昨日『ハルキス』のサイン会のお話を書いたのですが、友人がその件でブチ切れておりまして……。と言っても私にではなくて、どうもオークションにそのサイン入りイラストシートがヤフオクに出品されていたようなんです。

 ▼「ハルキス 直筆サイン入 イラストシート みことあけみ お兄ちゃん」(ヤフオク)

harukiss_yahoo

名前が「お兄さま」になっています。しかもこの方2品出品していますので、まあそういうことなんでしょう。

さて、お怒りだった友人には申し訳ないのですが、こういうのが即座に「悪」かというとなかなか難しい。ヤフオクの規定に反しているわけでもありませんしね……。しかし、「善」かといえばそれはもちろん違うでしょう。ちょっとややこしい話になるかもしれませんが、一応私なりの立場というか、こういう事態に対するスタンスについて考えを書いてみることにします。

ちなみに「こういう事態」というのは、今回の『ハルキス』サイン会を想定しています。条件を先取りして箇条書きすれば、

 (1)購入者に抽選でサイン会参加資格が与えられた
 (2)サイン会は特設会場で、直接作家さんとお会いして行われた
 (3)HNか本名を記載義務のあるサイン会だった
 (4)サイン転売などに関するアナウンスは特になかった

という感じ。購入者に抽選でサイングッズがあたるとか、そういうのは除外して考えてください。サイングッズ一般の話ではないです。

▼法的にはどうなの?
まず、私の友人がしきりに主張していたので法的根拠みたいな話から入りましょう。彼は、しきりにこれが「転売と同じで違法だ!」みたいなことを言っていましたが、本当にそう言えるのでしょうか? なお、チケット転売なども含めていわゆる「ダフ屋行為」を巡る違法性云々の話は以前とりあげたので今回は省略します。ご関心のある方はこちらをご覧になってください(「東京駅100周年の顛末と転売について」)。

東京都の迷惑防止条例を見ると、次のように書かれています。

東京都条例第103号
第二条
一 何人も、乗車券、急行券、指定券、寝台券その他運送機関を利用し得る権利を称する物又は入場券、観覧券その他公共の娯楽施設を利用し得る権利を称する物(以下「乗車券等」という。)を不特定の者に転売し、又は不特定の者に転売する目的を有する者に交付するため、乗車券等を、道路、公園、広場、駅、空港、ふ頭、興業場その他の公共の場所(乗車券等を公衆に発売する場所を含む。以下、公共の場所という。)又は汽車、電車、乗合自動車、船舶、航空機、その他の公共の乗り物(以下、公共の乗り物という。)において、買い、またはうろつき、人につきまとい、人に呼び掛け、ビラ又はその他の文書図画を配り、若しくは公衆の列に加わって買おうとしてはならない。

二  何人も、転売する目的で得た乗車券等を、公共の場所又は公共の乗物において、不特定の者に、売り、又はうろつき、人につきまとい、人に呼び掛け、ビラその他の文書図画を配り、若しくは乗車券等を展示して売ろうとしてはならない。

赤字で強調したように、「不特定の者」に転売するために「買う」こと自体が条例違反になります。今回の場合、「お兄(さま)」という名前の部分がオークション出品を意図した記名であったのか、それとも本人のハンドルネームかニックネームが本当に「お兄(さま)」なのか、といったところで転売目的の有無を判断することができそうですね。実際私の友達であだ名が「アニキ」という人がいたし(金本選手じゃないです)、いないともいいきれないラインでしょう。

ダフ屋行為が条例等で取り締まられる根本にあるのは、「本当に手に入れたい人がそのものを入手する公平な機会を失う」という公平性の毀損です。今回のように上限人数が設定されている場合、自分が手に入れる目的以外で参加する、ということはその違法性を問われる可能性はあるのではないかと思います。(参考:「転売目的のチケット購入は「ダフ屋行為」!」)

いや、「購入しているわけではない」からそもそもダフ屋行為にはあたらないという見方もできるでしょう。たしかに、東京都の迷惑防止条例では明確に「買う」という語が使われていますので、今回のような購入者への抽選は、厳密には処罰の対象とならないようにも見えます。

しかし、これについては第四条のような例があるので、今回は遊技場ではありませんが理念的にはこちらのほうが適用されるのではないでしょうか。

(景品買行為の禁止)
第四条 何人も、遊技場(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(昭和二十三年法律第百二十二号。以下「風適法」という。)第二条第一項第七号の遊技場をいう。以下同じ。)の営業所又はその付近において、遊技場の営業者が遊技客に賞品として交付した物品を転売し、又は転売する目的を有する者に交付するため、うろつき、又は遊技客につきまとつて、これらの物品を買い集め、又は買い集めようとしてはならない。

無料の交付物であっても「転売目的」で集めれば条例違反になるわけです。

まとめると、オークションへの出品自体の違法性が問われることはない。たとえば、私が「OYOYO様へ」というイラストカードを出品してもそのことが問題視される可能性はほぼありません。どちらかといえば問題視されるのはそれが「転売目的」か否かというところ。極論を言えば、ショップ特典の転売目的でエロゲーを購入することも迷惑防止条例違反となり得る

