは、父親によって殺害されてしまう。その場に居合わせた野心家の貴族・フェドムは、皇子が死んだ事実を隠蔽。秘かに目を付けていた、ギルにそっくりな奴隷剣士・オルバをギルに仕立てあげ、権力の中枢へ食い込もうと画策する。こうして、奴隷オルバは「ギル・メフィウス皇太子」としての生活を送ることになるのだった。

というのがあらすじ。スズキヒサシ『タザリア王国物語』と、ちょっと似ていますね。ヤンデレの姉妹が出てくるのもそっくりです。病み方はちょっと違いますが。

まあこの皇子になった奴隷のオルバが、大活躍します。敵国の陰謀を潰し、そこの姫を婚約者として迎えいれる。一方で、奴隷剣士たちを「近衛兵」として側近に迎える大改革を行い、自ら「仮面の騎士」として闘技会で優勝してみせたり、ついでに仮面をつけたまま「皇子の側近」を名乗って、戦争では獅子奮迅の活躍をする。

ところが、そうして活躍をすればするほど、父親である王・グールから疎まれて暗殺されそうになります。さすが独裁者。息子でも自分以上の力を持ちそうになったら容赦なし。で、オルバは辛うじて難を逃れるけれど、普通に戻ると殺されるだけだということで、皇子は精子不明ということにして、メフィウス皇国と敵対関係にある西方の連合国へと逃れます。(第一部)

一旦ギルをやめて「仮面の剣士」に戻ったオルバは、正体を明かさずに、西国へ行きますが、そちらでも大活躍。んで、西のほうの姫様にも惚れられちゃったりなんかしちゃったりしてよろしくやっていたら、どうもメフィウス本国のほうで不穏な動きがある、という話になって、それじゃあ戻らないといけないということで、今度は西の兵を率いてメフィウスへ迫ります。(第二部)

そこで一旦正気に返る。これまではギル皇子として振る舞わなければ、という強迫観念に駆られて必死に走ってきたけれど、自分が「オルバなのかギルなのか」と悩むようになります。自分はギル・メフィウスでは無い。けれど、自分をギルと信じて付いてきている部下や婚約者がいる。自分はどうあるべきなのだろう、と。そうして悩んでいたところ、今度は東から大国アリオンが侵略戦争を仕掛けてきた。これは内紛をしている場合じゃないぞ、というところで現在の話になっています。

▼ ※以下、11巻のネタバレが少しだけ含まれます
11巻は、オルバくんの見せ場が満載。「われわれの戦いにおいて、失ってはならぬものがひとつだけあるとしたなら、それは何だと思う」という問い、大義のために戦う姿勢を示し、グール皇帝との直接対決で弁舌爽やかに皇帝を論破したかと思えば、怒濤のような感情の奔流を見せつける。

後世の歴史家がなにをいおうとも構うまい、しかしいま、いま、おれたちは、人心、民心を失うわけにはいかないのだ

うーん、カッコイイですね! こう言い切ってとある決断を下すオルバくんは、もうかつて無いくらい輝いている。本作では時々、歴史の視点と実際にその現実を生きている人間の視点の違い、みたいなものが言われて、俯瞰的な歴史の視点によって切り落とされてしまう、実際に生きている人々の情念のようなものを描き取ろうとするところがあります。歴史ものの王道といえばそうですが、今回も随所で効果的にそんなエピソードが挿まれていて、キャラクターの哀切がうまく表現されていたと思います。

ただ、本巻のメインはやっぱりヒロイン二人だったかな。

一人は婚約者のビリーナ王女。ツンデレだけに素直に好きだとか愛してるとかは言いませんが、じっとギル(オルバ)のことを考え、あるいは本人よりも深く彼のことを理解しようとする一途な想いが輝いていました。もう一人は、ヤンデレ王女のイネーリちゃん。彼女はギルの義妹で、オルバが偽物として振る舞っていることを知る数少ない人物ですが、今巻でついに、オルバの秘密を知ります。その時のイネーリたんの反応たるや。

イネーリは身体に火がつけられたと錯覚するほどに熱い、これまでにないほどの怒りを感じた。と同時に、その肉体を駆け巡った熱には、一種異様なまでの心地よさもが含まれていた。」

エロゲーだったら間違いなく、ひとりエッチのエロシーン挿入です。オルバしか見えない、という意味では、彼女のほうもまた、オルバに惚れてる。オルバから受けた屈辱を晴らそうという、相当にどす黒い想いですけど。

その愛と見分けの付かない執念が、今回炸裂。多段式爆弾なのでまだあと1、2発来るのは間違いないですが、とうとう来たか! という感じ。なんかヒロイン候補が他にも1人、2人いたはずなんですが(ホウ・ランとか)、完璧にイネーリたんにくわれちゃいました。図式は完全に、ツンデレvsヤンデレ。

この後、オルバくんなりギル皇子なりがどういう活躍をして、王国がどういう着地点を見つけるか、とても気になるし楽しみですが、果たしてオルバの恋の行方もどうなるか、見所満載過ぎてちょっと困ります。ホントに次の巻で全部終わるんでしょうか……。『ホライゾン』くらいの分量で、倍の値段になってもいいから、細かく全部描いて欲しいと心から願う次第です。

本当はこのあとアリオンとの戦いや、魔導国家の行く末などの話もあったのではないかと想像するのですが、どうやらそのあたりは見られずに終わりそう。このまま続けば『デルフィニア戦記』のように傑作長編たりえたと思うだけに残念です。繰り言で申し訳ない。完結はめでたいことと頭では理解しつつ、でもホントに勿体ないなぁ。・゚・(ノД`)・゚・。

ともあれ、面白い作品であることは間違いない。最終巻がいつ頃になるか、どんな内容になるか、期待したいと思います。

それでは本日はこの辺で。また明日、お会いしましょう。

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2012年12月14日 追記(2)
頂いた非公開コメントへのお返事です。まずは投稿者さま、コメントをありがとうございました。十分な内容であるかはわかりませんが、以下、回答を記載します。

名前間違いのご指摘に関しては以前も誤記載しており、お恥ずかしい限り。読んだり口にするときはちゃんと言えてるハズなのですが、何故か書くと……。ともあれ感謝です。

さて内容のほう。非公開コメントなので全文抜粋はできませんが、要旨は以下と読みました。
1.私の作品に対する「説明」が「明らかに間違」いである
2.細かな読解不足
 ・皇太子として戦うことに必死になったのは第三部から。それまでは復讐の手段。
 ・オルバの悩みは自分を見失ったからではなく、自身の出生が枷になることを知ったから
3.もっとオルバやキャラの心情や動機の変化についてよむべき
 ・「いくらなんでも本編の描写と食い違い過ぎ」

