今日都バスで移動していると、突然「おいアンタ、やめてくれませんかねぇ! 優先席の近くで携帯電話使うの!」という大きな声が。

半眠りしていた私が驚いてそっちを見ると、優先席に座ったご老人(男性)が何やら激昂した様子で身を乗り出して非常識だなんだと怒鳴っています。それを受けてスマホをいじっていた若い男の子(大学生くらい?)が、謝りながらそれをポケットにしまっていました。

んで、私はこのご老人の発言にちょっと憤りを覚えたんですね。もうちょっとストレートに書くと、イラッとした。今回は、怒りが風化しないうちにそのお話を少し。

◆車内の携帯利用
まず最初にことわっておきますが、私は「優先席付近で携帯電話の電源を切れというルールはおかしい」という話をしたいわけではありません。とはいえ、まったく触れないわけにもいかないのでまずその話から。

優先席付近で携帯電話の電源を切れというルールは、優先席付近での携帯電話利用がペースメーカー等医療機器への影響によるもの(優先席の人がスマホ操作している若者を不快に感じるからとかではない)ということが前提です。そしてこれがおかしいという議論が出てきた由来は、現在携帯電話がペースメーカー等の医療機器に影響を与える心配はほとんどないという事実にあります。

根拠となるデータは総務省が2015年に改訂した割と信頼性のおけるもの。それによれば、「一般生活において調査条件と同様の状況となる可能性は非常に低く、調査において影響が確認された距離まで電波利用機器が近接したとしても、実際に影響が発生するとは限らない」とのこと。(※ここで「電波利用機器」とまとめられているように「携帯電話」にはスマホやWi-Fiなども入る)


 ▼「各種電波利用機器の電波が植込み型医療機器へ及ぼす影響を防止するための指針」(総務省、平成27年)
※改訂箇所まとめは(これ

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「生体電磁環境に関する検討会」の記録などをもとにもう少し詳しく内容を確認すると、これまでは「一部のペースメーカでは、3cm以内に携帯電話が近づくと誤作動が起きる」のは確かなので、これまでは念のため携帯電話から出る電波が医療機器に影響を与える恐れがあるとする距離は15cm程度離すのがのぞましい、というガイドラインを敷いてきたというのが背景にあります。

ただし、必要以上に不安になる人が多く、またトラブルの原因ともなっているということをうけ、携帯電話の電波がペースメーカに実際に影響を及ぼす恐れは極めて低い旨を明記する方針にしたようです。わざわざこのために改訂以前になかった文言を加えたのですから、きわめて重要な改訂でした。

これに伴い、多くの交通機関が車内での携帯電話マナーの方針を切替えました。具体的には、「混雑時」、つまり極度に人が密着する可能性がある際の優先席付近のみ、携帯電話の電源を切るようお願いする方針にしたのです。

 ▼「車内の携帯マナーが変わる!「混雑時には電源をお切りください」」(izaニュースまとめ)
従来「優先席付近では電源オフ」を呼び掛けていた電車内での携帯電話の使用マナー。総務省の指針改正などを受け、JR東日本など関東甲信越・東北の鉄道事業者37社・局は、10月1日以降、「混雑時のみ」に変更すると発表した。
 ▼「「優先席付近では、“混雑時には”携帯電話の電源をお切りください」」(ケータイwatch)
 携帯電話のマナーに関して、現在は「優先席付近では携帯電話の電源をお切りください」と案内されているが、10月1日以降は「優先席付近では、混雑時には携帯電話の電源をお切りください」に変更される。

2015年(平成27年)10月から、都バスでもこの方針が適用されています。

【都バスの旧マナー】
 ▼「東京都交通局 よくあるご質問
「優先席付近では携帯電話の電源をお切りくださいますようお願いします。」
「優先席付近以外では、マナーモード設定の上、通話はご遠慮いただくようお願いします。」
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【新マナー】
 ▼「優先席付近における携帯電話使用マナーを「混雑時には電源をお切りください」に変更します」(東京都交通局)
このたび、2013年1月に行われた総務省の「各種電波利用機器の電波が植込み型医療機器へ及ぼす影響を防止するための指針」の改正や、スマートフォンの普及に代表される昨今の携帯電話の利用形態の変化などを踏まえて、より多くのお客さまに携帯電話使用マナーを守っていただけるよう、関東のほか東北、甲信越の鉄道事業者37社局が共同でご案内を見直すことといたします。

