エロゲーマー(批評空間界隈)にとっては看過できない爆弾が投下されました。「11・22事件」です。

公式の声明が出ているのでまずはそちらから。

 ▼「『ErogameScape -エロゲー批評空間-』データ削除依頼に関するお詫びとご説明

(2020年11月22日 19:02)
■本声明について

2020/11/22に『ErogameScape -エロゲー批評空間-』様(以下『批評空間と略します)』に依頼して対応いただきました、弊社ブランドLose(以降 弊ブランド)に関する全データの削除に関し、事前説明を行わなかったことで多くの混乱を招いてしまいました。
以下、削除依頼に至りました経緯をご説明申し上げ、お詫び申し上げます。

■弊ブランドのレビューに対する考え方について

弊ブランドタイトルを購入くださり、プレイ下さった方からび評価については、それがお褒めであれご批判であれ、弊ブランドが関与すべきものではないと考えております。
この考え方は、ブランド設立直後から現在にいたるまで一貫したものであり、今回の依頼に至る以前には、いただいたレビューに対する削除・修正の依頼等は行ったことがございませんでした。

■この度のデータ削除依頼に至りました経緯について

弊ブランドタイトル『まいてつ -Last Run!!-』は、日本国外に向けても同時発売を行い、評価が大きく割れる部分も含んだ作品となりました。
そうした要素を排除しきれなかったことを原因とした論争が逸脱し、ユーザー様同士が作品以外の部分で対立されるようになってしまった事態を確認するに至り。
かかる事態は何としても避けるべきであると考え、批評空間様へのデータ削除をお願いしたというのが、この度のデータ削除依頼までの経緯となります。

かかる事態を招いてしまった責任は、ひとえに弊ブランドのみにあるものと認識しております。

■謝罪

前記のとおり「ユーザー様同士が作品以外の部分で対立されるようになってしまった事態」を避けるべきであると考え、弊社作品に関してのページを全て削除させて頂きました。
削除の結果、多くのユーザー様にいただきましたレビューに弊社が介入してしまったことは、申し開きもできない事実です。
成すべきであった事前のご説明・ご対応を怠り、多くのユーザー様に大きなご迷惑をおかけし、混乱を与えてしまいましたことを深くお詫び申し上げます。

maitetsulr

うーん、意味がわかりません。どうして、ユーザー同士の対立を嘆いてデータ全消しという結論に至るのでしょうか。私の感想はツイッターで書いたのですが……。



ってな感じ。一応Loseさんから公開された文書の要旨をまとめてみます。読みやすいようにフランクにしましたが、ほぼ間違っていないはずです。おかしかったらご指摘ください。

①Erogamescapeにある「Lose」関連データの全消しをしました。説明せずにやってしまってごめんなさい(※消したことへのお詫びではない)。

②低評価されたから消すわけじゃないですよ。いままでそんなことしたことないし。

③消す理由は、『まいてつLR』の内容を巡ってユーザー同士が作品以外のところで争うようになったからです。(※原文では「ユーザー様同士が作品以外の部分で対立されるようになってしまった事態」)

④こういう事態になった理由はLoseにあります。

⑤ユーザーのレビューに介入したけど、事前に説明しなくてごめんなさい。

ということなのですが、とりあえず詫びのほとんどはユーザーのレビューに介入したことではなく、事前の説明を怠っていたことについてなされています。何度読み直しても、事前に説明しなくてごめんなさいしか言ってないですね(レビューに介入したことは「申し開きもできない事実」とは言っているけど、「申し訳ない」とは言っていないとか)。

そもそも、作品以外のところで争ってるのに作品の作り手が出張る意味あるのか、というのも大きな疑問です。何をしに出てくるんでしょうか。

そして、作品以外の部分でのユーザー対立がどんなものなのか、それがなぜ「何としても避けるべき」なのか、過去作品も含めたLoseの全レビューを消すことでどのようにそれが解消されるのか、まったくわかりません。この説明だけなら、『まいてつLR』のレビューだけを停止すれば良いし、データベースは残して点数とレビューだけを消す、という対応で良いはずです。

それでは収まらないというのなら、他のレビューも消すべきです。そうでなければおかしいはずです。



というご意見もありますがまさにそのとおりだし、事態はそれにとどまらない。理屈の上ではこの世からLoseというブランドを消さないといけないのではないかと思うのですが。特にErogamescapeが悪い、という話でない限りは特定サイトのレビューおよびブランド情報が目の敵にされるのは不自然ですし、レビューがそもそもダメで作品を生み出した責任が自分たちにあると仰るのなら、という話です。ブランドごとなくなれ、と言っているわけではありませんよ。……私の議論、間違っていますか?