まず「1」についてですが、私の書いたオルバが身を隠した理由が「建前」なのはその通りだと思います。が、ここで建前を書いたのは2つ理由がある。

1つは、きっかけであることは間違いないからです。一応五巻p.62にはオルバが身を隠した2つの理由が書かれており、その一方(「もう……必要もない」のほう)を、少し前のアークスとラバンの会話なども踏まえて書いたつもりです。もう一方を書かなかったのは、「こいつどうなるんだろう」と思ってこれから読む方へのネタバレになる可能性が大きいと判断したからです。

オルバの行方もネタバレだろ、と思われるかもしれませんが、その辺の判断は公表されている公式の紹介文に準拠しており、一応私の中ではある程度明確な線引きのもとに行われています。

もう1つは、ここに書いたまとめが要旨要約というよりは、単純なあらすじのつもりだったからです。あらすじには幾つかの書き方があると思いますが、私はできるだけ内容にはつっこまず、公式情報よりちょっとチラ見せするくらいのつもりで書いています。自分の意図をいれる「要約」などとはやや区別しているので、上記五巻にあった直接的な「理由」説明を採用しました。

さて、「2」のこと。私の「読み不足」として投稿者さんがご指摘くださったことですが、私は自分の読みが誤っているとは思いません。

たとえば第一部で、皇太子として戦うことを「私欲を果たすための手段としか見て」いないという投稿者さんの解釈には、私は反対します。5巻P34-35あたりで言われているように、彼は「事後処理」をしていった。もし本当にただの手段なら、目的が達成された後のことは考える必要が無い。その他、オルバが「手段以上」に思い入れている部分は多々見受けられます。

そのことが全体の解釈にも関わってきて、私はオルバの悩みは王族と奴隷の身分差のようなものがそれほど重要なこととは読んでいません。もちろんそれを投稿者さんは「誤読」と言っておられるのですが、私は表面的なところをもう少し丁寧(かつ忠実に)読んだつもりです。

「もう誰の戦でもない。これは、ギルとしての――『自分』の戦だ」(9巻p.82)とオルバは言っています。ギルとしての『自分』とカッコが付いているのがポイントでしょう。「自分」とは誰なのか。ギルが自分なのか、オルバが自分なのか。作品に通底するのがその悩みです。事実、最初から「仮面」というのが、彼が「自分」をもてないことの象徴として、常にとり扱われてきました。(たとえば4巻末「少年はふたつの仮面を脱いだのだった」p.305 ※註は無粋かもしれませんが、ここでは「オルバ」も「ギル」も「仮面」として扱われている、というのが私の言いたいことです。仮面は本来一つですから、普通なら素顔-仮面という対比になるはずですが、そうなっていない。「彼は何者か」というのが、読者とオルバ自身に共有される問いであるはずです)

続く10巻の「いつからだ。そしていつまで、おまえは皇太子なのだ」(p.364)というパーシルの問いも、傍点が振ってあり、その答えを答えない(答えられない)という時点で、単に期間を問うているわけでないことは明白です。

この問いがオルバに対して持ったであろう意味をあえて言い直すなら、「おまえはいつから皇太子だったのだ? フェドムに影武者を言い渡された時からか? 皇太子が死んだ時からか? ビリーナを救った時からか? そもそも、お前は皇太子だったことがあるのか? そして、お前はやめたつもりかもしれないが、皇太子であったお前をやめることはできているのか? お前は、お前のかつての生き方を無かったことにできているのか?」みたいな感じでしょう。クドいですね。そりゃパーシルさんのような言い方のほうがカッコイイです。

で、このまま「3」の回答へ走りますが、私もオルバやキャラの心情に注目して読んでいるつもりです。

そもそもオルバは投稿者さんがおっしゃるような「王族に対する負の感情」とは少し違うものを持っていると、私は思います。単なる王族嫌いなら5巻でエスメナに呼ばれたときに拒絶反応を起こしても良いし、ロージィも別に王族だからと嫌ってはいません。むしろ、彼が嫌うのは殿を「誉ある任務」(5巻p.165)と言い切って死地へ向かうことや、「信念や武人としての誇り」(p.215)です。

これをオルバが毛嫌いするのは、作中描写では、かつて権力者によって酷い目にあったとか、王族が嫌いだからとかではなく、彼らのように何か信じるものがあって、常に確固たる「自分」を保っていられる人がまぶしく見えるからでしょう。それは、自分には無いものだと思っている。あるいは、自分とは相容れないものだと(オルバ自身は)思っているからです。

権力者への敵意は、むしろオーバリーへ直接向けられていて、その他の権力者には反意と同時に敬意のようなものも抱いています。それは、「徐々に変化した」という類のものではなく、最初からオルバの中にある。実際、その毛嫌いは憧れと裏表(ビリーナへの感情がそうであるように)となっています。

オルバの物語がビリーナに「自分」のことを語るという形に落ち着くのは、だから私の中では必然であると思う。アレは別に、王族もいいな、という単純な話だけではないはずです。彼自身の内面の成長というのなら、己は何ものかを探り当てた(あるいは、すぐ側にあった)ということではなかったか、と。

「いくらなんでも本編の描写と食い違い過ぎ」というご指摘だったので、ある程度具体的に(すぐ全部から引用は無理ですが、私なりにわかる範囲で)引用なども踏まえてお話をしてみましたが、いかがでしょうか。

私としてはそこまでおかしなことを書いたつもりは無く、私がこの作品を好きであるということにも疑いをもしもたれたのだとしたら、同じ作品を好きな者同士なのに、大変残念な次第です。

コメント欄には文字数の制限がございますので(これはいかんともしがたく、申し訳ありません)、ご自身のお考えを書ききれないこともあるかと思います。その時はコメントを複数なり、メールなり何なりでご意見お寄せいただければ幸いです。

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レビュー:『パパのいうことを聞きなさい!』10巻

ぱいこき10巻
松智洋『パパのいうことを聞きなさい!』10巻
(スーパーダッシュ文庫、2012年 イラスト:なかじまゆか)