2015年10月1日以降、「優先席付近では、混雑時には携帯電話の電源をお切りください」とご案内を変更いたします。

なお、車内での携帯電話による通話は、まわりのお客さまのご迷惑となりますので、混雑度にかかわらず、これまでどおりご遠慮いただきますよう、引き続き呼びかけてまいります。
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少し長くなってしまいましたが、交通各社は、携帯電話がペースメーカー等の医療機器に対して与える影響が非常に少ないということはわかったうえで、万一にそなえて優先席付近のマナーを改訂しています。この改定内容が妥当か否かという話はもちろんできるのでしょうが、今回はそれをしたいわけではありません。

一応設定されているマナーなのですから、それを守ることは前提としたうえで話を進めたいと思います。


◆文句を言われていた彼はマナー違反をしていたのか?
いちばん大事なのはここです。私の見立てでは、若いお兄ちゃんはたぶん、マナー違反とはいえないんじゃないかと。

まず、ポジショニングは下のような感じでした。若者は立っています。私は右ななめ下に座っていました。
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優先席「付近」という定義の問題ですね。どのくらいを「付近」と呼ぶのか厳密な定義はないでしょうが、一応総務省の指針にしたがえば15cm以内に接近する可能性がある距離でしょうか。んで、このポジションはどう見ても15cm以上の距離があります。真正面というわけでもない。よしんばお年寄りが立ち上がっても、15cmに接近することはないでしょう。

車内が混雑していたかというとそうでもない。立っている人はなるほどいましたが、何席か座席はあいていましたし、立っている人同士が密着していることもありませんでした。高齢者の乗車などを見越して座席をあけていただけですね。

また、彼は(これは私からはハッキリとは見えなかったのですが)スマホをいじっていただけで、通話をしていたとかそういうことはありませんでした。

ですから、車内マナー的に彼が責められることはなかったのではないか、と思うわけです。当事者ではないのでできませんでしたが、もし私が言われていたら聞き返していたんじゃないかと思います。「なぜ、切らないといけないんですか?」と。


◆問題は老人の態度
しかし、一応優先席の近くでスマホをいじっていたのですから、それに対して不安を覚える人がいるかもしれない、と言われればそれはそうでしょう。だから、そのことを言って、「お願い」するのは対人コミュニケーションとしてありだと思います。

ただそれなら「怒り」を発するのは身勝手です。映画館で、「見えにくいからちょっと横によってください」と言えばいいのにブチ切れて怒鳴り散らしているようなものです。自分の主張がさも当然であるかのように振る舞って怒鳴るというのは、お前何様だって感じがします。

察するにこのご老人はバスの車内マナーが去年の10月から変更されていることを知らなかったか、知ってはいたけどどういう背景で変化したかはわからず、ただ漫然と「優先席付近で携帯を使う奴は医療機器に対する配慮がないからダメだ」みたいな結果だけを意識していたのではないかとは思うのですが。まあその辺はわかりませんね。

◆主張を振り回す暴力
だいたいにおいて、必要以上に他人に対して攻撃的になるときというのは(私も含めてですが)、自分がただしい・正義だと思っていることが多いです。個人的にイライラして抑えが効かなくなった場合はともかく、自分の怒りを誰か別の人にぶつける行為というのは、やっぱり「お前が悪い」的な正当性を担保するステップを踏まないとなかなか発動しません。

あのご老人が実際にどういうことを考えていたのか、私は知りません。イライラゆえなのか自己満足のためなのか。そもそもこの人がペースメーカー等の医療機器を装着していたのか。あるいはもっと深い事情があったのかもしれない。だから、私のこの記事こそが実は無礼で不遜なものだと批判されれば、それに対して返すことばはありません。

けれど、いずれにしても件の彼が東京都の交通局が規定するマナーに違反しているかと問われればしていない。それを勘違いしていたのならこの人は自分の無知で他人に怒鳴りつけているわけでお兄さんに余りに失礼です。

そうではなく、何か別の事情があった(スマホを近くで操作されるのを見るといらいらするとか、ペースメーカーをつけているからちょっと不安だとか)のでしょうか。だとすれば、「スマホを使うな」というのは車内マナーをこえて個人の「厚意」を要求する行為になりますから、丁寧にお願いをするのが筋でしょう。怒鳴りつけるというのは無礼とかそういう話ではなくて傲慢です。

なんというか、こういうのは(おそらくは)不当な暴力じゃないかなと。

自分の主張を伝えるにしても、言い方というのはある。ここまでの話を全部うっちゃって結局「怒鳴ったのが悪い」みたいな話になってしまうので恐縮ですが、特にマナー違反を犯したわけでもない若い彼に対して威圧的にどなりつけたというその行為を、私はやはり微妙に感じるのです。