ただし一般にはこの「目的」の証明というのは非常に難しい。買った側から横流しで売り払ったとしても、「本当は特典を活用するつもりだったけど重たかったから売った」みたいな言い訳がいくらでもできるからです。ただし、今回の場合は本名、またはHNを書くところに「お兄(さま)」という【固有性が薄く、広く一般に通用するであろう名前】で申請しており、それが本当に出品者の名前としてよく用いられているものなのかを検討すれば、違法性を問うことは可能ではないか、という感じ。

まあそんなめんどくさいこと誰もやらないでしょうからグレーの域を超えないという結論になるかと思いますが、心情的には「限りなく黒に近い」といったところです。


▼マナー的にはどうよ?
これに関してはぶっちゃけ微妙です。

同じエロゲー系サイン会で言えば、たとえばういんどみるさんのサイン会に私は2度ほど参加しましたが、そのたびに転売の可能性があるので「上様」や「お兄ちゃん」のような記名はNGとするという主旨の説明がなされています。特殊な名前の場合は身分証を提示してください、と。複数回参加したわけではありませんが、『ラブリケ』のときのあかべぇさんや『つり乙』のときのNavelさんのサイン会も方法はさまざまですが「転売を防ぐ」という意味では似たような感じでした。「本名限定」にしたり、下手をすれば裏に住所を書いて、というパターンもあります。

こういうのはメーカーさんとかサインをなさるクリエイターさんの意向が大きいみたいです。原画家さんやライターさんが転売をものすごく嫌ってるとか(民安ともえさんなどは、転売禁止の明記を条件にサインを提供なさっている、というようなことをおっしゃっていた記憶があります)、あるいはメーカーさんがファンの公平性を損なうことを気にされる場合、イベントの諸注意に書き、開始前に再度注意し、記名の方法などで物理的にも制約をかける等々の対処をする。

そういう観点からすれば、今回の戯画さんのサイン会は特に注意も書かれていないし現場でもなかったので(私がいない期間では注意があったらすみません)、特に問題視されていないとも取れます。いや、イラストボードに記名があること自体転売を防ぐ目的だ、と言われるかもしれませんが、それは記念ということでサービスとして書いてくださっているのかもしれないし、まあ判りませんんね(記名なしでも良いか訊ねてみればすぐ判断つきますが)。

ですから、マナーについては一般論的な話はできず、参加されるクリエイターの方やメーカーさんの方針にしたがうというのが最低限、という結論になるでしょうか。実際自分がサインする立場になったことがないので何とも言えませんが、折角その場で書いたサインを即座にオークションに出されると、「ああ、私のサインいらないのに金になるから来たんだ……」とか考えていろいろ微妙な気分になりそう。

ユーザーの私個人としても、正直言えば面白くはありません。

今回のようなイベントでのサイン会というのはスタッフやクリエイターの方と直に接する貴重な機会です。主催側・ゲストさんともにいろいろな予定の合間を縫ってイベントを開催してくれているわけです。もちろんメーカーさん側の販促活動ではありますが、金銭だけでははかれないコミュニケーションの場としてひらかれているのだと思う。単に販促したいなら、サイン入りグッズだけくじ引きとかにすれば交通費も会場費もかけずにできますし、もっとうまいやりかたはいくらでもありますからね。

だから、営利目的でそういうイベントに参加するというのは、たとえるならボランティアで貰ったものを売り払うとか、友人からプレゼントされたものを質屋にぶちこむとか、そういう類の失礼さ(配慮のなさ)や場違いな感じが垣間見えてしまう。

とはいえ、それはあくまで私が面白くなく感じるというだけのことでしかなく、マナーとして設定するような話ではないでしょう。「ファンのありかた」みたいな話をもちだして「自治」を始めるのは、それがかえってもっと別のややこしい問題を招いてしまうことが多いので、できれば避けるべきではないかと思っています。


▼ユーザーの立場としては?
私の別の友人に、特典グッズを売り払ったり、コミケでは転売などにも手を染める人がいるのですが、自分のような金欠気味の人間が好きなものを買うためには特典売却などの費用はどうしても必要なのだ、ということを常々言っています。

そしてそういう人にとってはサイン会抽選券というのは追加特典をゲットするチャンスであり、可能ならば売り払いたいということになるのでしょう。

また、どうしてもサインが欲しいけど参加できなかったという人にとってはありがたいことなのだと思います。

どちらも私が同じ立場に立つことはありませんが、理屈は分からなくはありません。

ただ、そういうのを蛇蝎の如く忌み嫌う人もいるので、そのあたりの方とは結局のところ平行線というか水掛け論しかできませんよね……。まあ各人が意見を言うのは自由、というのが落としどころでしょうか。


▼個人的な感想も含めたまとめ
法的にはグレーに近いけど「転売の意図」を証明するのが困難だし、そもそも証明できたとしても実際に条例などで処罰されるかといえばそういうことはないと思います。ユーザーの立場としてはいろんな意見・考えがありえるのでどれが良いとか悪いとか一元的な話はしづらい。

そうなるとあとはもう、主催側の意向に任せるしかないでしょう。ただ、個人的にこういうあからさまな転売(「お兄(さま)」とクリエイターさんに書かせるような)は礼を欠いていると思うし、参加した立場としても自分たちの好きなものがバカにされているようで面白くない。また、自分がこういう人たちが当選したせいで抽選に漏れて参加できなかったとしたら非常に不快な思いがします。

なので、転売を阻止するような手段を講じるか、転売禁止等のアナウンスがあるイベントだと気持よく参加できますね。

それにしても冒頭のオークション、即決4000円になってるけど買う人いるんでしょうか。