というわけで、パいコキもとい『パパ言う』の10巻が発売されていたので購入。店舗ごとにメッセージペーパーが付くようで、メロンが莱香さん、アニメイトは空ちゃん、とらのあなが美羽様、ゲーマーズはひなだお! でした。私は莱香さん一筋なので当然メロン……だったのですが、とらのは4Pのリーフレットだということでとらでも購入。エロゲーと違ってラノベは特典の為に複数買いするのが楽で良いな! などと思う辺り、だいぶ調教具合が末期に来た感じがします。

『パパ言う』も10巻の大台にのったわけですが、特別なことも無く、いたって平常運転。これまでの巻同様、事件が起こり、祐太が奮闘して解決し、周りの女性陣が「キャー祐太さん、抱いてー」状態になるという安心のパターンでございました。……と思っていたら、最後に来て(私的には)結構ワクテカな展開が!! これは莱香さんの話が次巻以降動き出すのかと、期待に胸を膨らませています。ただヤングジャンプで連載中のコミックが露骨に莱香さん押しなので、本編では脇に押しのけられるのでしょうか……。

本巻は、冒頭で「普通」について祐太が色々と考え(自分は至って普通のつもりだけど、世間一般から見れば普通ではないのだろうな、という風に)、そういう彼らにとっての「普通」をおびやかすものとして、世間の偏見みたいなものがクローズアップされています。お話としては美羽がモデルにスカウトされるというところから入るのですが、祐太と三姉妹と一匹にとって、あるいはその周りの人びとにとっての幸せのありかたは何かを具体的に描こうといういつものパターンから微塵もズレていないので、既存シリーズのファンなら問題なく読めるのではないでしょうか。

ただ、さすがに少々マンネリ化してきたかな、という気もします。

この作品の持ち味は、いきなり美人三姉妹と同居することになった健全な大学生がどうなるのか、思い人・莱香との恋愛を絡めて描いていくというストーリー的な興味で引っ張りつつ、その中でもの凄く具体的なエピソードを重ねることで、登場人物たちの心情を描いていくところにありました。

推理小説であればプロットというかストーリー自体が目的であるし、キャラクター小説ならキャラクターの具体像が細かく掘り下げられていくことが面白いわけですが、そういう意味では本作は両者の中間。ストーリーで関心をひきつつ、キャラも掘り下げるという両輪を巧く回しながら、全体として何かテーマも見えてきそうな感じを漂わせていたと思います。

ただ、飽和気味だったヒロイン勢にお隣さん(栞)やら大学の同期生やら、挙げ句人妻(サーシャ)まで加わったことで、ストーリーの方はかなりカオスに。恋愛模様というのは『めぞん一刻』が良い例である程度シンプルなほうが緊張感が出やすくて良いと思うのですが、ハーレムにしたいのか誰かに軸を置きたいのか(一応空ちゃんなのだろうとは思います)段々見えなくなってきて、ちょっと停滞気味。

一方のキャラクターの掘り下げも、たとえば今回でいえば美羽の具体的なエピソードとしては「美羽らしい」ものでとてもよかったのですが、逆に言えば「美羽らしい」と思える時点で、新しい発見は少なかった。この作品、かなり早い段階で多くのキャラが固まっている気配があったし、アニメ化を経たせいか最近とみにその傾向が強い。そんな中で、既存のイメージを固めるようなエピソードが並ぶというのは、今後の伏線的意味合いもあるにせよ、ちょっと退屈に感じる部分があったことは否めません。

そのぶん、何か動き出す感じを最後に漂わせた莱香さんのあの反応が目立って良かったし、期待は高まっていますけど! いずれにせよ、ストーリーの進展か、キャラクター像に何か変化を加えるようなエピソードを投入するか、10巻も続くとそろそろどっちか欲しい時期なのかなぁ。いっそ、新キャラで2、3人女の子を増やして祐太と絡ませて、収拾のつかないバタバタハーレムになっても面白いかなと個人的には思います。売上には繋がりそうにないですが。

ともあれ、安心安定の巻でしたということで、次巻以降も期待したいところ。それでは、本日はこの辺で。また明日(*・ω・)y-~~~

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レビュー:『僕と彼女のゲーム戦争』3巻

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師走トオル『僕と彼女のゲーム戦争』3巻
(2012年、電撃文庫 イラスト:八宝備仁)

電撃文庫5月の新刊を購入。今月は『僕と彼女のゲーム戦争』。1冊だけです。非常に楽しみにしているシリーズなので、ウキウキで買いに行ってさくっと読み終えました。

順調に1人ずつ部員を獲得している、伊豆野宮学園現代遊戯部。本巻では、ずっとひっぱられてきた健吾の幼なじみ、「みやびちゃん」こと鷹三津宮美(たかみつ・みやび)が部員に加わります。表紙のメガネっ娘ですね。当然、巨乳です。巨乳です巨乳。大事なことなので3回言いました。

実は彼女にはある秘密? があって、それが今後の展開に色々効いてきそうな気もしますが、今回はあんまり出番無し。前回天然のジゴロっぷりを発揮してまどか(杉鹿)をメロメロ……とまでは行かないまでも、ツンデレ状態にせしめた健吾くん。今回は宮美にも魔の手を伸ばし。そんなこんなで激化する健吾くん争奪戦に、一切割り込む気配がない天道部長。しかし健吾くんは天道部長にぞっこん状態なので、まどかと宮美が哀れすぎて涙がちょちょぎれます。

私的には、隠れキャラの仁科さんが今後絡んでくるのかなと思っていたら、何とビックリ、余所の学校(女子校)の女の子たちが出てきました。その名も、駿河坂学園電子遊戯研究部。なげぇ! 文字数稼ぎじゃないかと疑ってしまいますが、さすがに邪推でしょうか。天道たち現代遊戯部に対抗意識を燃やしまくり、絡む気満々なので、今後間違いなく健吾くんの毒牙にかかると思います。少なくとも、師走氏の過去作品(『火の国、風の国物語』とか)の流れだと、9割がた。たぶん部長の一条さんですね。ワクワク。

恋愛モードを抜きにすれば、注目すべきは宮美の「セガ信者」っぷり。曰く、「モンハンはPSOの後発」。曰く、「鉄拳はバーチャの後発」。表紙絵に往年の名機が描かれていたことから何となく想像はしていましたが、こいつぁ筋金入りのが来たな! という感じです。セガハードの黄金世代と青春がオーバーラップしているOYOYOとしては、思わずニヤリ。そのうち、『バーニングレンジャー』なぞやってくれないかと胸がときめきます(バーニングレンジャーの歌はすごく良いですよね!)。

