宮原るり『僕らはみんな河合荘』(少年画報社、平成23年)
『恋愛ラボ』などの4コママンガで知られる宮原るりさん初のストーリーコミック。北高に通う男子高校生、宇佐(うさ)くんが視点人物(名前はたぶん、まだ出てきていません)。
両親の転勤によって安アパート「河合荘」で一人暮らしをすることになった宇佐。クラスの「変人」たちの担当をさせられ、「変ショリ」とあだ名をつけられた中学時代の思い出を払拭すべく、「自由な新生活」で青春を謳歌することを夢見るものの……。たどりついた河合荘は、変人たちの巣窟だった。穏やかな暮らしを求め、河合荘を出て行こうとする宇佐。しかしそこには、一目惚れした可憐な先輩、河合律(かわい・りつ)も暮らしていて――。結局、入居を決めた宇佐と、河合荘の愉快な住人たちが織りなす、心温まる(あと、ちょっと下品な)物語です。
ストーリーものなのですが、4コマ出身という出自ゆえか、1話のうちでツカミ→オチがくり返され、こまめに場面が展開します。かといって4コマを繋げてストーリー仕立てにしたようなブツ切れ感はありません。全体的にとても読みやすく、歯切れの良いテンポで進行します。
絵柄は見ての通り(カバー絵との乖離はあまりありません)。少女漫画よりの線の細さで、あまり描込みをしないタイプ。多くのコマはキャラ中心で、背景無しかトーンのみというのが結構多いです。そのぶん、勝負所のキャラの表情や態度はわかりやすく表現されていて好印象。第4話のシャボン玉のシーンと、第8話の麻弓がキレるシーンがとても好き。
人によってはタルい恋愛に感じるかも知れませんし、宇佐が律に惚れるのもほぼ一目惚れのように見えます。けれど、ありがちなボーイ・ミーツ・ガールとはちょっと違う。宇佐は一度は律についていけないと思うし、律も最初は宇佐と距離をとっている。そんな2人が、共同生活の中で少しずつ接近していくわけです。それを支えているのは、相手のことを「知りたい」という想い。
「変ショリ」の宇佐の良いところは、相手にただ「変人」というレッテルを貼るだけではなく、そのうえでなお、相手の真意をくみ取ろうとするところです。「一人は嫌いじゃないのに、「一人だ」って思われるのは嫌で……」。そう呟く律は、誰かの理解を拒んでいるようで、むしろ理解してほしいと願っています。彼女は、ただしく自分をわかってくれる人を求めている。そして、宇佐は彼女を理解しよう、理解したいと思う。好きだから知りたいのではなくて、ただ知りたくて、知っていくことが恋として描かれています。『僕らはみんな河合荘』に描かれているのは、そんな穏やかで優しい気持ち。
他の見所としては、余り穏やかではない下ネタの数々も挙げておくべきでしょうか。ヘタレMのロリコン、社会的には真っ黒だけどあだ名はシロこと城崎(しろさき)の変態ネタはかなりトバしてます。管理人・住子さんとのタッグが絶妙。あんまりずっとこの調子だとさすがにお腹いっぱいになりそうですが……。
軽やかに流れる日常と優しい気持ちを楽しみながら、下ネタに舌鼓を打つ。そんな、ちょっとした息抜きに最適の作品です。現在まだ2巻までしかでていないので、追いつくのも簡単。ハードな日常に疲れたナー、軽いタッチのラブコメ無いかナー、という方はどうぞお試しアレ。
それでは本日はこの辺で。また明日お会いしましょう。