50年以上前に、赤ちゃんを取り違えていたという話。これ、いろいろなことを思ってしまいます。

 ▼「取り違え被害の男性「真実を」」(NHK NEWS WEB)

東京・文京区にある順天堂大学の附属の医院を運営する学校法人は、51年前に医院で生まれた赤ちゃんを取り違えた可能性が極めて高いと、今月公表しました。
この取り違えの被害に遭った当事者の男性がNHKの取材に応じました。
取り違えが明らかになったあと医院側から謝罪を受けましたが実の両親についての情報は拒否されたということで、男性は「別の人生を歩んでいたのかと思うと許せない。一度でいいから本当の親と会って話をしてみたい」と訴えました。

今月6日、東京・文京区にある「順天堂大学附属順天堂医院」を運営する学校法人は、51年前、医院で生まれた赤ちゃんを取り違えた可能性が極めて高いとホームページ上で公表しました。
この問題で、都内に住む51歳の男性が51年前の1月、医院で産まれたことを記載した母子手帳やDNA検査の結果などを示した上で、取り違えの被害に遭ったと証言しました。
男性によりますと3年前、母親から「自分の子どもではない」と突然告げられ、医院側に事実確認を求めDNA検査などをした結果、去年、医院側が取り違えを認め謝罪したということです。
男性は「母親が『本当のことを伝えないまま私が亡くなってしまうと、事実がわからなくなる』と打ち明けてくれた。最初聞いた時はまさかあの大きな病院で取り違えが起きる訳がないと思ったが、ずっと違和感を抱いたまま生きてきたので、やはりそうかという気持ちもありました」と話しました。
男性によりますと、母親が取り違えを疑ったのは昭和48年、小学校入学の時の血液検査だったということです。
男性は「両親ともにB型なのに私がA型という結果が出てがく然とした母親はすぐに医院に相談に行った。何度も通って取り違えが起きていないか確認を求めたのに『これ以上求めるなら裁判を起こして下さい』と言われたとのことだった。血液型が違うため母親は浮気を疑われ、両親は離婚した。私は親類の家に預けられ高校にも行けず、すべてをあきらめないといけない状態でした」と話しました。
取り違えが発覚したあと、男性は医院側に対し実の両親が誰か教えて欲しいと依頼しましたが、医院側は個人情報を理由に情報提供を拒否したということです。
男性は「別の人生を歩んでいたのかと思うと許せない。間に合うのであれば一度でいいから本当の親と会って話をしてみたいし、育ての母親もそう思っている。顔が似ていないと言われながら育てられてきたので、実際に会って安心したいし、せめて元気で生きていてくれているのか、事実だけでも教えてほしいです」と話しました。
また、医院に対して「取り違えが起きてしまったことはしかたないが、2度とこういうことが起きないようきちんと対応してほしいです」と訴えました。
NHKの取材に対し医院を運営する学校法人「順天堂」は、「ホームページで公表した以外のことは個人情報もあり対応できない」と話しています。

「順天堂大学附属順天堂医院」を運営する学校法人「順天堂」はホームページで今回の経緯を公表しています。
発覚のきっかけは医院で生まれた当事者とその母親からの申し出で、DNA検査を行った結果、親子関係が存在しないことが判明したということです。
その上で退院後に取り違えが発生することは考えにくいと思われることから医院で取り違えが発生した可能性は極めて高いと判断したとしています。
また、当時は分べん後に助産師がもく浴をし、その後、赤ちゃんの足の裏に母親の名前を書くという方法が取られていたということで、名前を書く前に取り違えた可能性などが想定されるとしています。
もう一方の当事者について、保存されていたカルテからある程度絞られたものの、平穏な生活を乱すおそれがあるとして伝えない方針だということです。
ただし、本人や家族から問い合わせがあった場合は誠意をもって対応するとしています。
最後に「本人をはじめとする関係者の皆様に心よりおわび申し上げます。改めて万全の態勢により細心の注意を払っていきます」とコメントしています。

生まれたばかりの赤ちゃんが病院などで取り違えられたことが明らかになったケースはこれまでも相次いでいます。
昭和48年に発行された日本法医学会の学会誌には「昭和32年から46年までの間に合わせて32件の取り違えが起きていたことがわかった」と記されています。
また平成18年には都立の産院で昭和33年に産まれた際取り違えられたと男性や家族が訴えた裁判で産院側のミスが認められました。
このほか、平成25年には、東京・江戸川区の男性が昭和28年に生まれた病院で取り違えられたとして社会福祉法人を訴え、裁判所が賠償を命じる判決を言い渡しています。
このケースでは男性は実の弟たちと会うことができたということです。
この裁判で男性の代理人を務めた大島良子弁護士は「自分がどこから生まれどんな環境で育っていたはずなのか知りたいと思うことは人間が持つ根源的な欲求だと思う。医院側も個人情報の問題はあるが当事者と真摯に向き合い説明する責任があるし、取り違えられた被害者が本当の事実を知ることができるようにするべきだと思う」と話しています。

取り違えによって浮気を疑われたお母さん、疑ってしまったお父さん、そしてこの男性は非常に気の毒だと思います。同時に、複雑な想いを抱えていたであろう中でも血のつながらない息子を育てたお母さんは偉いなとも。ただ、高校にも進学できなかったというくだりを聞くと、お互いにとって幸せだったかどうかわからないのが辛いところですが。

いっぽうで、もう1組子どもの取り違えが起きている家があるわけですが、平穏な生活を送っているのだとしたら、そっちは問題になっていない可能性もあるわけですよね。血液型から判明しなかったせいで「真実」を知らないままだとしたら、それが幸せなことなのかどうか。

男性が、「本当の親と会って話をしてみたい」という気持ちは分かる気もするし、でも「育ての親」こそがほんとうの親ということではいけないのかな、とも思ってしまう。

とりあえず病院の対応がクソだったということは間違いないにしても、いまどうすれば良いのか、この理不尽に救いはあるのか、すごく難しい。なんとも言えない気持ちになります。