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ブランド: チュアブルソフト (このブランドの作品一覧)
定価: ¥8,800 (税込¥9,504)
発売日: 2014/09/26
ジャンル: 青春ロケットADV
原画: ちり、まんごープリン(サブ)、オレンジゼリー(SD原画)
シナリオ: 範乃秋晴、草壁よしお

※本日2つ目の記事。レビューはネタバレなしのエッセイ風「感想」と、ネタバレありの2段階に分けました。ネタバレはまだ勘弁、という人は「続きを読む」以降をお控えください。

あらすじ
天ノ島学園に通う主人公・隼乙矢は釣りが趣味の、ちょっと成績が残念な普通の少年。留年を賭けた追試から逃げまわり、いつもと変わらない学園生活を送るはずだったのだが……。夜釣りに行った先で偶然知り合った少女・暁有佐との出会いと、ロケット部「ビャッコ」への入部によって、乙矢の生活は大きく動き始める。あの遠い宇宙に、ロケットを飛ばすために――。 


▼青春って何だ?
おそらくもう「若者」と呼ばれる年齢をこえてしまった私は、「青春」を謳う作品と出会うと、不思議な懐かしさを感じることがある。とはいえ私の学生時代(何学生とはあえて言わないことにして)には、ドラマチックなイベントなどただの一度も経験したことがない。夏祭りは男友達と一緒だったし、クリスマスは1人でゲーム。部活には女子もいたが、悲しいかな練習が男女別。そもそも、エロゲーに出てくるヒロインのような魅力的(かつきわどい格好をした)女の子などいなかった。いや、いるにはいたか。二次元にだが。

そんなわけで、エロゲーの「青春」に私の感じている懐かしさというのは現実に起こったことに対するそれではなく、たぶん、都合よく過去を解釈してそこに想像を付け加えた一種のノスタルジーにすぎない。「夢や希望にあふれた」時間がもう戻らないことへの感傷なのだろう。

しかし、『あの晴れわたる空より高く』という作品から伝わってくる「青春」は、そういう後ろ向きさを伴った切ないものとはずいぶん違っていた。描かれているのは、Chuablesoftの青春。そして、これもまた紛れも無い青春だと思うのだ。

ただ、最初に少し言い訳をしておくと、私がここでどれだけことばを尽くしても、本作の雰囲気やメッセージを正確に伝えきることはできないだろうし、またそもそもそんなことを目指してもいない。私にできるのは、せいぜいが私なりの解釈を通して作品のごく一部を切り取ってみることくらいだ。結局、ロケットもゲームも「やってみる」以上の魅力の伝達方法というのはなかなかないのかもしれない。
 

▼物語の「引力」
私が特に見どころだと思うのは、ロケットを製作通して乙矢たちの関係が繋がっていくところ。それを見られただけで、本作をプレイした甲斐があった、と言っても言い過ぎではない。むろんこれは、他の部分がつまらないということではなく、乙矢たちの関係にもっとも惹かれた、という意味だ。

下ネタ中心の楽しい掛け合いには声をあげて何度も笑ったし、ロケットに関する詳しい知識は読んでいて分かりやすく興味深い。声優さんの演技もよくてバックログから何度も気に入った音声を再生したし、理事長の演説には拍手を送りそうになった。BGMはすごく雰囲気にあっていて(ちなみに今も「おまけ」のミュージックモードでBGMを再生しながら文章を書いている)、OP&EDテーマはどれもクオリティが高い。

けれど、それらは作品を支える彩りにすぎない。『はれたか』という作品を牽引しているのは、あくまで「ビャッコ」メンバー5人の交流だ。あるいはこうも言える。彩りがただしく彩りとして機能しているからこそ、私は半ば引っ張られるように、この作品に入り込むことができたのだ、と。

その「引力」の源は、登場人物たちのつよい自律性にある。メインヒロイン4人と主人公だけではなく、周囲の人びとも含めて、である。彼らは皆、自分なりの過去や意思を持ち、自分の考えで動いている。物語の都合によって、物語に動かされているキャラクターではなく、彼らが動いた後の軌跡が物語になる。そんな、自分たちで物語を作っていける《人物》なのだ。

