本日御茶ノ水の丸善で文庫本を物色していると、上品そうなマダムがレジ前にやってきて凄いことを言い始めました。

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「おしゃべりクッキング」の毎月出ているやつじゃなくて、これまでのオススメのをまとめたのが出るからよろしくってテレビで言っていたんだけど、ここ(たぶん専門コーナーのこと)にないみたいなの。ありますか?

女性の書店員さんは一瞬かたまったものの、そこはさすがプロ。「ええと、書名はおわかりになりますか?」とたずねました。

マダムの応えて曰く。「おしゃべりクッキングの、毎月出てるのじゃないやつ。ベスト版? 上沼恵美子さんが、よろしくって言っていたの。テレビで」

店員さん「おしゃべりクッキング、というTV番組の、上沼恵美子さんというタレントの方が紹介しておられる本ですね? 本のお名前などはわかりますか?」

マダム「名前は、わからないの。でも、テレビで言っていたの。わかるでしょう? あるの? 無いの?」

この辺から、だんだんマダムがイライラしてきたようで声が大きくなります。店員さんのほうは、先輩と思しき女性スタッフが駆けつけて「すぐにお調べします」とカウンター内の端末で検索を介ししました。

しばらくその様子を見ていたマダムですが、やがて身を乗り出して端末を後ろから覗き込むようになります。途中、「その、いまあった、ベスト100っていうのじゃないかと思うの」とか、「その本は一番最近のもの?」とか聞いては、「あ、これはおしゃべりクッキングの本ではないですね」とか「これは、昨年の5月にでたものですね」などと返され、「じゃあ違うわね……」としょんぼり。

最後は怒ったように「もう、いいです!」と吐き捨てて立ち去りました(その後本を見つけたらしい店員さんが追いかけて、無事に案内できていましたが)。

最終的にマダムが本を手に入れられたことは僥倖です。ただ、レジがあまり混雑していない時だから良いようなものの、混雑時なら死亡案件だったでしょう。ぶっちゃけ、書名くらい調べて来いよという気がしてしまう。

ただ、われわれにとって書名を確認してくるのが常識なように、マダムにとっては(おそらく彼女の周囲では当然なくらい)有名なテレビ番組で紹介されていた本というのは書店員ならすぐにわかって当然という感じなんだろうなと、そんな風にも思われます。スマホもインターネットも扱えないような方だったとしたら、「おしゃべりクッキングで紹介されていた」というのが最も確実で、通りが良く、効率も良い情報の出し方なのでしょう。

私たち(われわれではなく)は、誰しも自分の外側に世界があることを知っています。しかし、それを実際に体験したことがなければ想像力を働かせるにも限界がある。件のマダムは、自分の説明では通じない世界があることを疑っていなかった。だから今回のようなことになったのだと思います。そして、店員さんは自分たちの常識を超えた世界があることを解っていたからこそ、怒鳴り散らしたりせず冷静に対応できたのだと思います。

してみると、懐の深さというか相手の発言や態度に対する許容度というのは、持っている世界の広さによって決まるのかもしれません。それが良いとか悪いとか、幸せだとか不幸せだとかいうのではないけれど、自分は少しでも広い世界を見るようにはしたいなと思ったのでした。