なお本巻では、『ガーディアンヒーローズ』、『ファミリーフィッシング』、『エースコンバット(AH)』という3作品が取りあげられていました。特に『エースコンバット』は戦術・戦略の話が面白くて読み応えアリ。チーム戦の醍醐味が味わえる、非常に良い展開。これでいけるなら、『AoC』や『Civ』あたりも将来取りあげてほしいなあと思ったり。終わり方を見ると次回は格ゲーにいくのかな、という感じですが、アクション要素の濃いものだけでなく、戦略要素が高いもののほうが個人的には面白く読めそうでした。『火の国、風の国』が戦記系だったから、師走氏のタクティクス描写を読み慣れている影響もあるのかもしれませんが。

健吾くんがおっぱいサンドになっていたり、また着替えシーンに遭遇したりと恵まれすぎで憎しみで人が殺せそうになった以外は、非常に楽しく読めました。物語としては全然進展していないような気もしますが、進展してなくてこの面白さなので、今後話が転がり始めたらどんなに楽しいか、期待が高まります。相変わらず八宝先生の絵は綺麗で可愛くて柔らかそうで最高だし、もう言うこと無し。

というわけで大変満足した本巻。買って損無し。それではまた明日お会いしましょう。

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ラノベ:電撃文庫の新刊(2012年4月)を購入した話

というわけで、しばらくぶりにラノベの話。といっても今回は、購入報告と一言感想。

まず、アニメも始まって絶好調、『アクセル・ワールド』の11巻。

axl11

すみません、まだ読んでません……。でも前回いいとこで終わってるので気になる! 休みの間に読み切りたいと思います。

続いて、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』の10巻。アニメの二期が決定しましたね。

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京介が両親から桐乃との関係をあやしがられ(その昔、桐乃の所持していた「アレ」に関する泥をかぶったツケがここにきて来てしまい、変態視されます)、受験勉強もかねて一人暮らしをして勉強に集中。成績を上げるようにといわれる話。普通、親の心理としては、成績のことを考えると一人暮らしはありえないと思うのですが、今回は桐乃から遠ざける、というのがメインだったということでしょうか。そして、まさかの「彼女」からの告白――。

正直私は今巻のヒロイン大好きなのですが、もう完全に停車することはないだろうと思って諦めていたので非常に嬉しい展開でした。ヒャッホウ! この調子でいくと終点ではないだろうというのも想像がつくものの、廃駅寸前だったところに新幹線が停まったみたいなもので、大変満足しております。ただ、似たようなパターンを続けたぶん、なんとなく先が見えるのがやはり残念といえば残念でしょうか。この「予想」が良い意味で裏切られることも、秘かに願っています。

そして、『さくら荘のペットな彼女』7巻。

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こちらも一気にクライマックス! ……ではないのかもしれませんが、これまでなぁなぁだった関係が急速に進展し、緊張感がぐいーんと高まってきました。アニメ化も決まったようで、なんか今回買った三冊、全部アニメ絡みじゃないかと我ながらミーハーっぷりに愕然としましたが、全部もともとひいきにしていたシリーズ。とびついただけのにわかというわけではないので良いのです、多分(いやべつに、にわかでも良いんですが)。

ましろも七海もライバル意識丸出しで、恋の鞘当てとしては最高潮の盛り上がり。お互いが空太に告げる台詞が、良い感じにゆがんた対称(変な言葉ですが、読んでもらえれば何となくニュアンスは伝わるかと)になっていて面白い。私としては七海を応援しているのですが、ことラノベに関しては私が応援するキャラはほとんどが負けるのがお約束なので、一踏ん張りしてほしいところ。……というか負けそうなほうを応援している気もします。

今回、ましろから空太に放ったのが心臓をえぐり込むコークスクリューブローだとしたら、七海から空太に放ったのは、何のひねりもない右ストレート。かわされるかもしれないと覚悟して、それでも愚直に放つ一撃に、私は憧れます。ほんま、七海はええ子やで……。あ、七海といえば『明日の君と逢うために』の七海美奈さん(※)を思い出します。彼女も恐ろしく良いキャラ。名字ですが。
(※)…Purple Softwareから発売されたPCアダルトゲームのサブヒロイン。Hなし、ルート無しの完全脇役だったが、人気投票で堂々の一位を獲得するなど余りに良いキャラで、後に彼女をヒロインとした『明日の七海と逢うために』というスピンオフ作品が発売された。
と、電撃新作からは以上三作。最近、ちょっと購入量が減っていますね。

あとは、新紀元社から出ていた「Truth In Fantasy」シリーズ(ファンタジーの資料集みたいなものです)が文庫になっていたので、がっつり買いました。特にお薦めは、須田武郎『中世騎士物語』でしょうか。

chuuseikisi

ブルフィンチの『中世騎士物語』とは違います。あちらも名著ですが。ヨーロッパの文化・芸術を理解するうえで欠かせない素養として、まず神話が、次いで騎士物語が重要である、と言ったのが確かこのブルフィンチという人だったと思います。それと奇しくも(というよりはおそらく併せてきたのだと思いますが)同じタイトル。資料集といっても絵と図で埋め尽くされているわけではなく、当時の様子についてきちんと細かな解説が書かれていて、読みものとしても、参考書としても役に立ちます。新紀元社のTIFシリーズには、素人の私からしても「えー、これでいいの?」みたいな本が時々ありますが、本書に関してはかなり良い感じ。

ついでに、新刊ではありませんが気になっていた『桜色の春をこえて』も購入。こちらもまだ読み切れていませんが、表紙を見て結構面白そうなニオイがしたので。ヒットしていたら、また何か感想的なもの(笑)を書くと思います。

sakuraironoharu

といったところで、本日はこれまで。しかし、雨だのなんだので本当に桜が散ってしまいましたね……。先週お花見しておいて良かった。

それでは、また明日お会いしましょう。

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レビュー(ラノベ):冴木忍『メルヴィ&カシム』

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冴木忍『メルヴィ&カシム』1~6巻
(1991年~ 富士見ファンタジア文庫 イラスト:幡池裕行【1,2】→竹井正樹【3~6】)
シリーズ一覧
『幻想封歌』:1991年
『銀の魔女』:1993年
『いかなる星の下に』:1994年
『未来は君のもの』:1995年
『明日はきっと晴れ!』:1996年
『六花の舞う頃に』:2000年

以前紹介した『カイルロッド』の作者、冴木忍さんのデビュー作。それが、『メルヴィ&カシム』です。また古い本、しかも未完というダブルパンチで需要が低い気もしますが、こういうほうが逆に新しいだろう! という意味のわからない言いわけをしつつ、紹介させていただきます。

