◆まえがき
この記事は、ブログ「それなんてえrg」(@sorenanteerg)のぐぬぬ様の発起による企画「好きなエロゲを3つ挙げろ」企画の一貫です。企画参加一覧はこちら。第一回は『僕と、僕らの夏』の記事を、第二回は『WHITE ALBUM』の記事を書きました。今回最終回ということで、予定通り『Phantom』やります。

(自分の記事一覧)
(1)『僕と、僕らの夏』(light、2002年)
(2)『White Album』(Leaf、1998年) 
(3)『Phantom -PHANTOM OF INFERNO-』(ニトロプラス、2000年)


◆第三回:『Phantom -PHANTOM OF INFERNO-』

○基本情報

『Phantom -PHANTOM OF INFERNO-』(ニトロプラス、2000年)
原画:矢野口君
シナリオ:虚淵玄
音楽:ZIZZ STUDIO、CHOIR
プロデューサー:でじたろう

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もともとはPC版の18禁ゲーム。その後さまざまに展開されて、もう数えるのもめんどくさいくらいになっているのでその辺は省略します。ニトロの処女作にして出世作で、発売当初はあまり話題にならなかったのですが、次第に口コミで面白さが伝わって「演歌CDのような」ロングセラーとなりました。そのため、発売当時より後になってからプレイした、という人が多いのではないかと思います。

ふとしたことから「暗殺者」の世界に足を踏み入れた主人公・ 吾妻玲二(あづま・れいじ)が、同じ暗殺者仲間のアインやドライ、マフィアの女幹部クロウディア、一般人……ではないけど普通の女学生・藤枝美緒らと恋に落ちたり殺し合ったりする作品。

ハードボイルド路線で、しかもこだわりは女の子より銃器、スタッフも「映画っぽいものを作りたかった」みたいなコメントを残しており、エロゲー雑誌より銃雑誌で好意的にとりあげられた、みたいな逸話が残っているあたりが当時の立ち位置を物語っているでしょうか。

この一年前にオーバーフローが設立、同時期には『PureMail』が発売。約一年後にアージュから『君が望む永遠』が発売されて、ニトロを含めた「千代田区連合」が助走をはじめていた時期です。他と違うかわったことをやろう、みたいな熱気がエロゲー界に漂っていて、なんかよくわからない、奇妙なのを通り越して奇怪な作品も多く見かけました。そういう空気の中だから生まれた、というのは違うかもしれませんけれど、ある種の傾向を代表しているところはあるのかなと思います。


○あらすじ
家族でアメリカに旅行に来ていた吾妻玲二は、偶然殺人現場を目撃してしまう。彼が目撃した殺人犯は、当時アメリカ中で話題になっていたマフィアの幹部連続殺害犯「ファントム」だった。玲二は拉致され、彼が目撃した「ファントム」の少女・アインから暗殺者としての訓練を受ける。やがて玲二は、「第二のファントム」・ツヴァイとして組織の中で確かな地位を築いていくのだった。

○レビュー
『ファントム』に対する私の「好き」は、純粋にエンターテインメント的な面白さ。これに尽きます。

たとえば、ただの一般人だった少年が、試練を経てとんでもないスーパーマンになるというサクセス・ストーリー的な面白さ。暗殺者という職業(?)への憧れ……。これはちょっと説明が必要かもしれませんが、『魔術士オーフェン』を楽しみに読んでいた世代なので、割と暗殺者に魅力を感じるのです。他には、ハードボイルドな世界観に対する世界観のもつカッコよさとか。まあそういうたぐいのものです。

中でも特筆すべきは、洗練されたキャラクター造形と、いい意味で先が見えないストーリーテリングでしょう。登場人物たちがどれも個性的で味がある。ピカレスクロマンには絶対必要な反吐が出そうな悪党から人情味のあるヤクザ屋さんまで、バリエーション豊かなキャラが出てきますが、彼らひとりひとりが自分の生き方を持っていて、発言や行動に説得力がある。「なるほどなぁ、こいつならそうする(言う)よな」と納得できるわけです。

また、セリフや行動の1つ1つが渋いというかかっこいいというか。絵になる感じですね。一枚絵が表示されなくても、そのシーンの映像が浮かんでくる。

あと、ヒロインがかわいい。えぇ……? と疑問符つける方がおられるかもしれませんが、無表情なアインが変わっていく様子は、古めかしい表現で「超萌える」し、ドライやクロウ、美緒もそれぞれの流儀で玲二に対してこだわりを見せる。さっき「萌え」って言っちゃいましたけど、実はちょっと違うのかな。なんというか、「いい女だな~」っていう感じ。男視点ではなく。ドライみたいな男キャラいたら人気爆発じゃないかと思いますよ。

そして、予想できない展開の物語。意外性があるわけではないのですが、簡単に人が死んだり裏切ったりする世界なので、誰がどう動いて話がどこに落ちるかまったく読めない。

いやまぁ、もちろん予想というか推測はできます。文字通りに予想ができないのでは単なる電波系か理不尽なゲームです。ただ、予想が当たっている確信がないからドキドキしながら読める。この楽しみは、ある種の物語の醍醐味のひとつではなかろうかと思います。そして、ストーリーの先読みができないからこそ、キャラが生きる。物語の進行のためにキャラが動かされているようなわざとらしさがなくて、キャラがそれぞれの思惑で動ききった結果が、振り返ってみると物語になっていたという、爽快な読後感が待っています。

私は、自分の中の物語の面白さというか好きの度合いの判定基準に「続きを想像したくなること」というのを設定します。自分が続きを読みたいと思えるくらいキャラが魅力的で、また続きを想像できるくらい設定がしっかりしている。そして、作品がエンディングを迎えたあとも世界は続いているんだろうな、続いていてほしいなと思わせるような余韻がある。「同人誌」というスタイルだって、物語に対するそういう種類の想像力から生まれてきたところはあるんじゃないでしょうか。

『ファントム』という作品は、そのへんバシバシ想像力を刺激してくれます。大満足。昨今の充実した演出の作品に慣れてくると、声がついていなかったりイベント絵が少なかったりというのがどうも物足りなく感じるかもしれません。ただ、いまにして思えば演出が控えめなのもよかったかな。

白黒の映画か必ずしもカラーに劣るとはいえないように、過剰に見えない/見せないことでかえって想像力が刺激され、味わい深いものが出てくる。そういう作品だったように思います。