半ば無駄遣い自慢になりますが、今年一年は結構いろいろあって大変だった(正確には「なるだろう」という予測だったのですが、残念ながら予想は的中しました)ので、年末に自分への「ごほうび」をすると決めていました。まあ、金に糸目をつけず好きなモノを買おう、と。

で、何をしたかというと財布を買いました。買ったというか、たまたま気になるイベントがあったので、そこでセミオーダーをしました。ご存じの方もおられるでしょうか、夏頃、有楽町阪急で実施されていた「ウォームスクラフツ×Brift H 長谷川裕也」のコードバンカラーレーションイベントです。 

 ▼「「ウォームスクラフツ」のリミテッドストア“THE CORDVAN BAR”」(阪急MEN’S TOKYOブログ) 

そして、今回の大注目イベントが7月31日(木)、8月2日(土)の2回に分けて行われる「ウォームスクラフツ×Brift H 長谷川裕也」のコードバンカラーレーションイベントだ。

靴磨きのスペシャリスト集団「Brift H (ブリフト・アッシュ)」で代表を務める長谷川裕也氏とコラボレーションした企画では、「新喜皮革」が世界に誇る希少かつ最高級のナチュラルコードバン(染色を施していないコードバン)に、お客様の自由な要望をヒアリングし、ハンドペイントのオーダーができる贅沢な内容。

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鮮やかなグラデーションやムラ感を残したペイント、片面ずつ異なる色で表現したバイカラーなど、間違いなく世界で唯一のオリジナルコードバン・ウォレットをオーダーすることがでるのだ。

要は、コードバンで財布つくって、プロの職人さんに相談しながらその場で色塗ってもらえる、という感じ。長谷川氏といえば靴のメンテナンスなんかでかなり有名な方でして、氏にカラーリングをしていただけるというのはそれだけでも結構オイシイイベントなのですが(ただし、2日間のうち長谷川氏は片方だけ)、今回の目玉はなんといっても革。

私も皮革については素人なのでうまく説明できるか判りませんが、まずこのコードバンという革が貴重です。馬のおしりの部分の革で、もともとはランドセルの材料なんかになってたくらい安価でメジャーだったのですが、次第に品不足になって最近では革が枯渇してアホみたいな値段になっているようです。もちろん、ただレアリティが高いというだけでなく、牛革の何倍もの密度がある繊維を持っていて、とにかく丈夫(ただし、水には異様に弱いし力を加える方向によっては弱い)。コードバンが「革のダイアモンド」と呼ばれる所以です。そのコードバンの、ほんとに良い革を使っている。

また、今回このイベントを企画していたウォームスクラフツというブランドは、新喜皮革という日本のタンナーのオリジナルブランドです。世界で数社しかないといわれる、コードバンの原皮仕入れからなめし、着色等の完全一貫生産を手がけている会社の1つがこの新喜皮革。というか、ヨーロッパから良質な革を仕入れて最上級のコードバンを生産できるのは、アメリカのホーウィン社(靴のオールデンとかのとこ)と日本の新喜皮革のみと言われています。他は、イタリアとかに最近小さいタンナーができているみたいですが、まだまだの模様。

多少大げさにいえば要するに、世界で上から数えて一番か二番の革が使えるわけです。しかも、今回はジップ型のラウンド長財布の外装部分を、1枚革で面取りしてくれるという贅沢仕様。これ、何が贅沢かというと、コードバンというのは先ほども述べた通り馬の革のごく限られた部分なので、長財布サイズを1枚革で面取りしちゃうと、コードバンの原皮1枚から財布2つぶんくらいしかとれないんですよね。だから、よくあるのはパーツをきりとって後から貼りあわせたり、コードバンと言いつつじつはホースハイド(馬の胴体の革)だったりというパターンなんですが、今回は完全に1枚革でした。

なんたって、現場に使うコードバンが持ちこまれていたので間違いありません。というか、ヌメ状態のコードバンを初めてナマでみました。自分でどの革使うか選ぶためにあれこれ見せてもらったんですけど、ずいぶん1枚ずつの表情が違うんですね。これだけでも行った甲斐があった(笑)。しかも、自分で「どの部分を使うか」まで指定して選べるんです。マジでたまらん!

