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タイトル:『ポケットに恋をつめて』(青空ビスケット/2013年3月15日)
原画:くない瓜、生煮え(SD)
シナリオ:北灯ちとせ、うたや、伊舞新、藤谷優
公式:「ポケットに恋をつめて」OHP
定価:8800円
評価:B (A~F)

関連
批評空間投稿レビュー (ネタバレ無し) ※外部リンク
・ 「解体する物語によせて ――『ポケットに恋をつめて』という作品について」(2013/03/22)

※具体的な長文感想・内容紹介は、批評空間さまにて投稿しております。
※ゲーム画像の転載・素材利用については青空ビスケット様に確認のうえ掲載しております。



▼評価: キャラクターと、彼らが生きる世界をしっかりと描いた良質な作品
「奇妙な」ということばを連呼しましたが、言うほどヘンではないというか、目に見えてヘンな感じではありません。少なくとも、ぬるぬる動くバナーほどヘンではない。パーフェクトではないにせよ、全体としては「キャラクターと、彼らが生きる世界をしっかりと描いた良質な作品」というのが、ぴったり来ると思うし、その意味ではとても地に足の着いた作品。

システム・テキスト・演出を含めて細かい粗が目立ったのが大きな減点要素。そこは本質じゃないだろう、という見方もあるとは思いますが、私は商業作品であるなら完成度も問題にすべきだと思います。理由は二つあって、まず、そうでないと、きっちりやってるところが浮かばれないから。もう一つは、細かいところが雑でも良いというのは、その程度の大雑把なことしか言う気がないと見られても仕方がないと思うからです。なお現在は、パッチによって大きな問題のほとんどが解決しています。


▼雑感: 魅力的なキャラクターたち
共通から個別ルートに分岐すると、基本的に他のヒロインとのイベントは起こりません。ちらほらと出てきますが。あと、個別分岐が早いキャラに関しては、後半ちょっと、共通の内容が挿入されることもあります。こういう自由な組み換えが、この作品のおもしろいところですね。

ともあれ、各キャラの紹介と感想。

#1 呉藤 凛音
  ――これは私の嫉妬で、罪悪なの。いつも他人にいい顔をしようとしている、私の。

絵に描いたような優等生、呉藤凛音。どんな時も動じずにテキパキ動き、スマートにものごとをこなすように見える。けれど本当は努力家で、テンパリやすく、見栄っぱりで、嫉妬深い、普通の女の子。たぶん、全ヒロインの中で一番普通。そしてそれゆえ、いちばん親しみやすい女の子です。同い年ということもありますし。

©青空ビスケット 以下画像はすべて同じ。
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修次に自分の「屈折」を打ち明ける場面。彼女の真面目な性格がかいま見える。

凛音の性格を最もよくあらわすのは、「生真面目」ということばでしょう。彼女はいつも真剣で、全力で、だからこそ、行き詰まりやすく折れやすい。必要以上にものごとをマイナスに捉えてしまう。修次はそんな彼女にとって心を預けられる存在になっていくわけですが、その「恋に落ちるまで」のプロセスの描写が凄く良い。さわやか3組も裸足で逃げ出すさわやかっぷり。

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この笑顔である。ちなみに、これでまだ付き合い始めていない段階。

他のヒロインが割とあっさり(ゆり姉はちょっと特殊だけど)肉体関係に走るのに対して、凛音は物凄く過程が長くて丁寧で、そのぶん見応えもあります。付き合いだしてからのイチャラブも悪くはないけれど、「性春」よりも「青春」の色が強かったです。

ちなみに、上の画像の次のセリフ、「知らなかった。理解されるだけで、満たされる事もあるんだ」は、凛音ルートのハイライトだと思います。何かよく分かんないけど聞いた瞬間ガッツポーズしていた私ガイル……。

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心を許し始めてから見せる、素顔がとてもかわいらしい。

相手の「心」のありかを手探りしながら想いを深め合い、お互いのいろいろな表情を知っていく。いわゆるボーイミーツガール的な路線の王道として、パーフェクトに近い内容だったと思います。

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#2 篠原 ゆりえ
  ――ずーっと前から、大好きだったよ。

揺れる双丘を武器に虎視眈々と獲物を狙うラブ猛禽類、歩く淫獣・篠原ゆりえ。通称・ゆれ姉ゆり姉。幼なじみでお姉ちゃんで巨乳、という、私的にはトリプル役満のキャラでした。

