ツイッターでお題をいただきましたので、ちょっとこの話を書くことにいたします。

といっても、私はメーカーの中の人ではないので実体験にそくしたことは書けませんし、また目の覚めるような鋭い考察もできません。エロゲーのイベント等で聞いたことや、メーカーさんに直接質問したことを簡単にまとめていき(名前出しNGというメーカーさん多かったので今回もマスクです。すみません……)、それにちょろちょろっと私の考えを付け加えるかたちになりますので、過度な期待はしないでください。

また、基本的にメーカーさんから聞いた部分に関してはほぼそのままのつもりで(一言一句ではないにせよ)書いていますが、正式な質問状等を送ったわけでもないのでメモすらない場合もあります。なので、記憶違いや微妙なニュアンスの違いなどはあると思います。また、質問したメーカーさんにも偏りがあります(Viwes系列とラッセル系列のメーカーさんが大半なので、他では全然違う可能性もある)。ですので、参考程度に考えておいてくださいというのはあらかじめお断りしておきます。

1.「偉い人」 の意向
イベントなどでよく聴くのがこれ。「偉い人」の中身としては、社長さんと流通さん、というのがツートップです。 

割と歴史あるメーカーさんや社長のリーダーシップが強いメーカーさんは、「今回の作品は社長の鶴の一声で」みたいなことを言っておられるのを聞きます。クリエイターさんとしては別の企画があったんだけど、やはり学園ものははずさない方がいいだろうという判断がくだった、という類の話に2、3回遭遇しました。

流通さんの意向というのは、だいたいこういうジャンルで、みたいな話が流通さんからあるそうですが、その際に「学園モノ」とか「妹モノ」のような指定が入っていることが多いというお話。多くのエロゲーブランドは流通さんから資金を借りてゲームを制作していますから、パトロンの意向というのは非常に重要なわけです。

ただ、この場合「流通の意向」というのは単に担当者の好みとかではなく、一応マーケティングリサーチを行ったうえで「売れそうなものを作ってもらわないと困る」ということなのでしょう。ですから、(その分析が妥当かどうかはさておき)一応市場調査の結果を反映させた、戦略的なものだと言ってもいいのかもしれません。もっといえば、「学園ものなら当たる」という攻めの判断というよりは「学園ものなら大外しはしづらい」という守りの判断ではないかと思われます。

なお、学園ものではないうえに人死にがでるような作品の発売前イベントとかに行くと、「よくGOサインでましたね」とか、「いまこういうことができるのはおたくのブランドくらいですよね」みたいなコメントが飛び出します。英断を褒めているのか蛮勇を諌めているのかはわかりにくいのですが、何れにしてもこれらのような上層部によるしがらみは相当強烈だということなのでしょう。


2.「企画部(者)」の意向
月末イベントやキャララ!! のようなイベントで「デビューからずっと学園ものだけどこだわりがあるんですか?」とか、「学園もの以外つくる予定はありますか?」のような質問を直接したときに、もっとも多いのがこの回答です。曰く、「企画担当者の考えである」。こういうイベントに来ているのは広報さんや営業さんが多く、そもそもメーカーの中の人ではない場合もあるため仕方ないといえば仕方ない話。

「企画担当者の考え」(だから答えられない)を文字通りの意味でとると、社内で「学園もの」を作りつづける理由が共有されていないことになる。作品のコンセプトとかの部分で大丈夫なのかなという心配もあります。企画者がクリエイターとして参加している場合とかもあるし、一概には言えませんけどね。

ただ、こうやって書いておいてなんですが、これは「学園もの」がなぜ多いのかに対する直接の回答ではなく、要するに「わからない」あるいは「言えない」ということだと考えたほうが良いのかなと思っています。


3.クリエイターの意向
これを強烈に押し出してくるメーカーさんもあります。とはいえ、大抵の場合「学園もの」をやめたい、という希望が多いんですかね……。たとえばシナリオなライターさんが「ふつうの学園ものは避けたい」と言った、みたいな。今はなきYatagarasuさんなんかも、イベントでこの類のことをおっしゃっていました。