全世界に名を轟かす大魔法使いメルヴィと、その弟子・カシムが主人公。語りは、カシムの一人称です(冴木氏の作品の中では結構めずらしい)。魔法使いというのは基本的に誰かの依頼を受けて厄介事を解決するなどして生計を立てており、メルヴィは容姿端麗なうえに並ぶもの無しの実力者。さぞや繁盛しているだろう……と思いきや、二人は毎日塩スープ(要するに具が無い)をすするしかないような貧乏ぐらしを強いられていたのでした。

それもこれも、原因はメルヴィ。なにせ、傲岸不遜、美女には優しいが男に対してはゴミ以下の扱いというフェミニスト。ひとたび動けば強大な魔力で気に入らないものを全て吹き飛ばすというありさま。おかげで、轟くその名は悪名ばかり。依頼人もほとんど来ない。曰く、「依頼しに行くときの暗い表情が、帰る時はさらに暗くなる」、「最悪が二乗になる」、「依頼しないほうがマシ」……。本当にどうしようもなくなって、大博打に出た人か、とんでもない陰謀にメルヴィを利用しようとする人しか依頼には訪れない、という状況。カシムはそんなメルヴィに拾われて弟子入りしたものの、魔法は一切教えてもらえず、専業主夫として家事にいそしむ毎日を送っているのでした。

そんなメルヴィ一家ですから、ひとたび依頼が舞い込むと、さぁ大変。とんでもなく厄介な依頼だったり、とんでもなく胡散臭い依頼だったりと、行く先行く先で金田一少年やコナン君も真っ青のトラブル連発。基本的には全てメルヴィが解決するのですが、その過程で、「なんでもできる」魔法の力というのが決して無邪気に幸せをもたらすものではないということや、魔法では解決できない(してはいけない)問題があるということなどをカシムが学び、少しずつ成長していく、という物語です。

シリーズものではあるのですが、基本的に1話完結の物語が続いていて、全てを紹介してもうっとうしいだけ(私としては苦痛ではないのですが)でしょうから、デビュー作である『銀の魔女』(単行本2冊目ですが、第一回ファンタジア大賞で佳作をとったのが『銀の魔女』)のお話をしておきましょう。

発端は、都市国家《青の都》の大臣からの依頼。王子二人による王位争いのさなか、シルディールという謎の美女が突如あらわれ、王の遺言状と王冠を手に王位を簒奪。王子ともども大臣をたたき出した……。と、そこまで聞いたところでメルヴィがぶち切れ。「お家騒動なんぞにつきあってられるか!」と、大臣を殴り飛ばし、酒場を吹き飛ばしての大惨事。挙句の果てに大臣のふところから金銀宝石を盗んでいたということで警備隊に囲まれ、あわや大捕物の大ピンチに。その後なんだかんだあって、シルディールに面会したカシムは、《青の都》にまつわるある大きな秘密と、彼女の意外な正体を知ることになるのでした。

50ページほどの短編で、(加筆修正されているとはいえ)デビュー作。テーマ先行というか、途中経過や心理描写がすっとばし気味で唐突なのは否めません。他の作品や、2巻に収録されている「月の雫の降る都」や「君に吹く風」と比べても、完成度はやや劣るというのが正直なところです。

しかし、それにもかかわらずなのか、それゆえになのか、後半怒涛の展開に含まれるエッセンスは、いかにも「冴木節」という感じ。全てを見届けた後のシルディール。カシムの叫び声。そして、「俺だとて夢をいつまでも残してはおけん」という、メルヴィの重く、悲しい一言。

人は誰もが、どうしようもないできごとに直面して、どうしようもない想いを胸に生きて、結局どうすることもできないままに死んで行く。冴木忍の描く世界は、そういうやりきれないキャラクターたちが大量に出てきます。本作には、そういう「冴木ワールド」のエッセンスが、びっしりと詰まっている。

昨今のエロゲーだったら、「鬱エンド」とか言われていたかもしれません。けれど、『メルヴィ&カシム』が人気なのは、鬱だから、というわけではないでしょう。多くのレビューが「悲しくも美しい」という表現を好んで用いているように、この物語は、どこかで「救い」があって、綺麗に落ちがつく。確かに悲しくて、哀しくて、やりきれない想いが渦巻くのだけれど、どこかでこのキャラたちは救われたという感じがする。

それ(救われた感)はたぶん、メルヴィが「なんでもできる」魔法使いと称されているからこそ、それでもどうしようもないできごとを前に本気で苦悩していることと、無力なカシムが自分の無力と世の理不尽に対して本気で嘆き悲しんでいることとが、読んでいる私たちに伝わるからだと思います。カシムやメルヴィは、きっとこのどうしようもないことを、ずっと覚えているだろう。そして、読み手である私たちも同じように、このできごとを悲しみ、記憶にとどめておこう。そう思えるということが、作中のキャラクターにとって何よりも強い慰めや救いになるのだと思います。

ここまでしてきたような説明からだとちょっと青臭いというか、冴木作品の引力が劇的に働く年代というのは、思春期の真っ只中という印象をうけるかもしれないのですが、そんなことはありません。私自身の経験で言えば、昔はカシムやメルヴィに重ねていた想いを、いまは依頼人のほうに重ねて読むことができる。違った視点で読むことで、また違った面白さが見えてくる作品です。

今回は『メルヴィ&カシム』のお話でした。一部同年代のオッサンとか、コアなファン狙い撃ちと言われそうですが、実際その通りなので言いわけはしません。でも、手に入るならぜひ読んでみてほしいなーと思います。富士見さん、復刊してくれませんか……。というか、続刊はもうでないかなあ(泣)。

というわけで、本日はこれにて。また明日、お会いしましょう。それでは。

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レビュー(ラノベ新刊):『おまえをオタクにしてやるから、俺をリア充にしてくれ!3 』

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村上凛『おまえをオタクにしてやるから、俺をリア充にしてくれ!』3巻
(2012年 富士見ファンタジア文庫 イラスト:あなぽん)

ファンタジア文庫の新刊が発売されていたので、購入。楽しみにしていた『おまえをオタクにしてやるから、俺をリア充にしてくれ!』の続きが出ていました。早速読了。今回かなり薄くて、流して読んだら1時間ほどで終わってしまい、もう1周。じっくり読んでも(途中で恥ずかしさのあまり悶えるとかしなければ)2時間かからないと思います。

