天にひびき07
やまむらはじめ『天にひびき』no.7 (少年画報社、2013年4月)

大好きな『天にひびき』の新刊が出ていたので、遅ればせながら久々のコミックレビュー。

今回は、前回からの続き。主人公である久住秋央(表紙右側の男の子)がヴァイオリンコンクールにでるお話から始まります。コンクール編がトータルで三話。

ひびきとの再会によって、ひびきのコンマスになりたいという具体的な目標を持つようになった久住は、これまでフラフラしていたのが嘘のように力をつけはじめます。もともと榊教授(音大の先生)のもとで学んでいた秋央はしっかりした基礎があったので、目的意識と自信によって良い演奏ができるようになった。

秋央の指導教授である如月風花は、秋央と南条(秋央の同級生)をステップアップさせるために「あまりメジャーでない」都内の小さなコンクール(東都音楽コンクール)に協力なライバルはいないとふんで送り込んでいたのですが、これなら大丈夫だろう……と一安心。

ところが、優勝賞金が規模の割に高いこともあってか、このコンクールに、現在日本の若手ヴァイオリニストの中でも注目株が2人も参加。秋央らと賞を争うことになってしまいました。「個性的なタイプに影響され易い」せいで自分の演奏が定まらず、あちこちにフラフラしていた秋央は、案の定これに影響されて、予選で大打撃をうけてしまいます。また南条も、圧倒的な実力差を前にして、勝手に自分の限界を決めてあきらめる、「必要以上に自分を守る」癖が出てしまう。

さてさて、本戦はどうなることやら……。

という感じのお話がメイン。静かながら迫力のある展開で、終わりも良い感じでした。

あとは、秋央と美月、美香(波多野さん)の三人で病院にチャリティーコンサートに行く話が一つ、ひびきが指揮者としてステップアップしていく話が二つ。

このコンクール編がとにかく良かった。何が良いって、自分の身と重なるのが良い(笑)。音楽とは違いますが、なにかを表現するという分野では、否応なく人と比較されますし、また自分とその比較対象の「圧倒的な差」みたいなのを感じてしまうというのは、私のような天才ならぬ身には、とにかくありがちです。

「上手い人間なんてゴロゴロいる。この世界にいると事あるごとに思い知らされるこの事実」

「キチンと曲が弾けたとしても、とてもあの2人に勝るとは思えない」

「なぜ同じ楽譜を見て演奏しているのに、あれ程差が出るのか……」

「単に僕が下手なだけと言ってしまえば簡単なんだけど、自分の方向性も見極めずに只、闇雲に上手くなりたいって思ってても、ああはなれないだろう」

上のような感じで秋央くんは悩むのですが、「いやー、わかるわかる!」って思ってしまったわけです。超わかる。文章で言えば、深く読める人間・鋭いことが書ける人間なんてごまんといる。そういう人たちの中で、自分が少しでも彼らより勝っているといえるところがあるのか。その世界で生きていこうと思ったら、圧倒され、劣等感に苛まれ、誰よりも自分で相手との差を自覚しながらも、戦っていかなくてはならないわけで。

南条が「その他多勢」になってしまう自分の演奏に、何の意味があるのか悩んだのも、凄く共感できるところがある。もちろん彼らの悩みと私の感じた悩みは違うのでしょうけれど、具体的なシチュエーションから伝わってくる「迷い」が、凄く身近に感じられました。

あとはどうやって秋央がそれを克服するかだったんですが、このハードルの超え方も、納得の一言。本巻はこれまでのように恋愛描写が強いことも、できごととして派手で面白いことが起こるでもなく、ひびきのあたりも含めて一部登場人物の内面を掘り下げていくタイプの話が続いていて地味です。

ですが、やまむらはじめさんの真骨頂は、やっぱりこの辺りの描写の力にあると思う。「カムナガラ」や「ドォルズ」が流行ったぶん、アクションがないと物足りないと感じる人は多いのかもしれないけれど、私は人間ドラマが好きです。

やまむらはじめさんの描くキャラクター心理の魅力の一つは、やっぱりそれが、キャラの「今後の物語」を連想させるところです。ドラクエでレベルアップしたら次の街に行くのがわかるように、キャラの心理が変化したり、成長することで、次のステップが見えてくる。心理をベースにして物語をつくるのがとても上手だな、と。

恋愛話が少なかったのが物足りないと思いつつ、不幸になることが目に見えてるけど波多野さんには頑張ってほしい私としては結構ご褒美も多かったので、トータル大満足。非常に読み応えのある巻でした。

次も楽しみです。

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