またしょうもない話になりそうですが、見過ごすこともできない話なので少し。

 ▼「「道徳」教科書の初検定 8社すべてが一部修正し合格」(NHK NEWS WEB)

3月24日 16時06分
 
来年4月から評価を伴う「特別の教科」となる小学校の道徳の教科書に対する初めての検定が行われ、作成した8つの会社の教科書が、一部の記述を修正したうえで、すべて合格しました。
 
今回の教科書検定は、来年4月から評価を伴う「特別の教科」に格上げされる小学校の道徳が24点、高校の日本史など213点が対象となりました。

このうち、道徳は、作成した8つの会社すべてがいじめの問題を内容に盛り込み、一部の記述を修正したうえで合格となりました。

小学1年生のある教科書では、申請段階では、物語に友達の家のパン屋を登場させていましたが、「国や郷土を愛する態度」などを学ぶという観点で不適切だと意見がつけられ、教科書会社は「パン屋」を「和菓子屋」に修正しました。

これについて、教科書会社は「日本文化であることをわかりやすくするため和菓子屋に修正した」と話しています。

道徳の検定では「家族愛」や「生命の尊さ」など22の項目を国が盛り込むよう定めていて、教科書会社の中には、「家族愛」を記述するにあたり、母子家庭の増加など家族が多様化するなか、国が求める家族像とのバランスが難しかったと取材に答えたところもありました。

道徳教育に詳しい中央大学の池田賢市教授は「特定の家族像とか家族愛を取り上げて教えることは、実態とかけ離れていると言わざるをえない。学校現場では、道徳の教科書に書かれた価値観だけでなく、子どもの実態に即して教えるべきだ」と話していました。

一方、高校の「地理歴史」や「公民」の教科書に対しては、3年前から新たな検定基準が設けられ、通説が定まっていない事柄はそのことを明記するほか、政府の統一的な見解などがある場合はそれを取り上げるよう定めています。

今回、これに基づいてつけられた意見は合わせて11件ありました。このうち、1937年に中国・南京で起きた南京事件の犠牲者数について、4点の日本史の教科書に意見がつきました。

ある教科書では「死者の数は戦闘員を含めて、占領前後の数週間で少なくとも10数万人に達したと推定される」という記述に意見がつき、教科書会社は「おびただしい数の中国人を殺害し」と修正したうえで、犠牲者の数が諸説あることを盛り込んで合格しました。

また、関東大震災の混乱の中で殺害された中国人や朝鮮人の数も、日本史の2点の教科書で同様の意見がつきました。

さらに、島根県の竹島や沖縄県の尖閣諸島など領土に関する意見は20件に上り、いずれも政府の立場を説明させるなどの修正が行われました。

 
道徳教育と検定基準
道徳の教科化は、子どもたちの内心を評価することはできないなどの理由で、戦後一貫して見送られてきました。しかし、全国で深刻ないじめの問題が相次いだことや、ほかの教科と比べて軽んじられているなど、多くの課題が指摘されたことを受けて、今から2年前に教科化が決まりました。

小学校では、来年4月から今回、国が検定した教科書を使った授業が毎週1回行われ、子どもたちに対して記述式の評価が行われることになります。ただし、そこで行われた評価は入試では活用してはならないと定められています。

 
教科書に最近の話題や人物
今回、合格した教科書には、AI=人工知能についてや、お笑い芸人で芥川賞を受賞した又吉直樹さんの作品など、最近の話題や活躍した人物の記述も数多く盛り込まれています。

人工知能については、「倫理」のある教科書で1ページの特集が組まれ、どこまで人工知能に判断を委ねるべきかや、人間にしかできないことは何かを問いかけています。

英語の教科書でも、人工知能が搭載されたロボットが人間と戦うSFアクション映画の記述が掲載されました。

また、ことしで施行から70年を迎える憲法については、前回の検定よりも記述が大幅に増えました。ある「政治経済」の教科書では、憲法改正の論点などについて紹介しています。

このほか、「現代文」の教科書では、お笑い芸人の又吉直樹さんが芥川賞を受賞したことを紹介したものや、又吉さんが祖母との思い出をつづったエッセーを題材に盛り込んだものもあります。

また、道徳の教科書では、「夢を実現するためには」という見出しでプロ野球選手の大谷翔平選手が紹介されているほか、元AKB48の高橋みなみさんがいじめ問題に関して子どもたちに向けたメッセージが掲載されています。
 
