WA2

タイトル:『WHITE ALBUM2』 (Leaf/2011年12月22日)
原画:なかむらたけし、桂憲一郎、柳沢まさひで/シナリオ:丸戸史明(企画屋)
公式:introductory chapterclosing chapter
批評空間投稿:済→リンク ※ネタバレ有
定価:9800円(セット版)/7800円(CC初回限定版)
評価:A+(A~E)

豊作だった2011年の、遅れてきた大本命。ただし、「人を選ぶ」という部分が強くでる作品であることも確か。その「選び方」は、よく言われているような三角関係だとか修羅場だとかでハラハラさせられるという、それだけでは無いように思われます。そもそもこの作品の見所はそこではない、ということを批評空間様に投稿した感想で書いたのですが、いまも基本的に変わっていません。

では何がネックかと言いますと、登場人物の心情や態度。それを理解し、また受け入れられるかどうかが、楽しめるか否かの分かれ目でしょうか。理解できる人が偉いとか、読解力があるとかではありません。恐らくは相当程度、単純な相性が問題を占めています。

たとえば一部では不誠実でクズだと評判の悪い主人公・春希。外側から見たら春希は優柔不断で度し難い最低の人間。作中でもそういう面があるという規定がなされているのは確か(武也や依緒の言うとおり)です。しかし、では、彼はどんなクズなのか。

元から誠実にする気の無い不誠実なのか、それとも誠実にしたいと思っても無能故にそれができない不誠実なのか。そのどちらかで、人物の読み取りは大きく変わります。そして春希は、恐らく後者。それは、雪菜とかずさが作中(ワインで酔っぱらう場面)できっちりと見抜いています。

更に言えば、もしも春希がかずさを簡単に忘れられる、あるいは雪菜を簡単に捨てることができるような人間だったら、二人はこれほどまでに春希に惚れ抜いたでしょうか。

かずさや雪菜は、かわいいとか声が良いとか乳がでかいとか、いろんな要素はありますが、何よりもそんな春希に惚れて惚れ抜いているからこそ「佳い女」なわけです。これ、仕事ができて誠実な奴に惹かれてるだけだったら、言っちゃあ悪いけど、ただの打算的な安定志向と見分けつかないですよ(笑)。

結局のところこの作品は、春希を駄目な人間として扱いながらも、ある意味でそこにこそ春希の春希らしさ・魅力を描いているわけです。そして、そんな春希を好きになってしまうヒロインたちの魅力は、単独ではなく、春希との関係の中で析出されるようになっています。そうやってじっと目をこらすと、私にはこの作品に出てくるのは、愛すべき人びとのように思われたのでした。

他の登場人物も、程度の差こそあれ概ね似たようなものでしょうか。誰もが正論を吐き、同時にエゴイスティックに誰かを傷つけ、そのことを正論で誤魔化そうとする程度には卑怯。そして本作は、そういう人間を矯正させて正しく立派な人間に「成長」させる物語ではない。むしろ、そういうところを拾おうとしちゃう作品。「もう……しょうがないなぁ」(里伽子)のキモチで受け入れてしまう。ここが、おそらく好みの最大の分かれ目です。

そもそも問題が人間としての誠実さであったなら、あんなこんがらがった話にする必要は全くありません。きっちり選んで、綺麗に振って、聖人君子になりましたおしまい、で良いはずです。そうなっていない以上、作品の解決はいわゆる誠実さには無い。社会的には許されないとしても、そこから外れていってしまう人の想いをどうにか救い出そうとしていると読む方が妥当です。その辺を許容できるかどうかで、本作への印象は大きく変わると思います。

あと、妙に自罰的でウジウジした登場人物たちもクセがありますね。卑怯なことをしていると解りつつ、決して開き直らない。後悔し、許しを請い、自分を責め続け、それでも相手を殴るのを止めない。やってしまったことをウジウジ悩むくせに、後悔すると解っている選択肢をその場の欲で選ぶことを止められない「愚者」です。考え無しというのではなくて、考えているのに正解を選ばないという類型。ドラマや映画で出てきたらハラハラするかイライラするかですが、後者に見える方には向かないかもしれません。

春希はたぶん、最後まで「誰に対しても平等」という不可能で馬鹿げた、でも本人にとってはそれこそが大まじめに「誠実」だと信じている考えに取り憑かれています。そのせいで、春希だけが「運命の相手」を選ぶことができない。けれど、物語はそんな春希にとっての「運命の相手」があらわれるわけです。では、どこに・どんな風にあらわれるのか。

