ブランド: 戯画
定価: ¥9,800 (税込¥10,584)
発売日: 2015/01/30
ジャンル: イチャラブコミュニケーションADV
原画: marui、みことあけみ
シナリオ: 森崎亮人
アーティスト: 新田恵海、佐咲紗花
作詞/作曲: RUCCA/喜多智弘
OHP: ハルキス
▼批評空間投稿レビュー(74点): OYOYOの「ハルキス」の感想
※攻略は本記事の末尾。
《ブログ用評価 S~D》 (S=非常に良い A=良い B=普通 C=やや難あり D=む~り~)
絵: A (非常に魅力的。1枚絵・立ち絵がときどき崩れる)
話: B (少し特殊なかたちだが、きちんと「恋」を描いていると思う)
演: C (結構不満あり)
H: B (絵もテキストも悪くないのになぜかあまりエロくない。説明的すぎるというか頭でっかちなせいか)
他: B (テキストの剽窃疑惑とかその辺のゴタゴタはちょっと残念)
総合: B (比較がすべてではないが、『キスアト』の域には届かず)
ストーリー (げっちゅ屋さんより)親元を離れ、いとこ姉妹の家で学生生活を送る主人公。留守にしがちな従姉の代わりに、従妹と共に留守番をしつつ、早く自立したいと願いながら日々を過ごしていた。そんな学生生活の最中、主人公は人助けのためにクラスメイトと “付き合っている” という嘘をついてしまう……かくして始まる、ウソの恋人生活。そこに実家から追いかけて来た義理の妹や、同じようにかつて住んでいた場所から様子を見にやってくる恩師の娘。過去の生活。 今の生活。 そしてウソの恋人とのこれからの生活。果たして待ち受ける未来はどんなものなのか。
戯画の恋愛ADV「キス」シリーズの第四弾。前作『キスアト』のヒットを受けてか、森崎亮人氏が単独でシナリオを手がけ、満を持しての登場となりました。
全体としては割と満足なできばえ。ただ、ちょっと変化球気味の内容だったかなという気がしないでもありません。
批評空間さんの一言感想でも書いたのですが、これどう見てもヒロインたちが主人公を攻略する話なんですよね。ヒロインたちみんな男前。あと頭がいい。お勉強ができるという意味ではなくて(このみは若干天然ですが)。ウジウジしていて不器用でスペックの低い主人公というのがどうも苦手という人や、エンターテインメントとしてのわかりやすい爽快感を重視するユーザーにはあまりウケがよくないのかな、なんて思ったりします。
いっぽうで恋愛物語として見た場合には、しっかりとした作りになっていると思います。どうしようもないダメ男に惹かれる女性の話というのは現実でもフィクションでもそれなりにあって、たいていお互いズルズルへんな沼に沈んでいってロクなことにならないのですが、本作はそこを「更生させる話」にすることで爛れた雰囲気を排除して、コメディチックな明るい恋愛ものに仕上げたという感じでしょうか。
ただ、通底する問題意識というのはやっぱり重なっていて、それは「一人でいることの孤独」ではないかと思います。ダメ男に惹かれるというのは、そのダメ男がどうしようもなく自分に頼ってくれるのが心地いいからであり、逆に言えばそういう全幅的な信頼みたいなものが得られていないからそれを求めてしまうということでもある。他者への関心が薄い人間に認められることでしか満たせない、強烈な他者への渇望。背景にあるのは、他者との繋がりに実感や満足感が希薄にしか得られないということ。母性本能とかボランティア精神とか、そういうのとはたぶんちょっと違う。
そういう、ある種の希薄な他者意識、または自己完結的な世界を抱えて、それが寂しいというのではなくてそれが寂しいと思えないことによって世間から浮いてしまう、そういう意味での「孤独」を感じている人には結構「刺さる」話なのではないかなと思います。逆に、これツマンネー、主人公ウジウジで気持ち悪いしヒロインもアホじゃねーの、という人は、変にねじれてない素直な人なのかなとかなんとか。
まあ、そんな感じの恋愛を描いているのでストレートなイチャラブではないよな、という感じを受けました。
