先日ソフマップの「PCゲーム倶楽部2013」に関するとある記事を拝読しました。こういう、簡潔・明瞭で立場のはっきりした記事を読むと思わず納得してしまいそうになったのですが……。「あー、なるほど!」と思う一方、「あれ? そうなの?」と疑問に感じたことがあったのでちょこっとだけ。(「そろそろソフマップの色紙販売について一言言っておくか」)

別にこの記事をかかれたhalf_moon氏に特別な感情も無ければ、ソフマップに恩も義理もない(つまり私の主張がない)ので本当にただの「言説に対する感想」になりますが。あ、一個あるとすれば、私が「PCげーむ倶楽部」予約いれてるので、その自己弁護でしょうか。

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【関連記事】
[エロゲ/ギャルゲ]「ものの見方あれこれ ~PCゲーム倶楽部を巡って」へのレス」(「Half Moon Diary@はてな」さま2012年12月18日記事)※外部リンク

(「そろそろソフマップの色紙販売について一言言っておくか」「Half Moon Diary@はてな」さま2012年12月14日)※外部リンク

ものの見方あれこれ(2) ~half_moonさんへのお返事て」(2012年12月19日)

PCげーむ倶楽部2013の話」(2012年12月2日)
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まず、深く納得したのは「要するに1月に現金が必要ってことでしょう。なまぐさい話ですなあ。」ということ。ナルホド・ザ・決算期。私は前の記事で「どういう意図でのサービスなのか」よくわからないと書いたのですが、これは真偽のほどはわかりませんが、説得力あります。某大評論家先生風にいえば、「そうかも知れぬ、そんな気もする」。

あと、「気になるのは会員になった人が途中で引っ越した場合」という一言。これはまったくその通りであると思いました。むしろこっちのほうが問題の気がする。基本的に店舗のみでの受け取りなので、そういう事態は十分考えられるんですよね……。私は「旅行中とかに思いだして変なところで申し込むと地獄を見る」とか書いておきながら逆(受取時に場所が変わってしまう)の可能性を完全に考えていなかったので、これは恥ずかしいことです。

-----おまけ-----
※まあこのへんは簡単に調査できますので、ソフマップさんに直接行って確認してきました。電話でもよかったんですが、対面のほうがいろいろ聞けるかなと思ったので。

アキバ☆ソフマップ1号さんとアミューズメント館でそれぞれ質問してみたところ、ともに丁寧に対応してくださいました。ありがとうございます。回答はどちらもほぼ一緒ですが、1号さんのほうが内容について詳しく教えて下さいました。

まず、どちらも「申し込み後住所等が変更になっても受け取りは最初の予約店のみ」というお返事。住所変更等の届けをしてもダメ。あまりにも融通がきかないので理由を問いただしたところ(ウザくてごめんなさい)、店舗ごとに予約数ぴったりを最初に発送するためだ、ということだそうで。

言質はとれませんでしたが、たぶん2月の配布時点で4ヶ月ぶん全て用意されている予定なんじゃないかな。一応例外的に、バインダーを受け取る際に受け取るスタンプカードと本人のソフマップカードの両方が用意されていれば、代理人引き取りも可能だということでした。ただこれ、クレジット機能付きのソフマップカードの場合はほぼ不可能ですね。
-----おまけ終わり-----

▼half_moon氏のおっしゃっていること
個別の議論内容を捨象して再構成すると、half_moon氏の主張はおよそ以下のように読むことができます。

(1) 「PCげーむ倶楽部」は「会員制」をうたっているが実態はただのグッズ販売である。
  (「要するに色紙12枚+バインダーを6300円で売るってこと」)
(2) 「PCげーむ倶楽部」には幾つかの実務的な問題がある
  (ユーザーのリスク等)
(3) 「PCげーむ倶楽部」には3つの「理念的な問題」があり、そちらのほうが深刻である
 [問題1]ソフマップでゲームを買うこととこのサービスの間に何の関連性もない
 [問題2]色紙の有償提供はファンサービスの精神に反する
  (色紙は伝統的にご愛顧に対する感謝の気持ちを表すもの)
 [問題3]全ての有償会員サービスに対する冒涜である

さて、このお話、それこそ氏の「理念」を取り出せば賛成したい部分が多々ある。真摯な方だと(皮肉ではなく)思います。ソフマップさんがあまりお好きではなさそうだなという部分は措いておくとしても、クリエイターのかたのギャランティにまで配慮したり、「行き過ぎた特典商法」に警鐘を鳴らそうという姿勢からはエロゲーや作品・その作り手に対する敬意と愛情を感じます。

ただ、議論としてはちょっと乗りづらく思うところがある。結論より過程で。では具体的にプロセスの何が問題なのか。

上記(1)、(2)については、まあそりゃそうです。特に(1)はグゥの音も出ないくらいその通りです。ただ、「入会」する人のほとんどが「色紙一枚500円計算か」と思っているんじゃないかという気もする。(2)についてもごもっともですが、これはどんな商品・サービスにもある程度リスクはあるわけで、今回企業側のある程度の不親切さ(発送費用削減のために取りに来させる)を除けば、そんなに目くじらたてるほどではないか。実際氏もあまり大きな問題であるとは考えておられないようですし、これ以上踏み込むことはしません。

