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杉原智則『烙印の紋章 XII -あかつきの竜は空を翔ける(下)』
2012年10月10日、電撃文庫

関連記事 :レビュー:『烙印の紋章』(2012年6月9日)

正確にはレビューまでいかない殴り書きですが。読み終えた直後のこの感動を、どうしても書きのこしておきたくなってしまい、合間を縫って書いております。

12巻をもって完結とあいなったファンタジー戦記、『烙印の紋章』。まだまだ膨らみそうな話を残したまま、「次回で最後」という告知があり、すわ打ち切りかと心配されていました。多くの人が「打ち切り」を心配したのは、話が短すぎるからというわでではなく(たとえば『とらドラ』は10巻完結ですから、それより長く続いているわけです)、さらに裾野が広がる気配を見せていたこの魅力的な物語が、うまくまとまらずに終わってしまうのは勿体ない、と思っていたのではないでしょうか。

だから読者の――少なくとも私の希望としては、打ち切りだろうがそうでなかろうが、とにかく良い終わり方であってほしい、と。それだけを祈っていました。

結論から言うと、その希望はほぼ叶えられたと言えます。凄く良かった。

相変わらず固有人名バンバンでてきて、最初は誰が誰だかわからないのですが、読んでいるうちに「ああ、あのときの……」と思い出せてきます。名前ではなくて「こういうことをしたヤツ」とか「あのとき戦ったヤツ」という感じで人物を把握できるのは、私にとってはそれだけで良質な物語です。

今回はこれまでいがみ合っていた三国が手を取り、大陸の「歴史」に一つの転機が訪れると同時に、オルバ自身にとっても重要な出来事が立て続けに起きました。凄く盛りだくさんだったのに、全部がすっきりとまとまっていて、本当に凄かった。広げていた風呂敷を、ギリギリ畳みきった感じ。

「魔術」や「竜神」の話も、ちょっと無理矢理感があるというか「機械仕掛けの神々」が顔を覗かせたようなところもありましたが、思い起こせば序盤からそれっぽい雰囲気は匂わせていたところもあったかな、と。一応ほぼ全ての設定を回収していました。

三上延『偽りのドラグーン』の場合は、伏線回収をあきらめて「綺麗な形で」うっちゃるのに心血を注いだ感じがあって、あれはあれで上手い終わり方だなと思いましたが、本作は「物語」を完結させる、という動機に貫かれていたように思います。そのせいで詰め込みすぎになったところはあるかもしれませんが、とにかく楽しい。そして、余韻が残る。

終わりでは、色々な国の「その後」の話がちょくちょく書かれており――ドラクエのEDみたいな感じを想像してもらえば良いかな――「ああ、この世界はまだまだ続いているんだな」と実感できる。奴隷剣士だったオルバが、一体何者になったのかは、良い意味で読者に委ねられています。エピローグで何度か、繰り返される「後世の歴史家や物語作家」の視点というのは、まさに読者を「歴史家」にしてしまおうという意図のあらわれでしょう。述べられている結論から忠実にプロセスを再現しようとするもよし、『三国志演義』や源義経の話のように、思い切った創作にするもよし。物語の醍醐味をそのダイナミズムの創造に見るのであれば、これほど「戦記」に相応しい終わり方も無いのかもしれません。むしろもうちょっといろんな「資料」を残して欲しかった気すらします。

子どもの頃に冒険ものを読んでわくわくして、ファンタジーの世界に自分も行きたいと思ったことはないでしょうか。私はしょっちゅうだったのですが、こういう「続いていく」かたちの終わりに触れて、久しぶりにそのような気持ちを思い出しました。

ちょっと不満があるとすれば、やっぱ恋話。ラブロマンスはちょっと杉原さん向いてないかなと思いつつ、それでもなんかこう、オルバとビリーナの不器用な恋愛「らしい」といえばらしいので、これはこれでアリかもしれません。

これでずっと楽しみにしていたシリーズが終わってしまうことを考えると、寂しくて悲しくてしょうがないと思っていましたが、凄く良い終わり方で、むしろ「この先」を考える楽しみが溢れてきて、めちゃめちゃテンションあがってしまいました。

いやー、シリーズ読んでいて良かったです。楽しい時間を本当にありがとうございました。シリーズ全体の感想をどこかでまとめたいな。

それでは、またこのような名作と出逢えることを祈りつつ、本日はこの辺で。

2012年10月20日、市村鉄さんのご指摘を受けて主人公の名前オリバになっていたのをオルバに訂正しました。ファンの方並びにスタッフの方に大変な失礼となるところでした。ありがとうございました。


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