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割とボディタッチ多め。ノーブラは攻撃的だよ。

凛音がボーイミーツガールなら、こちらは「ずっと好きだった」タイプ。幼なじみという関係を、どうやって一歩踏み込んだものにしていくか、というのが物語の動力です。途中ゆりえが言う、「あわよくば、自然にそうなったらいいな、なんて、虫のいいこと考えてた」というセリフが、二人の距離感をうまく表しているでしょうか。

あと、ライターさんが違うのか書き分けなのかわかりませんが、凛音は「事」のように漢語を使うのが多いのに対して、ゆり姉はいまの引用の通り、「こと」とひらがなを多用します。「たいせつ」なんかもそうかな。凛音が「かっちりきっちり」した感を出すのに対して、ゆり姉はやわらかい感じが伝わるようになっている行き届いたテキストで、文字重視の私としてはたいへん満足。

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ラブ猛禽類宣言。卒業しているはずなのに、なぜ制服を着ているのか……。(Ver1.02段階)

ゆりえはスタート時に3年生なので、ゲーム期間2年のうち最初の1年で「ヒーロー部」どころか学園からも卒業してしまいます。が、その後も時々戻ってきて要所要所で活躍するのでご安心あれ。

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ぽわぽわしているようで、意外としっかり者。そして、一度決めると強い。

ゆり姉のルートはとにかくラブラブしていて、正直見てるこっちが胸焼けおこしそうだし、あとエロエロもしているので色々疲れて大変だったんですが、ほんわかした天然ボケキャラみたいなイメージに反して、かなりしっかりした自分の意思を持っているし、他人に対しては思いやりが凄くある。

某ルートで篠崎(主人公の男友達)が主人公に、「お前がまっすぐそだったのはゆりえの影響」みたいなことを言うんですが、本当にそうでしょう。変人揃いのヒーロー部の良心にして太陽。人間的魅力にあふれたキャラです。そんな彼女がブラ外して胸をグイグイ押しつけてくるんだから、そりゃもうたまらんであります。

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#3 西洞院 多紀
  ――平然となんて、してないわ。いつだって、分かってもらえないけど。

旧華族の完璧お嬢、ただし、不思議系のクラスメイト。冷淡なのかとおもいきや、主人公たちの暴挙に手を貸したり、「楽しそう」という理由でヒーロー部に入ってくるあたり、なんとも「つかみどころがない」という感じでした。

ただ、接する時間が増えて近くで観察すると、感情の起伏がきちんとあることがわかるタイプ。実際、小さなイベントの端々で彼女の「らしさ」が表現されています。エロ関係のときは、とくにハッキリしますけれど(笑)。

どうやら彼女、エロいことに興味津々なんですYO! クール系でエロ大好きとかなにこれ! ヒャッホウ! というわけで、誰よりも早くHに突入を試みるのですが……。

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は、はあ……本に……。博識でいらっしゃる。

天 然 す ぎ る 。

天然キャラ枠、ゆり姉かとおもったらこっちでした。「服の内側を見せるのは、凄く失礼なこと」とかのたまい脱衣をためらわれあそばされますが、全然OK。むしろガンガンみせてくれていいのよ?

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しらんがな。

凛音とは別のかたちで、複雑な心をしている多紀。彼女のコンプレックスは「普通でないこと」なのでしょう。それは家柄とかではなく、自分の感情を持て余す、という意味で。凛音が、物凄く明確な自意識の枠にじぶんをあてはめて、その束縛でがんじがらめになっているキャラだとしたら、多紀は、その自分をあてはめる枠を見つけられなくて苦労している感じ。同じように内面に目を向ける展開でありながら、非常に好対照です。

また、凛音が恋愛にいたる「過程」を重視していたのに対して、多紀の場合ははじまってしまった恋を、どう消化していくか(意味づけていくか)にクローズアップしていく。キャラ絵のかぶり具合も含めて、凛音の対になっている感があります。

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ヤバい興奮する……。修次もこの多紀さんを見て一気に野獣化。むべなるかな。

多紀は、自分の「内」と「外」が一致していない。その部分をどうやって埋めていくかが話の中心……になるかと思ったんですが、想像以上のエロ担当でした(笑)。修次も、ウブな多紀さんをいじめて大喜び。私の息子も大喜びです。というかこんな目とこんな表情で、「帰らないで」とか言われて理性保てるヤツいるんですか?

