私の周囲ではやたら評価の低い「なろう小説」。「とりあえず転生しときゃいいんだろ」とか「主人公チート無双」とか色々小馬鹿にしたことが言われていて、完全に誤りというわけでもないのですが、なろう小説を比較的愛読している私からすると別にそればっかりでもないし、それだからといって面白くないわけでもないよ~ということで、ちょっとなろう小説のオススメ話なぞ。

以前も「ぼくは異世界で付与魔法と召喚魔法を天秤にかける」とか「勇者、或いは化け物と呼ばれた少女」を紹介しましたが、ちょっとジャンルごとに何回かに分けて、網羅的にやってみます。といっても、あまり多すぎると大変だからなるべく厳選して……。各ジャンル3つずつくらい挙げられればいいかなぁ。あらすじは、各小説にも作者の方が書かれたものがついていますが、それでは味気ないだろうということで私が勝手に書いています。

今回は恋愛もの。なろう小説といえば異世界俺TUEEが大人気、という流れに逆らうという意味で、比較的イメージから遠そうなのをもってきました。デイリーや月間のランキングには、存外多種多様なジャンルが入ってきます。

他にもなろう小説読んでる人いっぱいおられるでしょうし、「俺の好きなあの話を入れてないなんてセンスがねぇ野郎だ!」と思われるかもしれませんが、その場合は私が知らないだけ/読んでいないだけという可能性もあるので、こっそり教えて下さい。

なお、今後紹介していくものの中には連載中ではあるものの年単位で更新がされておらず、今後更新されるかも不明のもの(俗に、「エタる」という)も含まれる可能性がありますが、ご容赦ください。



【恋愛もの】 ★はオススメ度。5つがMAXです。☆は★の半分。

(自称)愛の女神と巫女姫と護衛騎士(伊簑木サイ) [完結] ★★★★
イステア王国のある村に生まれた少女リサ。彼女は、国の「美人」の条件をことごとく外した残念な外見の持ち主だった。自分の容姿が嫌で、結婚もできないと考えた彼女は神殿へ行き、神に仕える巫女となる。ところがどうした気まぐれか、姫巫女選定の儀式で女神が「国1番の美人」に選んだのは彼女だった。その護衛に選ばれたのは、どんな女性にもなびかない氷の貴公子・ネイド。彼こそリサの初恋の人だったのだが……。愛の女神に振り回される、不器用な男女の物語。

あらすじのまんまの話ですが、シリアスパートとコミカルパートの配分が実にいい塩梅で、笑いまくりながらちょっとグッと来るという、スンバラシー読後感の良い作品です。胸の話にするかという(笑)。共通プロローグ企画という、同じプロローグからスタートして各作者の方が違う話を展開していく、というイベントでできあがったもののようです。

たぶん女性の作家さんではないかと思うのですが、ロマンチックな女性の心理を掘っていくのが上手ですね。あと、ファッションとか情景の描写が凄い良い。読んでるだけで場面が頭のなかに思い浮かぶ感じです。文体も安定しているので、引っ掛かりもありません。

長編も幾つか書かれていますが、テンポの良さや純粋な「面白さ」の面でこの作品が1番完成されているかなと個人的には思っています。好き嫌いで言っても、これが1番好きです。イベント品なので、ご本人がどう思われるかはわかりませんが。

この手のお話が気に入った方には、「復讐王子と氷姫」(岩月クロ、完結)や「夜伽の国の月光姫」(青野海鳥、連載中)なんかもオススメしておきます。


騎士団付属のカフェテリアは、夜間営業をしておりません。(厳) [完結] ★★★
午後十一時を少し回った頃。この時間になると、いつも仕事のせいでくいっぱぐれた騎士団団長のサラがカフェを訪れる。そんな彼女に気前よく料理を振る舞うのは、王宮料理人としても修行を積んだことのある料理長のロビン。深夜の食堂でしずかに紡がれる、2人の心温まるラブストーリー。

サラさん、食ってばっかりです。満腹系ヒロイン。かわいい。

短い描写や会話の中に、登場人物たちの特徴がうまく切り取られていてさくさく読めます。ディテールよりフレームで読ませるというか、舞台にしろ設定にしろ、外枠の作り方がかなり上手な感じですね。すごく自然に世界に入っていける。