このことをもう少し普遍化して言えば、人が理屈抜きで、「この人(もの)でなきゃダメだ」と思える瞬間というのはどんな風に訪れるのか。そして、もしその時が、訪れてしまったら、私たちにはどんな道が残されるのか。無粋なのを承知で本作のトータルを俯瞰すれば、そういう作品として読むことが可能だろうと思います。

でも、そういうのって結構簡単にやってくるんじゃないでしょうか。構図としてはまんま、エロゲ版『こころ』(夏目漱石)と言っても良いくらいですから、少なくとも明治からはあったと思います(笑)。もっと身近にひきつければ、テスト近いから勉強をするのが正しいのに漫画読んじゃうとか、買う必要なんて無いものを買ってしまうとか、明日仕事があるのに徹夜でゲームしてしまうとか。後半の例は単なる逃避かもしれませんけど。

いずれにせよ、理性では「抑えきれないこの想い」(とらドラ)を、まっすぐに信じたいロマンチスト御用達。だからこそ、そんな事態に対して否定的な、あるいはそこに憧れを抱かない人にはピンとこないだろうし、逆に嫌悪すら抱くかも知れません。

なんだか、相性の話ばかりになってしまいました。ただ、内容の「紹介」と私自身の「想い」は既に書いてしまったわけで、補足的な話になるのはご容赦ください。

最後に、音楽の話して終わりましょうか。

ボーカル曲の充実ぶりは過去最高。カバーが、『深愛』、『WHITE ALBUM』、『SOUND OF DESTINY』、『POWDER SNOW』、『ROUTES』、『あなたを想いたい』。オリジナルで『届かない恋』、『After All ~綴る想い~』、『Twinkle Snow』、『優しい嘘』、『愛する心』、『心はいつもあなたのそばに』、『closing』、『時の魔法』。合計14曲です。特に池田春菜さんの『あなたを想いたい』は、雪「」が「」希を想って歌う曲としては会心のネタだと思ったんですが、そういう意図はあったのかなかったのか。

「冬馬」、「雪菜」、「春希」というネーミングはやっぱり『WHITE ALBUM』用にチューニングされているんでしょう。やりすぎてあざとい感がしないでもないですが、個人的にはこういうの好きなのでアリです。

結局のところ私にとって作品との付き合いで一番楽しいのは、その作品との関わりの中で自分にしか取り出せないと思えるような想像力が働く時。本作はそういう楽しさを存分に味わわせてくれました。

ただ、それはまさに私自身のパーソナリティに深く根ざしているわけで、誰かに伝える言葉にするとなると矛盾します。あるいは、少なくともきわめて困難です。結果、長い文章を書いたり、何度も『WA2』の話を取り上げるという行動と込みでそれに近いものを伝えられたら良いなぁという形をとってしまう。そしてタチの悪いことに、伝わっても面白い保障は全くありません。完全に自己満足です。

だから、この作品をひろめたいとかそういう使命感は全然ないのですが、同じようにこの作品を好きな人と語り合いたいという希望はあります。お酒でも飲みながら、わいわい話ができたらきっと楽しいだろうな。

もう少し落ち着いたら、もっとちゃんと誰かに伝えられるような文章にしていくと思います。でも、今書いてるのが一番ナマの気分に近い気はします。

【蛇足】
感想で書いた関連作品一覧は下の通り。参考資料のつもりだったので、こちらにも転記しておきます。遺漏があれば是非教えてください。

(1) 「彼の神様、あいつの救世主」 (小説)――2010年2月(BugBug誌3月号収録)。
(2) 「雪が解け、そして雪が降るまで」(小説)――2010年3月(「IC」初回特典)。
(3) 「祭りの前~ふたりの二十四時間~」(ドラマCD)――2010年8月(公式通販)。
(4) 「祭りの後~雪菜の三十分」(小説)――「祭りの前」添付のブックレット。
(5) 「Twinkle Snow~夢想~」 (小説)――2011年2月(公式pdf公開)。
(6) 「祭りの日」(ドラマCD)――2011年12月(「CC」予約特典)。
(7) 「ピロートークCD」(ドラマCD)――2011年12月(「CC」ソフマップ予約特典)。
(8) 「歌を忘れた偶像」(小説)――2011年12月(「CC」初回特典)。
(9) 「一泊二日の凱旋」(ドラマCD)――2011年12月(コミックマーケット81。公式通販予定)。

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