以前こんな記事を書いたかもしれないし、書いてないかもしれないし……有り体に言えば恥ずかしながら、すっかり忘れてしまったのだが、先日また、「初心者に勧めるならどんなエロゲーが良いかなぁ」ということを訊かれた。そこで、ぼんやりと考えたことを書き留めておく。

最初にことわっておくと、ネットで不特定多数の人に向かって「初心者におすすめ」というのは、私には無理だ。荷が重い。そもそも、そういう「オススメ」については、既に動画サイトやまとめサイトなどを中心に、星の数ほど候補があがっている。今更私など、お呼びではないだろう。

だからこれから私が話すのは、「身近にいる相手にエロゲーを勧める」場合の話だと、そう思っていただきたい。

さて、では身近にいる知人友人、兄弟姉妹、あるいは恋人に両親――まあ両親は無いか。だが、恋人や、「妹のことが好きでしょうがないシスコン兄貴」とかに勧めることはあるかもしれない――のような人に、どんなエロゲーを勧めれば良いのか。

タイトルならいくつも思い浮かぶ。『遺作』、『EVE』、『鬼畜王ランス』……古典的名作と呼ばれる、昔のelfやアリス、C'zの作品。「葉鍵」と呼ばれて一世を風靡したleaf、key作品。Fateのようにメディアミックス・アニメ化したものも選択肢に入るし、クリエイターを軸に選んでいくというのもある。

だが、どれが初心者に向いてるかと訊かれると、その答えは、私には私にはてんで分からない。だから、こんなタイトルをつけた記事だけど、具体的なお勧め作品の名前は、挙げるつもりがない。詐欺同然というやつだ。

いや、どうか石を投げずに最後まで聞いて欲しい。私がわからないのは、具体的に「何のソフトを」勧めれば良いか、だ。もとよりそれを語ることが今回の記事の目的ではない。私が目指しているのは、「どのように」勧めるべきかという、方法の側の説明である。

「何を勧めれば良いか」の答えとしてふさわしくないというのなら、こう言い直そう。「ある条件を満たしていれば、何でも良いのではないか」と。

こんなふうに言うと読者諸賢は、えてしてその「条件」というのはゲームの側の条件だ、と思われるかもしれないけれど、そうではない。むしろ、勧める側の勧め方こそが問題なのだと、私は思っている。

どういうことか。

そりゃあ言うまでもなく、人によって好き嫌い、合う合わないはある。凌辱が苦手なひとに、いくら面白いからといって『螺旋回廊』を勧めるのはバカだし、ラブコメをやりたいと言っている人に『あやかしびと』を勧めても効果は薄い。とはいえそのような「好み」というのは、外からはもちろん、当の本人自身にも、実はよくわかっていないものだと思う。まして、エロゲー初心者なら尚更だ。

仏教には「応機説法」という考えがあって、この「機」というのは、機会ではなく機根――つまりはその人の資質に応じてふさわしい真理の説明があるのだと、おおよそそんな意味らし。「嘘も方便」の「方便」とは、この時に用いられる真理の一面だけを捉えた言説のことを指すのだとものの本に書いてあった。

ともあれ、釈迦の昔より、理想としてはその人にピッタリ合うような作品を探り出して与えるのがベストなのだということはわかる。わかるけれど、それはお釈迦様だからこそなせるみ業というやつだ。お釈迦様は、相手のことも、自分が伝える「教え」の内容もきちんと把握していたから、機に応じてあれこれできたかもしれないが、み仏の導きもない身にそれは、さすがに少々難しい。

では煩悩具足の私たち凡夫はどうするのが良いかというと、これはもう、自分が本当に好きな作品を勧めるしかない、と思う。相手のことと自分のこと、どっちのほうがまだ分かっているかというと、自分のことについてのほうがまだマシだろう。

だいいち、相手が初心者とか上級者とか、そういう「区別」をしてみたところで、どれほど意味があるのか。自分のことを思い返してみると、エロゲーの経験は「ステップアップ」していった感じがあまりしない。最初からガツーン! だった。少なくとも私は、かなり初期からハード凌辱ものをやっていたし、似たような人を何人も知っている。そうして、そういう人ほど案外長く、この業界にとどまっていたりする。

というよりも、である。

よくよく考えて欲しいのだが、どうして私たちは「身近な相手」に、エロゲーをやってほしいと願うのだろう。それはやはり、同じ話題を共有したいからではないのか。もちろんそのために、少しずつ蟻地獄に吸い込むようにエロゲーにハメていくというのはわからないでもないのだけれど、私のようなオタクというのは、とにかく我慢が利かない。好きなものについてはガンガン語りたいし、突っ込んだ話を聞いてみたい。飲み会や何やらで空気を読むことはあっても、基本そんな欲求が心のなかでとぐろを巻いている。

そんな人間が欲するのは、同じ目線で考え、語ることのできる仲間である。少なくとも、私はそうだ。だから、他人にエロゲーをすすめるときは、同時にそれが、これからエロゲーについて語り、一緒にプレイしていく仲間として、相手の資質を確かめるものであると、効率が良い。

たとえば、熱くエロゲーについて語ってもドン引きしないか(そのうち、どうせボロが出てしまうのだから)。自分とどの程度趣味が合うか。そういうことを、確認したほうがいい。身近な素人相手にエロゲーを勧めるというのは、単にエロゲーを布教するという意味以上に、自分にとって快適な環境をつくるという要素も、きっと、どこかしらに存在している。

そのためには、いちいち様子見などせず、いきなりズバッと自分が「これぞ」と思う作品を差し出してみるのが手っ取り早い。相手が嫌がるような内容を無理にやらせる必要はないけれど、好きも嫌いもなさそうなら、最初から主力で一気に本丸を攻める。

――これを大好きって言ってくれるヤツとなら、話があうだろうなぁ。

そんなふうに思える作品を、試しにプレイしてもらうのが一番ではないだろうか。そうすれば、相手の人となりも、趣向も、自分を基準にしてきちんと測ることができる。自分の周りで「エロゲーの輪」を広げていくには、まことに都合が良い。大好きなお兄ちゃんに、妹萌えのエロゲーをやらせる某美少女は、だから、大変合理的なのである。

あるいは、こう言っても良い。あなたが大好きな作品を気に入ってくれるようなエロゲーマーが近くにいるのが良いんじゃないですか? と。趣味が合わない相手でも、エロゲーマーがいてくれることはありがたいけれど、合えば尚更嬉しいだろう。

そんなわけで、身近な人にエロゲーを勧める場合は、自分が「これぞ」と思っているのを、いきなりガツンと勧めてしまうのが良いと、私は思っている。案外そういうもののほうが、伝わる側の熱意も一緒になって伝播して、楽しんでくれたりするものだ。少なくとも、「最高っていうわけじゃないけど初心者ならこのくらいからスタートが良いかな」なんて、妥協の産物を勧められるよりは、よほど熱が入るんじゃないだろうか。

エロゲーを勧める時に、まず伝えるべきなのは、おそらく勧める人の持っているその「熱量」。それを受け止めて、呼応してくれる人であれば、この先きっと、私たちの「仲間」になってくれるはずである。

ってなわけで、DTIが長期メンテやってたこともあり思いがけず時間が多めにとれたので、今回は読み物を意識したスタイルでやってみました。


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