人間に通常は知覚できないような刺激を繰り返し与えることで、潜在意識に影響を与える――。たとえばCMなどで、一瞬(0.01秒とか)ある商品の映像を差し挟むことで、その商品を欲しいと思わせることができる。そういう「サブリミナル効果」というのが、昔はまことしやかに言われていました。「洗脳」にも使えるということで、この効果を使ったトリックや何やらも、漫画とかでたくさん読んだ記憶があります。

ただ、これ科学的根拠はあんまりないらしいんですよね。

興味あるかたはこの辺とかご覧になっていただければと思います。

 ・「サブリミナル効果は真っ赤なウソだった!? 偽科学・珍学説の数々」(ダ・ヴィンチ電子ナビ)

私は、『プロパガンダ―広告・政治宣伝のからくりを見抜く』(誠信書房、1998年)という本で似たような話(サブリミナルは公的に否定されている)を読んだのですが、その時、随分ショックだったのを覚えています。だって、面白くないじゃないですか……。

ダ・ヴィンチの記事はかなり単純化して、ヴィカリーの「実験」がでっちあげだったという話に収束させていますが、実際のサブリミナルをめぐる話というのはもう少し複雑なようです。が、サブリミナル効果研究史を詳細に知ったところで、面白くもなんともないので省略します。

サブリミナルの効果を主張する立場としては、ヴィカリーが言うように「購買力を高める」ような効果は無いにしても、無意識に刷り込まれることで脳には確実に影響があるのだという人もいれば、サブリミナルは実際ものすごい効果があるが、公にすると人々が混乱するから効果がないことにしているのだという陰謀論を唱えている人もいます。

前者についてはまあ、映像を見せているわけですから、そりゃ脳に影響はあるでしょう。問題はその影響が、普通に画面を見せるのとくらべてどのくらい違うか、ということのはずです。そして、「しらない間に意識を操られるほどの影響はない」というのが検証の結果が語る意味ですので、やはり首を傾げざるを得ません。

後者の陰謀論については、立証のしようがないので勝手に言っててください、という感じ。

アメリカでは「サブリミナル効果」を使っていると見なされる技術を、マスコミが使うことは禁じられています。日本でも、自主規制ではありますが、放送業界はサブリミナルを禁止していて、これは効果を本当に信じているのか、それとも揉め事になると面倒だから使わないようにしているのか知りませんけど、ご大層なことだなぁと感心します。

赤ワインのポリフェノール効果とかもそうですが、このテのデマ……かどうかはまだ確定してないのか。効果が証明されていないというだけで、効果が無いということが分かったわけではないですから(といっても、「無い」ことを証明するのは悪魔の証明だと思いますけど)。でもまあ、こういう嘘の話は一度広まってしまうと、否定する声というのはなかなか広がりません。

特に、一度マスメディアなんかでそれを飯の種にしていた人なんかは、否定しづらいでしょう。赤ワインは健康に良い、と吹聴していた医者や料理研究家は、「実は効果が無かったそうで……」とは言いづらいし、サブリミナル効果による洗脳や催眠の話をネタにしていた学者先生も同じ。気持ちはわからんでもありません。

しかし、いわゆる「ニセ科学」みたいなのが社会に蔓延する一因には、そういう態度が根強いということもあるのだろうなぁと思う。というのは、本当に「科学的」な態度というのは、根拠なりデータなりが誤っていたらそれを認め、訂正するところにあるからです。科学というのは、結果よりも過程に意味がある。パスツールが科学的という名を冠するのは、自然発生説を否定したという結論によってではなく、それを実証するために白鳥フラスコを用いた実験をしたためであるべきです。

誤っていたことが分かったら、「真実があきらかになってよかった」と思うくらいのほうが良いのでしょう。私のように、結論に振り回されて「サブリミナル嘘だったのか。ザンネン」とか思っているようでは、結論が面白そうなニセ科学に、簡単に騙されてしまう。注意しなければなりませんね。

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