と、ここまで来てちょっと話の前提がわからないという方がおられるかもしれませんので、今更ながらエロゲー批評空間さん(「Erogamescape」・「エロスケ」)についてかんたんなご説明。

「Erogamescape」とは、エロゲーユーザーが集まって作る批評サイト。発売された作品を登録し、プレイした人が感想を入力したり点数をつけたりしています。プレイを検討している人がサイト上の点数を参考にしたり、過去にどんな作品が発売されているかを確認したり、あるいは個人のプレイデータの備忘録としても機能していました。

erosca03

こんな感じでゲームのユーザー採点を見られる他、ブランドの出している作品一覧、クリエイターの情報なども確認できます。

erosca01

また、自分のプレイした作品を見たり(のみならず、他ユーザーの採点履歴も見られるので、自分と趣味の合う人のおすすめ作品などもかんたんにチェックできます)……。

erosca02

プレイ履歴を確認したりできるので、個人データベースとしても有用でした。

実際私も、1990年代に発売されたエロゲーを調べる際には非常に便利に使わせていただいており、エロゲーマーなら誰しも1度や2度はお世話になったことがあるのではないかというくらいメジャーなデータベースサイトです。

そこに、メーカーさんが直接関与してそのメーカーの過去作の記録を軒並み消去したというわけです。Twitterでもこのできごとは注目を集め、さまざまな発信がなされました。








個人のプレイ記録として作品データだけでも復活させられないか、というユーザーからの要望に対し、Erogamescape管理人のひろいん氏はこう返答しています。




という説明をし終えたところで……。いったい何が問題なんだ? という方もおられるでしょうか。いやぁ、これは結構大きな問題なんですよ。3つほど問題点を挙げてみます。

まず、ユーザーのプレイ記録が本人の意図とは無関係なところで消えてしまったということ(おそらく、データとしては残っているけれどアクセスできない状況にされた)。先述した通り、個人のエロゲー履歴として活用していた人も多かったはずで、『ものべの』や『まいてつ』をはじめさまざまな作品を排出してきたLoseさんに関連したデータを見られなくなったということは、少なからぬ人が影響を受けているはずです。そして、それはメーカー側の要望により復旧させることができない。場合によっては逆に「自分の知的財産を侵害された」と訴訟を起こす人が出てきてもおかしくない(メーカー側に、ユーザーのレビューを消す権利があるの? と)案件かもしれません。勝てるかどうかは知りませんが。

次に、データベースとしての価値の問題。Erogamescapeさんは、おそらく日本で屈指の、下手をすれば最も多くのエロゲーに関する情報を集積し、公開している(しかも無料で)サイトです。その中には多少真偽の疑わしいものもありますが、それでも多くの人の誠実な努力によって、かなり精確な情報が手に入るサイトでした。エロゲーに関する集合知の結晶と言っても過言ではありません。そのデータベースから、Loseというエロゲー史的に大きな影響力を持ったブランドのデータが欠損するというのはたいへんな損失です。

「ブランドLoseに関する情報は掲載しておりません」とでも書けば終わりなのでは? という人がおられるかもしれません。理屈の上ではアリだとしてもやっぱり気持ち悪いですし、当時のユーザーたちがリアルタイムでどんなことを受け取ったか、最初はどういうふうにこのゲームが受け取られたか、といった記録が失われるのは相当の痛手です。

話が少し寄り道しますが、Erogamescapeさんで古い作品を見ると、それこそ2000年代前半の感想から2020年の感想までを一望できるんですね。たとえば、これは1996年発売の『Pia・キャロットへようこそ!!』のデータです。

 ▼「Pia♥キャロットへようこそ!! ~We’ve been Waiting for you~ (カクテル・ソフト) (1996-07-26)

2001年とか2002年の感想から、2020年の感想まで並んでいます。そうすると、昔は「ボリュームがある」と言われていた作品が「あっけない」と言われるようになっているだとか、昔は陳腐と言われていた属性が今ではかえって斬新になっているとか、そういう変化が手にとるようにわかります。これ、凄い面白い

まさにサイト自体が「歴史の生き証人」みたいになっているわけで、そうした通時的に積み重ねられたデータってエロゲー界隈にとって一種の財産だと思うんですよね。それが失われて(Lostして)しまった、というのは個人的にすごく痛手です。あ、これはLoseとLostをかけたギャグです。念の為。