文科相「質の高い授業を期待」
松野文部科学大臣は、「各学校において、今回の検定を経た教科書を活用して『考え、議論する』道徳を進めるなど、児童や生徒の興味・関心に応じた質の高い授業が展開されることを期待したい」とするコメントを発表しました。

言いたいことが大量にあるので、絞ります。

まず、「物語に友達の家のパン屋を登場させていましたが、「国や郷土を愛する態度」などを学ぶという観点で不適切だと意見がつけられ、教科書会社は「パン屋」を「和菓子屋」に修正」したという話。

もうね、アホかと。

こんな意見だす機関、潰してしまえ。

まず、パン屋がそもそも「国や郷土」と繋がっていないとなぜ言えるのか。地域に根ざして60年とかパン作り続けてきてるお店もあるだろうに、それは認めないんでしょうか。それにどういう理由でNGになったのか知りませんけど、西洋起源のものだからというのならスーツもいかんということになるんじゃないんですか。あと、英語教育とかも愛国的ではないですよね?

もちろんこれは「道徳」の科目内に限ったことなのでしょうが、それなら「道徳」の教科書内には横文字いっさいなし。登場人物はすべて和装にしてください。そこまでやるなら一貫しているけど、そこまでやるといかに馬鹿げた話かわかりますよね……。誰もツッコミ入れなかったのかよ。

戦中の「敵性語」教育と似ている。文科省は「道徳教育」の説明で「道徳科の評価で,特定の考え方を押しつけたり,入試で使用したりはしません。」などとしれっとのたまっていますが、こういうのが暗に思想統制になるわけですよ。

 ▼「道徳教育」(文部科学省)

というか、言説はどんな場合でも「特定の考え」を発することしかできません。完全にニュートラルな言説というのは存在しない。ですから、「特定の考え」を押し付けないためには、さまざまな視点を幅広く許容し、相対化の機会を与えなければなりません。そうしないことを「特定の考えを押し付け」るというわけで、パン屋は愛国的でないというのは押し付け以外の何者でもないと思いますよ。

(その意味では、歴史の教科書が「教科書会社は「おびただしい数の中国人を殺害し」と修正したうえで、犠牲者の数が諸説あることを盛り込んで合格」したというのは、賛否両論あるにしても複数の視点をきちんと載せることをよしとした、という意味で、ある程度良心的な対応であると思います。「南京大虐殺などなかった」というのも、「具体的に○万人殺した」というのも1つの立場、ものの見方であり、学生に材料をあたえて判断は本人に委ねることができるわけですから)

更に言えば、「道徳」が国や郷土を愛する心を養うのは結構ですが、そもそも論としてそれは狭い意味でのナショナリズムの涵養を意味するのではなく、「国際社会に生きる日本人としての自覚を養う」ことが目標であったはずです。

 ▼「現行学習指導要領・生きる力 第三章 道徳」(文部科学省)
 
ことばとしてはっきりと出てはきませんが、いわゆる「普遍的」な規範・規律の習得が意識されており、それはつまり、日本の固有の文化(としての道徳)が国際社会にも通用するある種の普遍性を持っているという確信に基づいてこの教科は設定されているはずです。

私自身はこのあたりのことをもう少しきちんと考えるべき(つまり、固有性と普遍性はほんとうに両立するのか、させていいのか、するのならどのようなかたちなのか)だと思うのですが、とりあえず日本的な道徳、愛国の精神というのはパン屋だと発揮できなくなるような了見の狭い閉鎖的なものなんですか? むしろ、西洋由来のものの中にもしっかりと根づいているような、そういう深い射程を持ったものであるし、だからこそ学校教育で「国際社会に生きる日本人としての自覚を身に付ける」ために学ぶ意義があるのではないでしょうか。

検定によってパン屋を和菓子屋に変えたというのは、形式にこだわるあまり「道徳」というものの本質を見失い、貶める愚行というしかなく、こういうことを平気でやってしまう連中のスジの悪さと、彼らが目指そうとしている「道徳」がひらかれた教育ではない、単なる視野の狭い閉鎖的ナショナリズムなのではないかという恐れでめまいがします。

まあ、こういう話に「言論統制だ!」みたいなことしか言わない人たちが多いのも問題なんですけどね。せめてもうちょっとちゃんと批判してほしい。中道右派みたいな人たちのほうが、よほどきちんとこの問題を捉えている(「愛国」ということの本質を考えている)のかなと、この件をめぐる議論を眺めていて思いました。

これで今後「公共」という科目ができますとか、ホントに日本の教育は大丈夫なんですかねぇ……。教育を政治とごっちゃにしてる気がしてならないんですけど。