まだシリーズが始まったばかりということで、これから読もうかと考えている人もおられるかもしれませんから、簡単に2巻までのあらすじを説明していきましょう。オタクの主人公・柏田直輝は高校で「リア充」になろうと決意。オタク趣味をひた隠し、あれこれチャレンジしようとはするものの、どれも「思う」だけで実行に移せず、思い切って行動すると全部的外れで空回り。思い人の長谷川さんに想いを告げることもできず、悶々とした日々を送っていました。

ところが、ふとしたきっかけで超イケメンにして重度のアニヲタ・鈴木くんと仲良くなった直輝。それが縁となって、鈴木に惚れている美少女の恋ヶ崎桃と親しく話すようになります。桃は、直輝が最も苦手とするギャル系女子で、直輝曰く浮ついた「ビッチ」かと思いきや、実は色々斜め上の方向に勘違いをしているだけで、実は清純派のお嬢様。気性が荒いのが玉に瑕だけど、面倒見も良い「女の子」でした。

で、二次元にしか興味のない鈴木を振り向かせるべく、直輝は桃がオタクになる協力を。逆に桃は、直輝が長谷川をゲットできるよう脱オタ指南をするという協定を結びます。その後は色々あって桃と鈴木・直輝と長谷川がうまくいきそうだったり駄目だったりしながら物語は進行。2人に桜井小豆というコスプレ大好き巨乳少女の友人が出来たところが2巻までの概要。

本巻は、いよいよ直輝が長谷川とデートします。

詳しい内容には触れませんが、なかなか良い感じになったり、思ったより進展しました。小豆と直輝の関係もはっきりしてきましたし、長谷川さんの「意外な」(むしろ読者からするとほぼ予定調和ですが、直輝的には意外な)過去も少しずつ見えてきた。ほとんどが点線だった人間関係が、実線で描かれる部分が増えてきた、という感じです。

今回の直輝は、桃・小豆らと夏コミに出かけたり、クラスの花火大会にでかけたりと、一気にレベルアップ。前回はスライムを倒すのもやっとだったのが、今やキラービーくらいなら瞬殺できるのではないかという成長ぶり。相変わらずヘタレてはいるのですが、モテ期到来を予感させる、ニヤニヤ巻でした。

構成としては、これまで曖昧だった桃以外のヒロイン・長谷川と桜井の2人と直輝の距離感をやんわりと固めてしまおうという形だったと思います。桃と直輝との関係は最後の方まではっきりさせるわけにはいかないでしょうから、脇で釣るパターン。セオリー通りですが、それだけに揺るがぬ面白さがあります。ついでというと失礼ですが、直輝の妹、あかりも色々態度がはっきりしてきて、これは今後台風の目も期待して良いのでしょうか。全然関係ないですがあかりちゃん、p.75のパンチラがヤバいです

気になる新キャラ、同人作家のムラサキさんも登場。私としてはカラオケボックスのあの人の関係者じゃないかと思っているのですが、どうでしょう。完全MOB気味のくせになぜかイラストがあった渡辺さんともども、今後の出番に期待ですね。

最後はまたちょっと気になる終わり方。恐らく一悶着したあと、実は妹だったとか従姉妹だったとかいう話になりそうですが、次巻は桃の恋が描かれる巻になることが予想されます。なかなか楽しみなヒキでした。「非常にちょうど良かった」とか「受容がある」(需要)のような微妙な表現、誤字などが散見されましたが、まあ許容範囲。総じて良い巻だったと思います。

さて、3巻の話はこの辺にして、ちょっとだけ作品全体についての話を。

あらすじでおわかりの通り、本作は『とらドラ』と『俺妹』と『はがない』を足して割ったような感じがします。その辺は発売当初から、ネット界隈で言われていました。私も、そんな印象を受けます。

ただ、そういう有名作品群から本作を区別できるものがあるとすれば、ひとえに主人公・直輝の「痛々しさ」に尽きるかと思います。京介はもともと常識人という設定ですし、竜児も思考回路はマトモ。顔面のせいで差別迫害されているといっても、直接そういう描写はほとんど無いし、作品の中ではイケメン主人公と大差なし。小鷹は確かに残念な奴ですが、周りに更に残念無双している連中がわんさかいるせいで、相対的に真人間に見える(※)。

ところが直輝は、間違いなく作品内で差別迫害されているし、一番の非モテキャラ。考え方の後ろ向きさ加減なども割と等身大に描かれていて、笑えると同時にちょっと身につまされて痛い(とくにオタクには)ところがあります。女の子の反応に一喜一憂したり、メールの返事の仕方一つでうんうん悩んだり。もちろん物語用にデフォルメされていますが、最もかっこわるくて、でもだからこそ応援したくなる主人公が出てくるのが、この作品でしょうか。複雑に絡んでくる恋愛模様もそうですが、直輝の心の揺れ動きを見るのが楽しい作品ですね。

高校生であるにもかかわらず主人公がエロゲーしますし、あとクラスメイトが飲酒する場面が出てきたので、そういうのが気になる人は(あまり居ないとは思いますが)ご注意ください。このご時世になかなか思い切ったことをやるな、と個人的には賞賛したい気持ちもありますが、エロゲーはともかく飲酒のほうは、作品的に必然性が無いばかりか、これまで描かれてきたプラトニックな恋愛を「酔った勢い」に転換することにもなりかねない、マイナス要素の方が多い仕掛けだったと思うので、使うならもっと効果的に使って欲しかったです。ご時世を考えればせめて、苦情が来たときに「作品にどうしても必要だから」と突っぱねられるような使い方が求められるかもしれません。

目下の不満としては、単に「リア充」の象徴として、直輝の真逆という相対的ポジションのキャラとしてしか描かれていない鈴木くん。彼が、今後どのくらいスタンドアロンに動くのかがポイントでしょう。三角関係になるのか、我が道を行き続けるのか……はたまた、別の女性があらわれるのか。期待したいと思います。

と、言ったところで本日は失礼します。それでは、また明日。
(※)…小鷹の場合は「リア充」の要素が恋愛ではなく「友達」なんですよね。この辺は『はがない』最新刊でどうして「恋愛」関係を嫌うかという話が出てきて、『はがない』的には消化されそうですが、普通にリア充の定義としてモテ要素が入っているぶん、直輝の場合は非モテ的痛さが増幅されています。


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レビュー:『彼女(アイドル)はつっこまれるのが好き!』6巻

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サイトーマサト『彼女(アイドル)はつっこまれるのが好き!』6巻
(2012年 電撃文庫 イラスト:魚)