エロに関してはちょっと不満。このみちゃんのエロがあまりにも唐突かつ口あんぐりだったこともあるのですが、なんかシナリオとか主人公の内心を変化させるための道具になってる気がしないでもないんですね。いや、描写としては抑えきれない欲望みたいなのが書かれてなくもないんですがどうも説明的&観念的で……。もうちょっと、性欲と直結させた青い感じがあってもよかったのかなと。
ただ、グラフィックのよだれはすばらしい。口をあけたときにこう、ヨダレが糸をひくんですが、これがもう最高。わかってほしいこのエロさ。
みことあけみさんはあんまりヨダレ描かない方なので、maruiさんのキャラ(伊月、このみ)ですね。原画家さんによって違うということはメーカーさん側から指定されているのではないのでしょうか。今後は是非全キャラに入れてほしいところです。
演出についても批評空間さんのところで若干触れた通り、「俺の方なんて気にせず花火を見ていた」って書いてるのに花火見ずにこっちに視線が来てる一枚絵が表示されるとか、これはやっぱよくないと思うんですよね。天音さんは花火見てる。主人公はその天音さんの横顔か後ろ姿かそういうのを見てる。お互いの気持ちが近いようで遠い、そういうもどかしい距離感をイメージする場面だと思うのですが……。これだと雰囲気が全然出てない。
©戯画2015、ハルキス
BGMも、クオリティーは高いのですがどうも雰囲気とあってない感じがするところがあり……。コミカルな場面だと思っていたら深刻そうなBGMが流れたりとかね。まあちょっと完成度的な部分でその辺に不満を覚えました。
あと、一部で話題になっているテキストの剽窃問題。このみルートの一部が2012年~2013年にかけて投稿されていた「やる夫はフェイトのダメなお兄ちゃん」と酷似しているのではないかという話ですが……。
該当箇所はここから以下の部分。(ネタバレが怖い方は見ないことを推奨)
SSを書かれた方もTwitterで言及しておられるとおり、剽窃かどうかは判りません。ストーリーのうえでどうしても必要な箇所ではない(撫子さんの微妙に不安定な性格と母親らしさが出ているところではあるし、その後の撫子さんのおちつきを考えればやや噛み合わない感じもするけれど)し、細かい表現は結構言い換えられてはいます。文言が完全に一致しているわけでもない。ただ、個人的には偶然の一致と片付けるのはちょっと難しいかなというレベルであるようにも思われます。
それで「パクリだ」と判断する人もいるでしょうし、「いや違う」と思う人もいると思います。パクリの線引というのは難しいと思うので。可能な限り客観的に書こうとは思ってますが内容が偏ってたらごめんなさい。あと多分質問来ても答えられるかはよくわかりません。
— 不亦/心駄◆U87dUIT4yo (@U87dUIT4yo) 2015, 2月 3
この部分を森崎氏が書かれたのか、代理で誰かが書いたのかはわかりませんし、単に記憶に残っていたのか明確な意図をもって真似たのか、他に事情があったのか(実は森崎氏のテキストが先にあって、それをこの作者の方が真似ていたかもしれない)とか、その辺は全然わかりません。
また、そもそもメーカーさんなんかが事前にチェックすることも難しいことだとは思いますのでメーカーさんや森崎氏を責め、断罪することに正直あまり意味があるとは思えませんが、森崎氏は名前がクレジットされているシナリオライターの責任として、一応何らかのコメントを出す(あるいは戯画側がそれを調査するなり、氏に依頼・許可する)くらいのことはしてもいい案件ではないかなと思っています。
せっかくの良い作品だし、シリーズとして知名度・人気も出てきているなかで、やはり少し残念な気もいたしました。
【攻略】
選択肢は2箇所。それぞれヒロインに対応するものを選べばOK。初回特典版のCG回収には、追加エピソードDL用シリアルを入力してスペシャルエピソードを選択する必要あり。
※なお、下記攻略は確実な再現を約束するものではありません。誤りなどあればご指摘ください。
伊月 :何だかんだで八住にも世話になった → 水泳部の合同合宿が気になる
葵 :葵に一番助けられた → 期末試験こそ頑張る
このみ :このみはテスト大丈夫だったんだろうか → 客間の掃除を早めにやろう
天音 :天音さん、もしかして暇なのか? → トレーニングを増やそう
個人的には天音ルートが1番刺さりました。