ちなみに私は、下のような部分を選びました。向かって左上にシミというみたいなものがあって、汚いと思われるかもしれませんが、これ、いわゆる「焼き印」の跡なんですね。こういう傷とかって、馬にしろ牛にしろ、その革の「持ち主」が生きていた証だと私は思っている。だから、生き物の革というのはそういう傷とかがあるほうが革「らしい」し魅力的に映るんです。傷や毛穴を塗料で塗りつぶして「綺麗に」仕上げられた革というのは、たしかに見映えはいいのですが、どこか画一的な工業製品のようで物足りなさを感じます。

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これがいわゆるヌメ革の状態のコードバン。

また、WCMはいわゆる手作り(手縫いではない)がウリで、大量生産のできるブランドではないので、財布などはものすごく頑張ってもだいたい月産20本が限界、他の製品などの開発生産もあるので実際にはもっと少なくなるそうです。なので、今回のイベントも革の総量と職人さんの労力の関係で20本前後、ということでした。 

要は、非常に貴重な材料を使って、実力折り紙つきの職人さんにこちらの注文をヒアリングしてもらいながら、自分だけの財布を作れる数少ないチャンスだったわけです。のるしかない! ということで波に飛び込みました。

好きな色や普段のファッション、日頃持ち歩くアイテムなどなどからカラーリングについて相談に乗ってもらい(普段ほとんどそういうの気にしてないので、これが大変だった……)、オーダーを決定。長谷川氏が着色にうつります。染料を塗りこんでの染色。こんな風にやるんですね……。顔料をスプレーしたり染料につけこむのに較べると、かなり手間もかかるし大変です。

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見事な手つき。

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緑とバーガンディーのグラデーションカラーにしてもらいました。本当は青とか黄緑みたいなもっと明るい色というのも考えたのですが、経年変化のことを考えたり私の普段のファッション傾向を考えたりすると落ち着いた色合いのほうがいいだろうということで。素人の考えは休むに似たりというやつなので、プロにお任せするのが正解のはず。

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そして、着色が完成します。あとは4ヶ月くらい待ってください、12月ごろにお届けできるはずなので……と言われたので待っておりまして、とうとう先日完成したということだったので取りに行ってきました。

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んで、できあがったのがこれ。ピッカピカです。何でも仕上げのとき、ガラス棒で磨くと表面の繊維がうまいこと寝てこうなるんだとか。私の撮影している手がうつりこんでいます。鏡みたい。まあこの状態は、いま申し上げた磨きに加えて表面を保護するコーティング加工の賜物で、しばらくすると加工が消えるからこういうピカピカはなくなりますが、むしろそのくらいからが使い込んで馴染ませる本番ですね。それにしても存在感のある、すごい良い財布ができました。満足です。

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近くで見ると、革に毛穴(ブツブツ)が見えるでしょう。生前についたであろう傷もうかがえます。色気のある、魅力的な革です。これは大事につきあえば、10年といわず20年、30年もつ財布になるはず。というか、もたせたい!

また、ステッチもだいぶ細かいのがアップにするとはっきり。ズレもなく綺麗なものです。手でこれはムリだろうからミシンだと思うんですけど、技術の高さがうかがえます。こういう言い方をするのは失礼かもしれませんが、同じ百貨店で売ってる、メイド・イン・チャイナの有名ブランド品とは比べ物にならんできです。(万双さんのなんかは同じくらい細かいですね)

そんなわけで、非常にわくわくしながら財布を新しくおろしたのでした。

……諭吉さんがもんすごい勢いで飛んでいったことには目をつぶっておこう……。