先日購入した『彼女はつっこまれるのが好き!』6巻の感想をちょこっと。さすがにネタバレをするわけにはいきませんので、なるったけ内容を明かさないように、でも感じは伝わるように書きたいと思います。6巻なのでさすがに、既刊は読んでいるという前提で、でも5巻読んでない人がいたら困るのでその辺も配慮しつつ……と、前置きが長くなりました。さっさといきましょう。

結論から言うと、本巻ではストーリーはあまり進展しません。前回トラブルの種となった「事件」の張本人であり、まどかを「お姉さま」と呼ぶくせ、妙に突っかかる中学生声優木立陽菜乃とまどかがひたすら絡む会。良人とまどかの進展……を期待していると、わりと肩すかし。しぐれさんもほとんど出てきませんし、流星さんにいたっては完全謹慎状態。いわゆる停滞巻というやつです。

ただ、それじゃあ捨て巻かというとそんなことは無さそう。まどかパパの秘められた過去が伏線的に顔を覗かせるし、陽菜乃は今後も何かと絡んで来そう。何より、最後にはとんでもない大事件が待ち受けて次巻へ続く、ということになっていました。ただ、その事件自体は全く明かされていないので、すっとばして7巻を読んでも特に問題はなさそう。今後の陽菜乃の出番や、源太さんの過去はどの程度本編に絡むかわからないので、この巻の位置づけは正直、続刊が出てから振り返るしかない。だから、「そんなことは無さそう」という自信のない言い方になりました。

一応、陽菜乃とのやりとりの中でまどかの声優業に対する考えが語られたりはしますが、良人の見せ場も(まどかに対しては)少ないし、現状、陽菜乃と良人が接近して恋の鞘当て……のような気配も無し。レギュラーキャラの出番も少ないと来れば、いささか盛り上がりには欠ける部分があります。そのぶん、まどかの高い理想やしっかりした考えが、同じ声優業の後輩との対比によってきちんと描かれている……とも言えるのですが、それは既刊でも充分になされてきた範囲。

結局、今のところは陽菜乃というキャラの紹介と、次回への橋渡し的役目を果たした巻という評価しかしようがありません。別に面白くなかったということはないのですが、ちょっとパンチは弱かったと思います。

とまあ、今回はそんなところで。それでは、また明日。

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電撃文庫の新刊購入

電撃文庫3月の新刊、購入しました。といっても、今月は3冊のみ。

竹宮ゆゆこ/駒都えーじ『ゴールデンタイム』4巻
岩田洋季/涼香『花×華』5巻
サイトーマサト/魚『彼女はつっこまれるのが好き!』6巻

どれも楽しい作品ですが、起承転結の「転」にあたる巻になりそうな感じが漂っています。いや、『彼女は~』はそうでもないのか……とにかく、楽しみにしています。

今月は『ココロコネクト』の新刊も出ていたし、他にもいくつか読みたいのが出ますが、全体では10冊以内に収まりそう。そのうち、ぽつぽつと感想など書くかもしれません。

ちなみにいま、電撃で一番楽しみにしているのは『烙印の紋章』なのですが、もうすぐ終わりそうな感じがぷんぷんと……。もう10巻だから続いたほうかもしれませんが、最初の風呂敷がすごく大きかったし、使い切ってないキャラがたくさんいるから是非続いて欲しいなあ。『偽りのドラグーン』の(事実は知りませんが)余りにも見事な「俺たちの戦いはこれからだ」的な「畳み方」を見てしまった後では、不安にもなってしまいます。

ともあれ、今月はラノベのほうでファンタジー系が全くないので、『VENUS BLOOD FRONTIER』で補充しようと思っていたのですが、まさかの延期! どうしようかなあ……。逆にこういう機会に、本屋さんをぐるっとまわって面白そうな本を物色したいなあと思っています。

思春期を、ネットの無い状態で迎えたせいでしょうか、Amazonなどで「お薦め本」を探したり、サイトさんを巡ったりというのは確かに便利だし私もよくやるのですが、一番楽しいのは、「こんな感じの本を読む!」と決めて、本屋さんで本を物色している時だったりします。

私は「絶対面白いもの」を読みたいだけでなく、そうやって自分にとって面白そうなもの、自分が読みたい物語がどんなものなのかを探すというプロセスも、本を読むという行為の一貫であると考えています。

だからでしょうか、タイトルを見て、カバーを見て、後書きを読んで、吟味する。それがとても楽しい。「こんな感じの本」というイメージ(たとえば今回なら、「ファンタジー」)と決めていても、その中味というのは、意外と固まっていません。勇者が大活躍する話が良いのか、孤独に旅をする話が良いのか、ドロドロした宮廷政争ものがいいのか、戦記ものが良いのか……。そういう決まっていない細かい部分を、実際に本を眺めながら、ちょっとずつ形にしていくのは、私にとって、時間をかけるに値する行為なのです。私にはあまり縁がないのですが、ウィンドウショッピングを楽しむというのも、案外こんな気持ちなのでしょうか。

ただ、品揃えが良くてもアニメイトでは本を保護するために、ビニルカバーがかかっていますが、あれだと後書きを見たりすることができないんですよね。そこで、行き先はジュンク堂とか三省堂とか紀伊国屋とか、書泉とか。その辺の本屋さんにでかけて、何時間も本棚を行ったり来たりする。昔はいつでもとれた、そういう贅沢な時間を、久々にどこかでとってみようかな、などと思いました。

というわけで、本日はこの辺で。それでは、また明日。

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書評:『風の白猿神―神々の砂漠』

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滝川羊『風の白猿神―神々の砂漠』
(1995年 富士見ファンタジア文庫 イラスト:いのまたむつみ)

▼イントロ
再び、古いファンタジー小説です。ジャンルとしてはSFに分類されていますが、ファンタジーとSFの中間くらいでしょうか。先日紹介した『カイルロッド』がメジャーな中でもマイナーな部類だとすれば、こちらはおそらく、マイナーな中でメジャーなタイトル、という感じ。滝川羊『風のハヌマーン』です。白猿神と書いて、ハヌマーンと読みます。今だと「厨二」と言われるかも知れませんが、当時はカッコイイ! と憧れたもの。イラストのいのまたむつみ氏もまた、凄く良い絵を描いておられます。

