中古エロゲーの販売などを行っていた「紙風船」が、実店舗を閉店するという告知を出しました。(ネット通販は継続)

kamifu

 ▼「ゲームショップ紙風船

「店舗移転」と書いてありますが次の店舗の告知がない。荷物の移送などもあるこの時点で決まっていないということは考えにくいので、おそらく「ネットショップ」というかたちになることを「移転」と表現しているのではないかと思われます。

当ブログで扱っただけでも、先月末から1ヶ月ほどの間に、「姫屋ソフト」の倒産(この記事)、「テックアーツ」の倒産(この記事)、「ラズエル」の倒産(この記事)とエロゲー関連の有名どころが倒産する現象が続いていただけに、閉店と聞くとまた経営難か、という感は拭えません。

暗い気持ちになります。

ただ、これをもって「エロゲーの終わりの始まり」みたいなふうに言ってしまう言説は、私としてはあまり好ましくないように思います。先日の、「スマホを見ると頭が悪くなる」というのと似ているでしょうか。今回のことがらと衰退との間に、必ずしも因果関係は見られないからです。

まず、エロゲーブランドが「立て続けに」倒産した件についてですが、これは説明が簡単で、決算期だからでしょう。12月決算にせよ3月決算にせよ、この時期というのは会社の状況と直面せざるを得ず、必然「進退」について決断が求められる時期となります。たしかにこれだけ続けて倒産騒ぎになると世紀末感はあるのですが、交通事故が連続して起きたとか、飛行機が次々にトラブルに見舞われたとかそういうレベルの偶然ではなく、この一年、あるいは数年間経営に苦しんでいた会社が決断する時期だった、ということに過ぎません。

そうすると、結局「続いている」ということに意味はあまりなく、3ブランドと1店舗という数が多いか少ないか、という話になりますが……。まあ、少なくはないにしても驚くほど多いというわけでもないんじゃないかな、と。

たおれた会社のネームバリューにインパクトはありましたが、たとえば2007年の同じような時期には、「キャリエール」、「ディール」(Tarteなどのブランド)、「オー・パーツ」(あんくブランドなど)あたりが倒産し、母体は生き残ったものの「すたじおみりす」が解散、という事態がありました。しかし同じその年に、クロシェット、Rococoworks、LapisLazuliなどの10以上の新規ブランドが立ち上がったりもしています。

要は、たしかに倒産というのはその業界の不振の指標にはなりえるかもしれませんが、(言い方は悪いかもしれないけれど)このくらいの入れ替わり現象ならば、まだまだある程度恒例の範囲内ではないか、ということです。

また、中古ショップの閉店というのも「エロゲーの衰退」というよりは時代の流れという感じがする。最近、多くの個人経営の書店が通販に押されて店を畳んでいるという話を耳にしますが、それと同根の話ではないでしょうか。私の近所の大きな古書店も、先日3店舗あったお店のうち2店舗を閉めましたが、ネット販売を中心に切り替えていてそれでうまくいっていると店主氏は語っていました。実店舗は、土地代に人件費にと非常に負担が大きかったぶん、ネット販売だと楽で助かると。出版不況、書店の苦戦というのは事実あるにしても、古書の需要が激減したかというとそう大きく変わってはいない。

それとまったく同じシチュエーションかどうかは分かりませんが、「紙風船」さんはネット業務を継続するということですし、そちらではまだじゅうぶんな需要は見込めるということでしょう。「紙風船」の閉店が物語っていることがあるとすれば、それはエロゲーという業界の衰退ではなく、中古販売の中心が秋葉原からネットに移った、という程度「かも」しれません。

また、日本の景気そのものが下降気味なことを考えるとある程度売り上げが下がるのは免れないわけで、エロゲーは善戦しているという見方も、もしかするとできるかもしれません。これはまあ行き過ぎかもしれませんが、要は単純にデータの表面だけ見ていてもわからん、という話。

いや、私はエロゲーが衰退するわけがない! と強弁したいのではないですよ。その(衰退している)可能性はじゅうぶんにあるとも思っています。

ただ、いま出ている情報とか、よくある「市場規模の縮小」の話や「2chのスレの書き込み数の減少」の話なんかは、もっと注意深くデータを精査しなければならないのではないか。繰り返しているのはそれだけのことです。たとえばスレの書き込み数云々というのは、(私は2chにまったく疎い人間なので適切ではないかもしれませんが)2ch全体の書き込み数の減少と同期しただけの話かもしれません。また、市場規模云々は「DL販売」や「同人ゲーム市場」もあわせて考える必要があるでしょう。

もちろん、「エロゲー業界が危ない!」と叫ぶ人はふつうの人以上に業界に興味・関心があり、かつ好きだからこそ悲観的になるのだろう、というのも理解できます。野球のファンで、ひいきのチームがオープン戦で負けるとことさら「今年はダメだ」と言いたがるのは筋金入りのファンが多いのと同じ理屈ですね。

そしてそれはあまり確証のある話ではないよ、と。また加えて言えば、ぶっちゃけこの業界あんまり楽観的な人がいないし、クリエイターのみなさんとかはかなり悲壮感漂わせながらゲーム制作していたりするので、必要以上に悲観的な空気が蔓延するのってよろしくない気がするんですね……。

なんだかデータ分析の専門家でも業界人でもないのに偉そうなことを言ってしまいましたが、やっぱり不正確なイメージがはびこり、事実のように喧伝されるのは好ましいことではないだろうと思うので、もう少しきちんとした分析ができるまでは様子を見るくらいで良いのかなと考えています。きちんとした分析ができればそれに基づいて対応を話し合う意味もあるでしょうし、そこからじゃないかなぁ。

当然、逆張りで無駄に楽観的になるのもいかんと思いますけれども。