ここ数ヶ月ほど、「なろう」小説(小説投稿サイト「小説家になろう」に投稿されている小説)を読みあさっていました。前から話題作はちょくちょく読んでいたのですが、青田買い的に「注目作」みたいなやつにもどんどん目を通していく感じで。

噂に違わず、主人公は現代の人間が記憶を引き継いだり、特殊な能力を与えられて別の世界でやりなおすという、いわゆる「異世界チート」ものが多いです。あるいは「なろう」という場にはそういう小説を求めて集まってくる人が大半なので、そこで読まれる&話題になる作品には異世界チート属性がついている、ということなのかもしれませんが。

なぜ異世界チートものが流行るのか、という分析についてはいろいろなことが言われていますし、また社会反映論的に分析するのが非常にやりやすい素材(たとえば、「楽にハイスペックになりたいというのが、働きたくない・努力したくないという願望のあらわれだ」とか)だとは思うのですが、この辺は言われているほど単純な話ではないと思います。異世界ものというのはずいぶん昔からあったし、そこでの「チート」も、何でもかんでも万能、厨ニ病的に何をやってもうまくいきます、みたいなのは案外少ない。むしろ、チート能力を持っているのに悪戦苦闘する、という話のほうが、わずかながら多いようにも(私が読んだ限りでは)思われました。

そういうパターンの物語では、「チート」は単にご都合主義的な展開の材料ではなく、主人公に何らかの突出した能力を与えるための合理的な説明になっています。たとえば、現代日本から転生したから計算能力が高くて商売に成功するとか、科学の知識を使って新しい兵器や戦術を導入するとか、無神論・平等主義の考え方で古い因習を打破するとか。それは、英雄譚の「幼い頃から山の中で育ったので身体能力が高い」みたいな話と同様の、便利な理由付けの一種だという側面がまずはあると思う。その辺すっとばして、書き手や読み手の傾向性の問題にするのはちょっと早計ではないかなぁ。

とまあ、その辺の話はおいといて、今日はその中で私が結構注目していた、横塚司「ぼくは異世界で付与魔法と召喚魔法を天秤にかける」(15禁)という 作品についてのお話。

とある事情でいじめられていた少年が、いじめていた相手を殺してやろうと落とし穴を掘って校舎裏に相手を呼び出して待ち構えていると、なぜかオークがやってきて穴におちたので、火をつけて燃やした……みたいな話から始まります。あ、ギャグじゃないですよ。いたって真面目な話です。私の紹介が悪いだけで。

要は、気づかない間に異世界に飛ばされてしまい、人を殺すための準備でオークを殺した主人公は、その偶然によって「レベルアップ」に成功し、戦う力を手に入れます。そして、たまたま近くでオークに襲われていた少女を、打算によって助けてしまう。それがきっかけとなって「英雄」になっていくという話。

ちなみに、主人公のような「偶然」に見舞われなかったほとんどの人間(学校がまるごと異世界にとんだので、主に学校関係者)はオークに殺されます。女の子はズタボロになるまで犯されて(※JCです。JKもいますが、メインJCです)、きちんとそういう描写もあります。15禁表示がついていますが、ぶっちゃけ18禁じゃないかと思います、個人的には。

飛ばされた世界が何なのか分からないという「謎」と、「レベルアップ」のような非現実感。その一方で、殺され、犯されていく人たちがいるというなまなましさ。どこまでも利己主義的に振る舞いながら、生き残るために「英雄」として祭り上げることを選ぶ主人公、あと随所で挟まれるエロゲー的触手・凌辱ネタ……と、非常に楽しく読んでいたのですが、どうも書籍化の話があるそうで。

おいおい、この話書籍にして大丈夫なのか、エログロ抜きにしたら魅力なくなるのでは……という感じだったんですが、双葉社のモンスター文庫から出るみたいですね。なるほど納得&安心。

横塚さんのページ(ここ)によれば、ヒロインのアリスちゃんはこんな感じになるようで。

tenbin_alice

かなり雰囲気にマッチした絵柄だと思います。個人的には志木さん(主人公たちのチームの参謀的ポジションの人で、不遇オーラをばらまきつつ死亡フラグギリギリで立ち止まる寸止め職人)を早く見たいところ。幸せになってほしいなぁ。

決してウキウキする系の話ではなくて、仲間がオークにまっぷたつとか悲惨なところもありますけど、そうでなければ描けないモノを描いていると思います。文章も結構しっかりしていて読みやすいし、キャラがうまいなーと思います。

他にも面白い話いっぱいあってあれこれ読んでいるんですけど、目下この作品が勢いある感じなので、ちょっとオススメしておきます。そして横塚司さんにも頑張ってくださいという応援の念波を遠くから飛ばしておこう……。あとはエタる(永遠に更新されない=未完放置)ことがないよう祈りつつ。