なので、私としては「学園ものがやりたいでーす」みたいなクリエイターさんがいるというのが驚きだったんですが、話を聞いてるとなるほど、と思いました。

絵師さんには割と多いそうです。学園もの希望。大学生だと制服描けないからイヤ! みたいな話がでたこともあったとか。

実際問題、制服なら慣れているので描きやすいとか、あるいは制服を描きたいとか言われるとうなずけるところもある。ここからは私の憶測になりますが、これは単純な好みだけではなく、これだけ世の中に学園ものが溢れかえっている状態だと必ず制服は描かされるということで練習もするのでしょうし、センスの良い制服をデザインしたりすることで目立ちやすくなったりというのがあるのかもしれません。

いや、もしかすると事態は180度違っていて、絵師さんに「どんな絵描きたいですか?」と訊ねると絵師さんは「(もう学園ものとかうんざりだけど、たぶん学園もの嫌だって言ったら困るよね……)何でも大丈夫、学園ものも好きですよ!」みたいなやりとりの末に決まってるのかもしれませんが……。

ただ、絵師さんの希望が云々というのは、外注の絵師さんの場合企画が決まってから声がかかるのであんまり関係なさそうです(たとえば今月発売の『11月のアルカディア』も、作品の骨格が決まってから原画家のコンペを行ったという話でした)。シナリオライターさんも同様ですね。基本的には企画が決まってから発注されるでしょうし。

実際、クリエイターの意向だ、というお話をしてくれたメーカーさんは2件だったのですが、どちらもそのクリエイターさんが社員か、準社員みたいな(チーム持ちで動いている)ところでした。


4.内容的理由
これまでのは、正直作り手の側の都合だけじゃないか、ユーザーの考えは売上数というデータ以外見てくれないのか……という感じの話ばかりでしたが、ユーザーへの配慮の結果である、という話もあります。

具体的には、ターゲットユーザーの年齢と近い舞台だということ。

自分がエロゲーマーのスタンダードだと思っているとすっかり失念するのですが、世間一般には30代エロゲーマーはやっぱりマイノリティのようです。2008年データですが、「エロヒャク」さんがエロゲー批評空間さんでSQL叩いて調査なさった結果、18~22歳が27.6%。22~27が40.3%。27~32歳が19.4%。32歳以上が12.7%。年齢の区切りがどうしてこういう中途半端なかたちになっているのかは判りませんが、10代~20代がやっぱり多い感じです。

 参考:▼「エロゲブランドとユーザーの年齢層」(エロヒャク)

2015年ではどうなってんのか実地で調べてみようと「ユーザー世代別統計表」のSQLを実行しようとしたのですがこれが動かず、自分で何とかしようにもSQLよくわからない……。えびさんあたりに頼んでみようかな(他力本願)。時間があったら自分で勉強してやります。あるいは、実際に叩いた人がいたら教えて下さい(超他力本願)。

ただ、実際のユーザー数だけでなく、「これから開拓していきたい層」というのも大きな要因のようです。たとえばある広報さんは、《最近の若い人は掲示板とかblogを見なくなったし、PCすら使わない。スマホが中心で、コミュニケーションや情報伝達はTwitterが主。だから、ムービーや体験版をスマホでできるようにしたり、キャンペーンもTwitter中心にしていく。そうやって主力購買層である若い世代にアピールして、若い世代をどんどんこの業界に呼び込みたい》みたいな話をしておられました。

私としては幾つか疑問があって、そもそもホントに主力購買層は若い層なのか? とか思ったりもするのですが、多くの他のメーカーさんも「30代になるとエロゲーマーは減る」みたいなことをおっしゃっているので、実態はどうあれ、メインターゲットを20代前半の若者においているところは多そうです。

これはオープンのだったので問題ないと思うのですが、onomatope*さんがいつぞやのイベントでおっしゃっていたのは、《学生時代というのはユーザーさんにとってほんの数年前の思い出なので、それを思い出して懐かしい気持ちになってほしい》のようなお話。私にとってはもう 20 15年くらい前の話になりますからそれこそタイムマシンにでも乗る気分ですが、年齢が近い、しかもほとんどのエロゲーマーが通ってきたであろう道というのは共有しやすいという魅力があるのかもしれません。

