正捕手
千羽カモメ『正捕手の篠原さん』

(MF文庫J、全3巻、イラスト:八重樫南)

さて、今回ご紹介するのは『正捕手の篠原さん』。残念ながら3巻で終了してしまいましたが、色んな意味で実に面白い本でした。

まず、題材。タイトルからおわかり頂けるでしょうが、野球ラノベです。世に「野球マンガ」は多々あれど、ラノベでサッカーやら野球やらというのはあまり聞かない。そういう意味では恋愛シフトを敷いているラノベ業界の、隙だらけの三遊間をうまいこと抜きに来た感があります。

次に、イラスト。八重樫南さんといえば、『閃乱カグラ』でおなじみ。女の子が特にですが、どのキャラもカワイイです。そして何より、ブルマが巧い。とくに、足の付け根の辺りのラインはピカイチ。個人的にはブルマ絵師 三ケツ 三傑に入るお方と目し、お慕いしております。

……何の話でしたっけ。

そう、この作品の面白いところでした。最後は、形式。この『篠原さん』は、ほとんどの話が見開き2ページで終了します。1冊200ページとちょっとですが、だいたい100話くらいのエピソードが入っている。

著者の千羽さんが1巻のあとがきで、「誰もが一度は思いつきながらあえてやらなかった」形式であると言っておられましたが、本当に他に例がないかはともかく、確かに余り見ないタイプ。ただ、このコンセプト自体は、私たちにとって非常におなじみのものです。

決まった分量の中に短い1エピソードを詰め込んで行くという手法は、完全に4コマ漫画のもの。つまりこの作品、ラノベで4コマをやってみよう、ということなのだと思います。4コマより『高校球児ザワさん』に近い気がしないでもないですが、とにかくそんな感じ。

これが思ったより新鮮で、しかも面白い。基本1エピソードで話が簡潔するのですが、毎回「オチ」がきちんと用意されている。

4コマ漫画の面白さというか「読みごたえ」の一つに、「オチがどういう意味か考える」というのがあります。読み取るのが難しいというわけではないのですが、周りの反応とかちょっとしたセリフを駆使して、直接ことばで書く以上の楽しい雰囲気が出せていて、ちょっとうまい。綺麗にオチた4コマ目が醸し出す妙な余韻みたいなのが、各話にきちんと出ています。

一応キャラクターや舞台は全エピソードを通じて統一。エピソードを重ねながらも全体のストーリー的なものがあり、明神学園野球部のキャッチャー、篠原守さんと、彼を巡るヒロインたちのラブコメです。主なヒロインはピッチャー(男装)の綾坂さん、幼なじみでマネージャーの月夜さん、妹でブルマの杏さん。他にもちょくちょく出てきますが、1巻から通しはこの3人。あ、涼子先生もいたな……。4人!

恋愛以外は特に起伏のない、いわゆる4コマらしい「日常系」作品で、退屈なところもありますが、1話ずつのまとまりがきっちりしているのでちょくちょく読んで楽しめます。一気に読むのではなくて、暇なときに少しずつ読むとか、そういうのが正解の気がする。

いま言った通り基本的に日常ダラダラで、野球の試合とかはほとんど無し。ただ、随所に野球ネタが差し挟まれるので、さすがにルールしらないとか全く興味が無い人は見送りが無難でしょう。

3巻で終わりってことはやはり、あまりウケが良くなかったのでしょうか。個人的には面白いと思っていただけに残念ですが、まあ一般に訴求力があるタイプの作品ではないことも事実なので、仕方ないかもしれません。とはいえ色んな意味でチャレンジングな内容でしたし、全部新品で買っても2000円弱だし、関心があればお試しあれ。

今後こういうタイプのラノベが『あずまんが大王』や『WORKING!!』、『けいおん!』のように、どこかでブレイクしたら、その時元祖として注目を集めることがある…………かなあ?

それでは、また明日。

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