これ、「ゲーム脳」とか「フィギュア萌え族」みたいな話と同じ根っこの問題ですが、ほんとうに大事なことだと思います。こういう言説を許していること、そしてこういう言説に飛びつく人が多いことが、もっとも深刻な問題。

 ▼「医師会「スマホ注意ポスター」は問題だらけだ」(東洋経済オンライン)

2月15日、日本医師会・日本小児科医会が、子どもたちのスマホ利用に関する啓発ポスターを発表したんですが、その中身が……いろいろな意味で衝撃モノでした。

「スマホの時間 わたしは何を失うか」
◆スマホを使うほど、学力が下がる
◆脳にもダメージが!
◆コミュニケーション能力が下がる
◆視力が落ちる
◆体力が下がる
◆睡眠時間を失い、体内時計が狂う

このポスター、全国17万カ所の診療所に配布されるそうです。なるほど、「スマホを使うほど、学力が下がる」ですか。これは、世間ではよく言われているかもしれませんが、筆者にはちょっと短絡的なように感じられます。

別にスマホを擁護するつもりはありません。検証データに基づく根拠があり、具体的に弊害が発生しているのであれば、もっと厳しく規制するべきだとすら思います。それどころか、ここに書かれている内容が事実なら、ポスターなんてヌルいこと言ってないで、さっさとスマホを全面禁止にしなければいけないはずです。だって「脳にもダメージ」があるんです。そんな危険なモノ、野放しにしちゃイケません。今すぐ全面禁止です、もし事実なら。

最初、このポスターを見たときには、あまりにもツッコミどころが満載なので思わず笑ってしまいました。

でも、お医者さんって、「根拠」「証拠」とか「因果関係」とか「検証データ」とか、そういうものを大事にする世界の方々のはずです。この手のモノを見るたびに、思い出す例え話があるんです。 

・犯罪者の90%はラーメンを好んで食べている
・犯罪者の70%が犯行1週間以内にラーメンを食べていた
・ラーメンを食べたことがない犯罪者は1%以下である
​→よってラーメンは規制されるべきである
 

これは間違いです。規制しちゃダメなんです。いわゆる「疑似相関」と呼ばれるもので、2つの事象に因果関係がないのに、別の要因によって、あたかも因果関係があるように誤解してしまうというものです。このポスターには、この「ラーメン規制」と同じ構図が垣間見えるのです。たとえば、

◆スマホを使うほど、学力が下がる
というキャッチコピー。文部科学省が実施している全国学力・学習状況調査で、スマホの利用時間が長い子どもは平均正答率が低かった、という結果を根拠にしているようなのですが、成績が悪い原因は、好き放題スマホを触らせている家庭の環境のはずです。その子からスマホを取り上げるだけで成績が上がるとは思えません。講演の際に学校の先生方にも聞いてみたのですが、みなさんそろって、「上がらないよねえ(ため息)」という反応でした。

ネット上の意見を見ても、このポスターに筆者のような「違和感」を持っている方は大勢いらっしゃったのですが、「当然だ!」といった意見も少なからず見られました。でも、「違和感」があったのは「学力が下がる」だけじゃなかったんです。 

ポスターには具体的な根拠が示されていません。「スマホやテレビを見ると脳の論理的思考をつかさどる部分の血流が変化し、脳が眠っている状態に近くなることがわかった。脳の発達段階では利用を控えるべき」といった仮説の意見が出されているのは事実であり、そのあたりを根拠にしているのでしょう。

しかし、それでもツッコミどころはあります。「テレビを見る行為も一緒のはずなのに、なぜスマホだけ名指しするのか」「昔からテレビを見て育った私の脳には問題があるのだろうか」と疑問に感じます。

過去に話題になった「ゲーム脳」しかり、ネットやゲームの世界って、この手の近視眼的な批判に事欠かないのです。

◆コミュニケーション能力が下がる
◆視力が落ちる
◆体力が下がる
◆睡眠時間を失い、体内時計が狂う
これらに至っては、もう開いた口がふさがりません。……だって「読書」だろうが「勉強」だろうが、度を越えればすべて当てはまります。 

「コミュニケーション能力が下がる」についてもうちょっと言わせていただけば、「情報を、わかりやすく簡潔に伝える」ことはコミュニケーションにおいて重要な能力でしょう。そして、LINEやTwitterなどのスマホアプリって、意外にも、その訓練には最適なツールなんですよ。スマホにはそういう一面だってあるんです。

私、これまでに多くの子どもたちと接してきましたが、日常生活でコミュニケーション力が高い生徒は、ネットにおいても説明がうまかったり、表現が的確だったり、というケースが多かったです。 

最初にも書きましたが、別にスマホを擁護するつもりはありません。客観的で長期的で明確な検証データから因果関係を確認し、日常のほかのリスクと比べたうえで、規制が必要と判断されれば、「適切な規制」がなされるべきだと思っています。

そのために必要なのは「検証データ」「因果関係」「具体的な弊害」、そして、今すでにあるリスクとの冷静な比較です。

正直、「包丁は危険か」みたいな議論はもうやめて、包丁という道具をどう使うのかという話を、サッサと始めたいんです。ネット・スマホなんて、ただの道具です。道具なら、「使い方」のほうがはるかに重要なのは、言うまでもありません。短絡的に脅すのは、そろそろ止めにしましょう。 

まことにこの記事の言うとおりで、「客観的で長期的で明確な検証データから因果関係を確認し、日常のほかのリスクと比べたうえで、規制が必要と判断」できるのならばスマホをガンガン規制すれば良いし、その問題点を指摘すればいい。

しかし、現状それに足るエビデンスはおよそ十分とはいえないし、私が知る限り多くの医師も、こんな言説を鵜呑みにはしていません。だいたいいま、タブレットを診療室に持ち込んでいる医師も多いわけで、その辺どう説明すんのか。スマホはよくてタブレットPCはダメというのは意味がわからないですよね。

この手の「啓発」は、医学的な知見ではなく政治的なスタンスから決まるという話も聞くのですが、この手のポスターが貼られた瞬間から、多くの人が「あ、スマホは害悪なんだ」と鵜呑みにしかねない。何か良くわからないけれど、権威があるからといって信じてしまう人はほんとうに多いのです。

リテラシーの問題といえばその通りなんだけど、だとしても、病院に「医学的根拠がある」のような文言とともにこういったポスターが貼り出されることは正直めまいがするほどバカげたことだと思うし正直やめてくれよと。貼るなら貼るで、もっとちゃんと因果関係を説明できるかたちにしてほしいんだけどなぁ。