下の図をご覧ください。「図A」と同じ長さの直線が図Bに1本あるとします。それは、1)~3)のうちどれでしょうか?

soromon

多くの人は、「2)」だと直観的に判断できるのではないでしょうか。実際、単独でこの問いをだすと、正答率はそうとう高いようです。ところが、グループでこの実験をした時に、数人の「サクラ」を用意し、1人目が1)、2人目も1)、3人目も1)……と答えると、次の人も「1)」と答える可能性が非常に高いのだそうです。具体的には、被験者のおよそ75%が、1度は「誤った答え」を出したそうです(Asch「Line judging study」、1955年)。

認知科学で有名な、ソロモン・アッシュの実験というやつで、いわゆる「同調圧力」が人間の判断にどれだけ大きな影響を与えるか、ということを説明するのによく出てくる話です。

こうした判断にはもちろん、周囲の状況というのも大きく関わっています。命を賭けるような判断をする場合だとか、「クイズ・ミリオネア」で大金がかかったときに「オーディエンス」を使った場合だとかは、またちょっと違った結果になるかもしれません。しかし、人が何かを判断するとき、「みんなの意見」を判断材料にする、ということは、比較的多いのだということがわかります。

いわゆる「まとめサイト」などでの「ステマ」や「情報操作」がきわめて有効なのは、「掲示板のレス」というかたちで、匿名とはいえ「みんなの意見」や「みんなの反応」を載せることで、上のような同調圧力を演出できる、という点にあるのではないかと思われます。実際にはもっといろいろな意見があったとしても、編集者が恣意的に偏った意見を集めれば、そこには偏った反応が生まれやすい。ソロモン・アッシュの実験を踏まえれば、特定の個人が表明するよりも、誘導性が高いと言えるかもしれません。

そのような傾向が一概に「悪い」とはいえないし、「社会性」というのはそういう周囲との同調に敏感であることだ、と言えるのかもしれませんが、まあとにかく私たちは自分が思っているほどには《自分で》モノを考えてはいないし、いついかなる時も正常な判断をできているわけではない。

その自覚を持つということが、自分は騙されず、また相手と上手に付き合っていくためには必要なのでしょう。まあ、難しいですけど。すごく。