したがってこれから取りあげるのは主に(3)のこと。一つずつ見ていきましょう。

▼ソフマップでゲームを買うこととサービスとの関係
まず[問題1]について。

うーん。ぶっちゃけるとこれ、問題なんでしょうか……。何かの会員サービスの理念と実態のズレを糾弾するというのは、いささか現実的ではない気がします。たとえば、「日頃のご愛顧の感謝を込めて」というデパートの会員向けバーゲンセール。これ、理念的には「日頃使ってる人」しか買えないはずですよね。しかし、誰も買い物履歴とか参照しないし、下手をすると当日デパートのカード会員になってもそのサービスを受けられる。これは「サービス」と「理念」がズレていますが、まあ良いかって感じでしょう。

とはいえこのパターンは、会員になった後買い物をするから「後から関係を作る」という意味で一応建前的に理念を満たしているのかもしれません。では、次のような場合はどうか。

私は池袋の某百貨店で一度も買い物したことがない状態でカードを作ってもらいました。買い物しなくても作れました。百貨店のお得意様のためのカードを、クレジット機能(VISA)目当てで買い物せずにつくったわけです。使用はもっぱらAmazonです(爆)。当然、作るだけ作ってあとはカード会員の優待割引とかのためだけに利用しても構わないでしょう。こういう例はごまんとあるし、「PCゲーム倶楽部」もまた同じ程度のものではないのか。

つまり、「ソフマップ会員になってくださいね」(ついでに個人情報よろしく)くらいのものとして捉えることに、それほど問題はないと思うんです。前向きに捉えるなら、「これから買い物を考えている人」にも先行投資で配る感じがある。ソフマップで買ったことが無くても今回の購入でカード作ってポイントも溜まったら今後ソフで購入する可能性も増えますからね。

ちなみに、会員制にしておけば18歳未満禁止の絵柄が色紙に使われてもモメることはないし、一応それなりの理由もありそうには思えます。メインではないのでしょうが。

あと、一応秋葉原店に限って言えばエロゲー売ってるか予約を受け付けている場所に申込書が置いてある(原則)し、初日は月末エロゲーを購入するために並んでいた人とエロゲーのイベント引換者のみに手渡しで配布していました。現実問題としてはソフマップでエロゲーを買う人ほど目に入りやすいし、そういう対応を認めても良いのではないかな、と。

もちろんそれを不純であるとか、裏に見えない意図が潜んでいることが卑劣だ、という原則を貫くなら理解できるのですが、そうすると他のいろんなサービスも軒並み批判せねばならなくなる。それは私としては少々窮屈に感じます。

▼色紙はファンのための無償サービスが原則か?
続いて[問題2]について。「ゲームの要素技術を切り売りするような商売」というのは、まっとうな批判であると思います。

しかし現実問題、すでに色紙は販売用グッズ扱いになっている部分もある。たとえばあかべぇさんはコミケで、「あかべぇスペシャル色紙セット」なるものを「販売」します。氏のおっしゃっている「色紙は特典」というのは、エロゲーの業界ではもうメーカー自身がその枠組みを破棄しつつあるのかもしれません。善し悪しは措くとして。

逆に言えば、それが商売として成り立つほどファンからの要望が多いのでしょう。だとすれば色紙販売は、「ファンサービスの精神に反する」のか、「新しいファンサービスの模索」なのか、判断はつけづらいところであると思われます。

少なくとも色紙を売り払うというスタイルは「PCげーむ倶楽部」に固有の問題ではないし、むしろその文脈で言うならば、「PCげーむ倶楽部」は直接の色紙販売という形をとらず、あくまで「会員サービス」として提供しようとしているぶん、ユーザーの希望と「ファンサービスの精神」との間の折り合いをつけている(少なくとも直接販売するスタイルより間接的である)という見方になるのではないでしょうか。

▼「有償会員サービス」に対する冒涜か?
最後、[問題3]。これが結構half_moon氏の議論の中では説得力高そうにも見えるんですが、よく考えるとたぶん、「ファンクラブ」と「会員サービス」を混同しておられる気がします。

「有償会員サービス」は、ファンクラブに限らずたとえばクレジットカード(年会費アリ)もその類です。先ほど例に挙げた百貨店会員なども、年会費があればそうですね。

たしかに「PCゲーム倶楽部」が「ファンクラブ」であればhalf_moon氏のおっしゃるとおりです。しかしこれ、「PCゲームファンのための」サービスであって「ファンサービス」まして「ファンクラブ」ではないですよね。ついでに規約と紹介パンフを読むと、「PCゲームファンのための」という文言も見あたりません。検索をかけた限りですが、ソフマップの公式ツイッターが枕詞に用いているだけかもしれない。(私の見落としだったらごめんなさい)