いっぽうでキャラクター造形には少し物足りなさも感じたり、2人が接近する理由については、まあロマンティックではあるものの積み重ねてきたもの以上のものを後出しにする感じなので、「そこにしちゃうか」というちょっとした残念感はあるのですが、とにかく雰囲気が良い作品です。

そういう意味では、童話・おとぎ話に近いかもしれません。


旗守りのグロリア(霧島まるは) [完結] ★★★
ゴリラのような外見をした少女・グロリアは、国の王女に誘われて、彼女が組織する「白百合騎士団」に入団する。団員は、王女と公女、そしてグロリアの3人だけ。8年を共に過ごした3人だったが、やがて王女は隣国に嫁ぐこととなる。グロリアは、王女と最後にひと目会うために、生まれて初めて夜会に出席するのだが……。

1話オンリーの短編です。番外をあわせても2話。童話カテゴリに分類されていますが、恋愛ものでいいかな、と。文章は読みやすいしユーモアがあって楽しい。ストーリー的にはごくごくありきたりな話なのですが、随所に散りばめられたアイディアや、意図的なものかは判りませんが絶妙のテンプレ外しが光ります。上から目線なコメントになりますが、この手のお話の特徴をよくおさえて、消化しているなぁという印象。この方の長編では、『左遷も悪くない』が書籍化されていますので気になったかたは書店へ。


(おまけ)
灰色のマリエ(ぷんにゃご) [完結] ※書籍化に伴い削除済み  ★★★★★
祖父同士の昔の約束で、都会の男と結婚することになった田舎娘のマリエ。夫となるエヴァラードは、鉄道会社に勤める前途有望なビジネスマンで、浮き名を流している。彼はマリエを面白みのない娘だと決めつけ、祖父が死ぬまでの間仮面夫婦でいることに決め、マリエにもそのことを告げる。マリエもそれを承諾し、半ば仕事のように彼の妻を演じるのだった。

なろう小説の恋愛ものでは1、2を争うくらい好きな話なのですが、めでたいことになのか残念ながらなのか、アルファポリス・レジーナブックスから書籍化する際に番外編を除いて本編が削除されてしまいました。Amazon先生で見たらなかなか評判も良いようです。昨年末に出た2巻で完結。

中世ヨーロッパくらいのイメージだと思うのですが、心理描写、風景描写ともに丁寧で、マリエたちの生きている世界が鮮やかに目に浮かぶし、そこで生きる人びとの息づかいが聞こえてくるようです。機会的に「義務」をこなすマリエに惹かれていくエヴァラードの様子を中心に、マリエを嫌うエヴァラードの家族、マリエを好きになる同僚や、エヴァラードのかつての恋人といったさまざまな人間模様が物語を彩り、何らファンタジックなことのおきない日常の連続なのに、とてもドラマチック。

「なろう」でもはや読めないのでピックアップするか迷いましたが、ご関心があればということで。


というわけで、【恋愛小説】編、3本+1。いかがでしたでしょうか。……なんか比較的新しい作品に集中してしまいましたが、一応私が読んできたなろう小説の恋愛話で面白かったもののうち、特徴がよく出ているものをチョイスしてみました。新しいものに偏ったのは、それだけ印象に残りやすかったせいかもしれません。

実はというか何というか、恋愛小説は乙女ゲームや少女漫画の世界に転生するという転生シリーズが多く、そういうので人気が高く面白いものもあるのですが、それだと「転生モノ」から距離を取るのが難しいかなと思い、敢えて外しました。むしろそっちのほうが見たいわい、という人はランキング等から飛んでみてください。

そういえば、男性向けゲーム(エロゲー)をなろう小説的にしようっていう人はあんまりいないのかな……。その辺ちょっと不思議な気もします。ハーレムものの異世界転生は多いのに、純粋に恋愛だけやってるのは少ないという。作家さんの性別の問題とかもあるのかもしれませんね。

また、なろう小説で恋愛ものといえば、全体ランキングでもかなり上位にランクインしている「謙虚、堅実をモットーに生きております!」(ひよこのケーキ)あたりをとりあげないのか、と言われそうですが、上述のような乙女ゲー転生モノであることと、あと若干エタり気味で、更新も途中で止まっているので今回は外しました。ちゃんと読んでますし面白いと思いますよ。ネーミングとかキラキラした文化には未だに少し慣れないところがありますが……。

次はまた近いうちに、別ジャンルのオススメを書いてみようかと思います。