閑話休題、問題点の三番目。それは、こういうデータベースにメーカー(ブランド)が介入できる、しても良いという前例を作ってしまったことです。実際に介入した理由が何であったかはハッキリしません。しかし、こういうはっきりしない理由でも介入が許されるのであれば、たとえば自社の作品が低評価されたらデータ削除を依頼する、ということをしてくる会社が他にもあらわれるかもしれません。そうなると、もうこの手のサイトの維持は困難でしょう。

昔はErogamescapeほど信頼でき、メジャーな批評サイトはなかったからここに載ることの宣伝効果が大きかったというのはあるのでしょうが、今は各種通販サイトでユーザーの評価も見られるし、宣伝なら自社HPがあります。「切っても痛くない」どころか「不特定多数の人から風評被害を受けている」とメーカーが判断すれば「縁切り」が続く可能性もあるわけです。これは由々しき事態であると思われます。

一説には今回の件、コンシューマ進出を狙い「エロ」で活動していた痕跡を消したいLoseさんの陰謀だ、という話まで出てきています。



真偽の程はわかりませんしなるほどなぁという気持ちを抱かないでもないのですが、知名度やコンシューマー進出後もユーザー層がかぶることを考えると正直その線はない(し実質無理)んじゃないかと思っています。個人的には。ただ、そんな話が出てくるくらい「わけがわからない対応」であることは間違いないわけでして、そっちのほうがよろしくないかな。もしかするとメーカーさんしか知らないような深い事情があるのかもしれませんが、それは目下のところ、ユーザー側にはまったく提示されていませんからね……。

何より悲しいのは、Loseさんのこの対応は、エロゲーユーザーの活動や想い、歴史をかなり蔑ろにしていると感じるからです。批評という行為が、作品を勝手に使ったピンはね行為だ、と言われるなら仕方ありません。でも、Loseさんは公式にはそう言っていないわけだし(受け入れるべきものだ、とおっしゃっています)、これまでにユーザーの感想を「利用」してきた部分だってあるはずです。そして、Erogamescapeに投稿された感想には、そうしたユーザーの想いや歴史が少なからず積み上がっていたはずです。

それを、傍から見ている限りでは必然性の感じられない理由で削除する。そしてその「説明」もよくわからないし、謝罪しているのは事前に断らなかったことについてであってユーザーの感想を消したということに対してではない。しかも、ユーザーが悪いんです、と原因をユーザー側に押し付けてメーカー(ブランド)側の都合ではない、というアピールをしている。

これに誠意を感じろというのは無理だろうというレベルだと、私は思います。



私の「お気持ち表明」はこのツイートに尽きているのですが、プラスするならほんとうに残念です。『ものべの』や『まいてつ』という素晴らしい作品を作り、ユーザーフレンドリーなイベントなども開催してユーザーを大事にしてきてくれた、そういうLoseさんがこういう結論を下すにいたったということが残念でならない。

今更撤回してどうこうなるものでもありませんし、こういうことをした会社の説明を聞いて納得できることは、私は無いと思いますのでこの話の掘り下げはこれで終わりになると思います(表面的なことではあれこれ言うかもしれませんが)。落とし所のない問題になってしまいましたね。

私はLose作品のレビューを書いていないので直接的な被害はそれほどでもありませんが、書いていたらもっと暗澹たる気持ちになっていたでしょう。本当はもうちょっと明るいタッチで、おもしろ目の記事を書こうかなと思っていたのですがやっぱり無理でした。そういうテンションでは書けない話でした。

「全削除」という1手は妙手などではなく、頓死一直線の悪手であるということが広く知れ渡れば、第二・第三のLoseが出現することは防げるのかもしれません。そのことに望みを託しつつ、記事を終えたいと思います。(なんかどうしようもない事情があった、ということが後にわかれば謝罪をしたいと考えています。記事は削除せずに)

======
追記(11/23) えびさんからの情報で、感想そのもののデータは残っている、というお話です。「ブランド情報以外、ほぼすべてのデータは残っていますが、可視化出来ないようになっている状態です。つまり、データを復旧することは簡単で、Loseさんがごめんなさいして、管理人さんに復旧を申し込めば、すぐに元に戻るでしょう」とのこと。

詳細は当記事コメントの6番を御覧ください。



えびさん、ありがとうございました。