そんなこんなで、「キスよりも遠く、触れるには近すぎ」る感じがなんとも味のある多紀さん。物語的にはこちらもボーイミーツガールですが、カラダの関係から先に始まるタイプ。ただ、この娘本体のかわいらしさもあって、あんまり不純な感じはしません。全体としてみると、ゆり姉につぐイチャラブというかイヤラブというか、そんなルートでした。

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#4 大泉 舞羽
  ――疲れるんですよ。まるで同じ量を返して欲しいって要求されてるみたいで。

明るく元気でロリロリした後輩――などでは全然なくて、恐らく4人のヒロイン中、最も癖があるのが、このまうぞうさん。自称が「まうまう」だの「まうぞう」だの「まうっち」だのとコロコロ替わるのですが、それがどうしてかということは、ゲームを進めていればわかってくると思います。ただのボケキャラでは、決して無い。

実際物凄く頭が良くて、しかも冷淡。たとえば凛音がある事件でとった行動に対して、舞羽はバッサリ言います。「傷つけられるのが嫌ならそう言えばいいんです。でも、言えない。言えないから呉藤先輩は呉藤先輩なんです」

舞羽の特徴は、この頭の良さというか、ちょっと離れたところから自分や、自分を取り巻く関係を見るところ。そして自分も「造る」、そういう物凄く自覚的で意図的なところにあるのだと思います。だからかどうか知りませんが、彼女の立ち絵は常に正面ではなくて、ちょっとナナメを向いています。ストレートには来ない。

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面白さ。それが彼女の求めるもの。

ある意味で凛音よりよほど原理原則主義者で、多紀よりもずっと醒めたキャラなのですが、そんな彼女が「ヒーロー部」に参加したのは「楽しい」から。いったい彼女がどうして楽しさを求めたのか、そこで見つけようとしていたのは何だったのか。そのあたりは、プレイしてからのお楽しみということで。

彼女に関しては突っ込んだ話をすると色々楽しみが薄れそうなのでこの辺で止めますが、世の中や人間を斜めから見ている彼女に対して、主人公はまっすぐそういうものと向き合っている。だったら、どうやって彼女の心の扉を開くか。それはもう、全力でバカ(アホ)なことをするしかない。

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呆れつつも、心からの声に対してはきちんと向き合ってくれる舞羽。

理屈で自分をかためたり、そういうものでは舞羽のほうが一枚も二枚も上です。だから、修次がそこで勝負しても、彼女の心には届かない。修次の武器は、たとい打ち返されるとわかっていても、まっすぐにストレートを投げ込むクソ度胸しかないわけです。

そういう、ある意味ではアツい……と言えなくも無いかもしれない舞羽ルート。正直物議を醸すというか、「工エエェェ(´д`)ェェエエ工」という人もいるだろうし、この後の2人がどうなっていくのか想像すると、必ずしもそこにあるのは平坦な道じゃないだろうなと思うのですが、そういう想像が働くということが、この2人のキャラクターが凄く上手に描けているということに思えるし、私はこういう余韻の物語は好きなので、かなり気に入っています。

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あとは本当は高日向修次という主人公についても書いたほうがいいのかもしれませんが、まあ男の話はどうでもいいやということで、これにてキャラクター紹介兼、本編の内容紹介はおしまい。

キャラについてもっと知りたい! という人は、初回特典の小説必読だと思います。ゆり姉と修次くんの「昔のエピソード」とか。

さて、私が『ポケ恋』について思うのは、キャラを中心に動かした作品だ、ということです。

そして、それを可能にしたのが既存のADVという「思想」からの、些細な逸脱の積み重ねであった、ということばかり、これまでは書いてきました。(本当は「画期的」とか「革新的」のほうがイメージ良いのですが、そこまで行くと、今度は本当に突拍子もないものを期待する人がでてはいけないと思い、あえて「奇妙」という言い方にしています)

ただ、そういうレビューは物凄くイビツです。なぜというに、「作品内部が楽しい」と言ってるのに、その「内部」の話にはほとんど触れていないから。カタチの話しかしてない。本を褒めるのに、装丁の話ばかりしているようなものです。

もちろん、多少わざとやっている部分もあります。それは、説明しないとただキャラがいいだけの普通のゲームになってしまうからというだけではなく、表現の形式と内容をずらした作品だという主張によって、作品の面白さを言うという逸脱を真似してみようとか、そういう遊びの気持ちもあって。

ただ、一度くらいきちんとキャラの話をしておきたくなり、今回はキャラ紹介を中心に本編のレビューといたしました。私の考えでは、これが一番ストレートに、作品の魅力を伝えることになるのではないかと思いますし、少しでも伝わることを祈るばかりです。

最後にではございますが、スタッフのみなさんには、たいへん楽しい時間を過ごさせて頂いたことに感謝を。

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