第六回ファンタジア長編小説大賞受賞作なのですが、どうもこの作品の受賞に対して、物言いがついたそうです。

実はこの物語、きちんと完結しておりません。一応「オチ」はついているものの、いろいろと消化不良の部分が残る。もちろん、それを含めての見事なヒキなのですが、「読み切り一本勝負」の原則に沿わない、「完結していない作品に大賞を与えていいものか?」という問題が起きた。それは、この作品を読めば、なるほどと思うはずです。

読者からすれば、面白ければ何でも良い。それはそうでしょう。けれど、選考委員からすればそうはいかない。なぜなら、募集してきた他の作品に対する公平性が問題になるからです。そのことを巡って議論をした当時のファンタジア文庫編集部は、非常に良心的で立派だと(今がそうでないという意味はまったくありません)思います。そして、最終的にこの作品に大賞を与えた英断は、もっと素晴らしいと思います。

この作品以降、第14回の『12月のベロニカ』まで8年間、ファンタジアの大賞を受賞した作品は無かったというのですから、編集部が決して生半可な気持ちで(ありていに言えば、セールス目的で)選んだのではない、ということはおわかり頂けるはず。

巻末に掲載されている、火浦功氏の紹介文の冒頭を引用しておきましょう。
ページをめくらせる力。
続きを知りたいと渇望させる力。
小説の戦闘力とは、つまり、そういうことだ。
断言しよう。
この『神々の砂漠』こそは、まさに、そういった意味での、正しい戦闘力に、満ちあふれた作品である!

言葉の一つ一つ、読点の一つ一つに、もの凄い力強さを感じる解説文。これだけで、この小説がどれだけ面白いのか、具体的には全く解りませんが、気持ちがひしひしと伝わってきます。私は、火浦氏のこの文章を読んで、購入を決意しました。そして、とても幸せな出会いを果たすことができました。

作者の滝川氏は学校の国語の先生で、本作が完全な処女作だったということですが、そうとは思えない構成と、しっかりした文章で、私たちを物語へひきずりこんでくれる。結局、この後続刊が発売されることは、諸々の事情により無かったのですが(本当に残念です)、90年代ファンタジー小説の傑作のひとつだと思います。

▼あらすじ
人類と〈機械知性〉とが死闘をくりひろげた〈聖戦〉から百年。壊滅した東京シティの数少ない生き残りである少年・古城宴(こじょう・えん)は「大槻キャラバン」の一員として、戦闘空母・箱船の搭乗員となっていた。メカニック見習いとして活動する宴は、ある日仲間と行っていた発掘作業で、「神格匡体」を掘り当てる。人間の想像力を現実化し、神話の神々を顕現させる究極の兵器・「神格匡体」。それを掘り出した興奮さめやらぬうちに、宴は更に驚くべき発見をする。なんと、その匡体の中には、記憶を失った少女・シータが眠っていたのだった。宴は、少女を助けるため匡体を操る。すると匡体は、美しい白猿神(ハヌマーン)のシルエットを形作り、驚くべき力で敵を打ち倒したのだった。この匡体は何なのか。そして「発掘」された少女は何者なのか。二つの謎との出会いが、宴と大槻キャラバンを、大きな戦いの渦の中へ巻き込もうとしていた。

▼紹介
「シータ」という名前から察しが付く人もおられるでしょうか。滝川氏本人が「ガンダム」と「ラピュタ」を基本路線とした、と言っておられる通り、巨大ロボを操る主人公が、地中から発掘した少女を守りながら、彼女と彼女の秘密をつけねらう謎の組織と戦う話。ただし、ムスカ大佐役はもうちょっと物わかりが良くて、しかも美人のおねーちゃん・焔光院香澄さんです。

この作品、とにかく「謎」が多いのですが、その出し方がまた巧い。次から次へと謎が積み重なっていくにもかかわらず、全然混乱することなく読めるし、その謎同士が繋がっているにおいがプンプンして、進めば進むほどに興味がわいてきます。

そして、宴が操る美しい匡体、ハヌマーン。宴をヒーローたらしめている切り札なわけですが、どうもコイツが一筋縄ではいかない。何か重大な秘密がある様子。しかも、シータとセットになって、宴に禍をもたらすのではないか――そういう暗い雰囲気が漂っています。

作品自体が未完成で、それらが一体何だったのか、明かされることはついに無かったわけですが、そのことを補ってあまりある――あるいはその未消化の部分をも魅力にしてしまうほどの――迫ってくるような勢いを感じます。

文章が洗練されているかといわれれば、そんなことは無い。構成だって、先ほどは褒めたのに何だと思われそうですが、一流のプロと比べれば、そりゃあ粗が目立ちます。

けれど、この作品にはそういう技術的なことを超えた、何か熱い魂のようなものがある。少なくとも当時これを読んでいた多くの読者は、それを感じることができたのだと思います。

素敵な作品と出会ったとき、ワケもなく興奮して、あたりを歩き回ったり、叫びたくなったり、いてもたってもいられなくて、何だか身体を動かしたりものを握りしめたりしてしまう。そんな経験が、誰しも一度や二度はあるのではないでしょうか。滝川氏自身は、そういった経験を次のように述べておられました。
良質のお話を読んでいると、ときどき震えが来ることがあります。肋骨の内側から背中を通って脳髄のあたりまで、つめたいもんがピーンと疾るんですな。症状が凄いときには両腕にまで感染します。すっげえやあ、という感動の震えと、十年経っても追いつけないやあ、という悔しさの震えが背筋を何度も往復します。で、ベッドの中で一晩中、身悶えすることになるんですな。バカだから

このような感情に、理屈をつけようと思えばたぶん、つけることができるのでしょう。面白さはここにあるのだ、と鮮やかに分析してみせることができれば、多くの人にこの本の魅力が伝わるのでしょう。けれど、残念ながら私はそのような分析をする力も無いし、また滝川氏のように悔し涙を流しながら、何かを創作しようという意気込みを持つこともできない人間です。

ただ震えが来たところで喜んで止まってしまう私としては、だから、こうして拙いながらも「面白かったと思った」ことを書きつらねるしかない。それが私にできる表現であり、この作品に対する感想の、ひとつの形です。

もし興味を持たれた方がおられたら、是非何かの機会に読んでみて欲しい。もしかすると全然面白くないかもしれないけれど、ラノベ一冊ですから、コストは1000円ほどのお金と、2、3時間程度。うまくいけばそれで、もの凄く魅力的な物語の世界と出会うことができるかも知れません。

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《自己紹介》

エロゲーマーです。「ErogameScape -エロゲー批評空間-」様でレビューを投稿中。新着レビューのページは以下。
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