むしろ全面に押し出されているのは、「ソフマップ会員様のための」のほう。ソフマップ会員限定のオプションですよ、と。

要するに「PCゲーム倶楽部」は、ただの有料サービス(最初から「金払ってくれたらうちのツテで色紙あげます」)と身も蓋もなく公言しているのであって、「PCゲームのファンサービス」ないし「ファンクラブ」として在るべき姿ではない、という批判は今回の場合あたらないように思われます(なぜならファンサービスではないから)。プレゼントという言い方が紛らわしいけれど、入会特典がバインダー。サービス内容が年4回の色紙プレゼント、という。

どうでしょう。この解釈間違っていますかね……。

▼まとまらないまとめ
たぶん、私とhalf_moon氏との間でずっと認識がズレているような気がしたのはここであって、氏は一貫してこのサービスを「ファンクラブ」ないし「ファンサービス」であると捉えているのに対して、私は最初から「有料会員サービス」(会員になって金はらったらサービスが受けられる)として捉えているところなのではないかな、と。だから氏は「エロゲーファンとしての理念」に問題意識が向かうし、私は単に「会費に見合うだけのペイバックがあるか」という即物的なラインに落ち着いたのではないかと思われます。

なんか書いてるうちに問題がクリアになった気がする。今回私頑張ってる?

んで、もしもこのサービスにもの申すなら、むしろ一種の「詐欺」にはあたらないのかとか(こういう「あとからプレゼントします」ということにして実態は何もない会員サービスというのはそもそもサービスとして認められるの? みたいな)そういう路線のほうが糸口があるようにも思われます。実際どうなのか全然知りませんのでたとえばの話ですよ、もちろん。

私は最初、氏がある種の先入観に基づいているというか、結論決めうちをしているかと疑っていたのですが、それはちょっと悪意のある見方だったかもしれないと反省しています。たぶん、いま述べた辺りの認識の齟齬が大きく響いているだけかなと。そして、氏の主張のためにこの議論では足りない、というくらいが妥当なラインかもしれません。

「行き過ぎた特典商法」を批判するなら、おそらくもう少し違った議論が必要です。そのビジョンは私にはまだはっきりとは見えませんが、まず「グッズ」と「特典」の差異をある程度明確に定義し、そもそも「特典商法」の何が問題であるかという具体的な話に入っていくのが先決のように思われます。私なら、「作品への愛情のバロメーターが金銭ベースでしか測定されなくなる」というような論線を張るかもしれません。まあそれは別の話なので、今回は一旦保留しましょう。

とはいえ、大手の始めた意味不明なサービスですし、ゲームメーカーと小売店の微妙な関係というのはそれでなくてもよく取り沙汰される。ですから、この両者の間に(もしご本人にその意図がなかったとしても)「隠れた対立関係」や「不平等」を読み込んでそれを「暴露」してみせれば、短絡的に乗っかる人が増える可能性が高い。そういう事態に「警鐘」を鳴らしておくことは、一応必要でしょう。もちろん、自戒も含めて(私自身よくやってしまうことですから)。

情報を発信する側も、また受け取る側も、果たしてある結論がプロセスからの論理的な必然なのか、それともどこかでジャンプがあるのか。ジャンプがあるとすればなぜ飛んだのか(往々にしてそういうところにこそ、筆者の言いたいことの本質が出る)。そしてそのジャンプは妥当か否か、というところに注意を払っても良いのかなと。それは、いたずらな「推測」がゴシップ誌のような「憶測」になり、意図せぬ被害をどこかに及ぼすことを避けるのに重要だと考えています(風評被害というのはそういうものである、と)。

結論こそ大事という立場や、むしろ結果を出さねばと言う実行主義の立場もあり得ますが、私は原理原則主義なのでこういう言い方になる、というくらいに考えてください。

あ、もちろんこれは実態としてhalf_moon氏のおっしゃっていることが間違っているという話ではありません。100%完璧に当たっているかもしれない。だとしてもあんまり今回の私の話には関係がありません。

また、ソフマップさんがちょっと手抜きすぎかなというのは、そうかなと思いました。そして、half_moon氏の掲げておられる理念についてはむしろ賛成に近いです。単に、氏のロジックから導かれる結論としては飛躍があったり、前提に誤解があるように見える、というだけです。

私の言いたいことをまとめると、およそ次のような感じ。

・ half_moon氏の主張内容と論証はたぶんずれている。
・ 氏の主張には賛成したい。
・ ただ、「PCゲーム倶楽部」に戦う議論としては妥当ではない気がする。

批判的に検証する形式をとりましたが、繰り返すように内容というか問題意識みたいなものは私も重要だと思うので、なるほどです。同じものを見ていても立場によって大きく見え方は変わってくるのだな、ととても興味深い記事でした。

この場でのことで恐縮ですが感謝を申し上げます。

以上、不明瞭・グダグダで立場がどこにあるかはっきりしない人間のたわごとでした。

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