この、共有のしやすさというのは結構大事なことのようです。別の作品のシナリオライターさんがおっしゃっていたのは、学園もの、とくに「高校っぽい」(高校とは言っていない)舞台がやりやすいのは、ユーザーさんの間にだいたい共通の要素があるからだ、ということ。それ以上になると、専門学校や高専、大学とバラバラになるし、社会人モードだともう共通項探すほうが難しい。そもそも、社会人未体験の人も多いからぱっと入りにくい。とりあえず多くの人にとって無難な選択肢が学園ものなのだ、ということでした。まああと、箱庭的な舞台の作りやすさ(外をあんまり描かなくて良い)とかもありそうですね(想像)。

要は、18歳から始まるエロゲーマー生活の中で、ほぼすべてのエロゲーマーが共有できる最も身近な(時間的に)思い出の舞台というのは「学園」になるという話でしょうか。私なんかはハルキゲニアとかベーカー街の探偵事務所みたいな、未知の世界に憧れるのですが……。そういう2重の意味での「冒険」は好まれないんでしょうか。少し残念です。

あと、これは作り手の側の都合として、イベントが起こしやすいそうです。たしかに、学園祭とか体育祭とか定期テストとか卒業式とか何かと便利に物語を動かせる要素がありますね。ただ、私個人としてはこの辺は固定観念に縛られてるように見えるというか、たとえばオフィスものが主流になっていたとしたら、なんだかんだでオフィス内でイベントを起こす手法が作られていったんじゃないかという気もします。

学園ものが好きなんです! あの夕暮れに染まる校舎で見つめ合ってる二人とか、たまりませんよね……! みたいな方にはまだお会いしたことがなく。たぶんいらっしゃるとは思うんですけど、そういう人でも延々学園ものでないとダメ、という感じで、こだわりの結果学園もの量産マシーンになった、みたいな方は少ないのでしょうか。触手とか魔法少女系はそういう類の方多い気がしますが。


と、私が聞いているところではこんなものです。

なんとなく「学園ものが多いのはメーカーの意向なんだろう」くらいに考えていたのですが、詳しく見るとその内容も細分化されているんですね。ただ、データに基づいていると思しき部分に関して正直言うと、根拠となっている部分(ユーザーの年齢や売上実態)がいまひとつハッキリと見えないので、こういう判断が果たして妥当なものなのかという疑問は最後まで解消されませんでした。

たとえば、「ランス」シリーズやエウシュリーのファンタジーのように、学園ものでなくてもスマッシュヒットを飛ばしている作品というのはあります。数は少なく見えるかもしれませんが、非学園ものの中での比率で考えると、学園もののうち大ヒットしている作品の比率とそこまで大きな差がついているのでしょうか? エロゲーのマーケティングを考えるということなら、その辺で信頼できるデータを見たいなぁと思います。ソフ倫とかでデータ握ってる人が売上分析した結果だという話も耳にするのですが、そもそも実売数が販売店の自己申告という話も聞きますし、これがほんとうならどの程度売上データに信頼がおけるのかという問題も……。まあ、その辺言い出すときりがないんですけどね。

タイトルで最初に立てた問いの大きさ、センセーショナルさに内容が釣り合ってない気がします……。ただ、いまの私のちからの及ぶのはこのあたりまででしたということでご寛恕ください。

可能なら質問状とかをちゃんと送って、そこからさらに実態調査して考察を加えて……とかもやれるんでしょうけど、それってやっぱりもう本格的な取材の範囲なんでいろいろ気も使うし時間も使うしで気軽にできないんですよね。あるいはもう既にこういう関係について言及された調査記事、インタビューとかが載ってた、という情報があれば、是非教えてください。

最後に、今回はお題をありがとうございました。ブログのネタにはいつも汲々としているので助かります。ぜんぶは拾えないのでお断りすることもあるかと思いますが、今後もお題やネタをいただければ可能な範囲でお応えするつもりではおります。また、やってみて興味のある方が多いようならきちんとした企画として同人誌のほうとかで(企画が通れば)扱ってみようかなとも思っています。