もちろん、底流にあるのは要素を配置して構成し、テーマに収斂させるというシナリオスタッフの作為なのだが、それが見えなくなる、あるいは時々そこを離れているのではないかと思えるほど、自由で楽しそうに有佐たちは振舞っている。そこに、思わず覗き込みたくなるような魅力的な世界が生み出されている。

だからというべきなのか、あるいはこちらが原因なのかはわからないが、物語に入り込むとは言っても、自分が主人公である乙矢に感情移入するタイプの物語になってはいない。プレイ中の私の立ち位置は、「ビャッコ」の5人をそばで見守って応援するようなところにあった。

一応、あげようと思えば理由は3つほどあげられる。まず、乙矢の生まれ育った環境がかなり特殊で、しかも彼自身の過去がすべて明かされるわけではない(常に「昔何かあった」ことが匂わされる)ため、どうしても距離をとって見てしまう。次に、視点の問題。基本的に乙矢の一人称で進行するが、時々ヒロインたちの視点になることがあり、その時には乙矢のグラフィックと声が入る。つまり、物理的に乙矢もキャラクターとして物語に登場するので、それを眺めている自分、というのは整合性を考えるなら彼らの外に来ざるを得ない。最後に、乙矢自身の過剰な「語り」。乙矢は自律的なキャラクターとして、彼の目の前のできごとを積極的に解釈していく(夏帆ルートあたりが顕著)。その乙矢の語りが、ユーザーを受動的にさせる。自分から物語に入っていかなくても一応の「模範解答」が与えられるので、自分がヒロインたちと会話をする必要がない。

この辺りはテキストを読む人の読み方にも依存するので一概に一般化はできないが、外的な要因が多いので、おそらく多くのユーザーにとっても同じように感じられるのではないかと思う。

だから私は(そしておそらく私たちは)、作品の中にいながら「ビャッコ」には入れない傍観者として、彼らの物語に関わっていくことになる。そのときに強く思ったのは、自分もこの輪の中に入れたらなぁ、ということだった。そういうもどかしさを、本作は与えてくれる。


▼走り続ける
恋愛にはいろいろなかたちがある。世間体のために体面だけお付き合いをするのも一種の恋愛なら、どちらかが倒れるまで寄りかかり合うものもそう呼べるかもしれない。ただ、『はれたか』に描かれているのは、そういうものではない。目標を同じくし、一緒に走り続ける中で繋がっていったものの先に、恋愛があらわれてくる。だからそれは、本来は「外」にいる私にはわからないものだ。

もちろん本作をプレイする際、シンプルに登場人物との距離を詰めて、感情移入の対象として楽しむことは可能だろう。けれど、『はれたか』のエンターテインメントとしての美質はむしろ、ユーザーをあくまでユーザーとして一定の距離を保たせる誠実な距離感、作品の自律性にあるのではないかと思う。

ロケットを打ち上げることを目指して、知恵を絞り、励まし合い、涙を流し……その輪の中に私はいない。乙矢たちが輝いて見えれば見えるほど、そのことが残念に思えてくる。それは、最初に書いたノスタルジーに似ている。それだけなら私は結局、未熟で向こう見ずで、でも夢や希望にあふれた、人生の春のような時期がもう戻らないことを嘆くのと同じような感傷を抱いて作品を終えていただろう。

しかし、「ビャッコ」の面々が作中で私たちに見せてくれるのは、感傷に浸ることではない。(特に、有佐ルートと完結編で顕著だが)彼らは常に挑戦し続け、未来を切り開き、想いを繋いでいこうとする。

青春とは、熱い想いを燃やしてうしろを向かず前だけ向いて行くことでもなければ、不安と焦燥に苛まれ夜の校舎窓ガラスを壊して回ることでも、無鉄砲に盗んだバイクで走りだすことでもない。傷つき、失敗しながらでも、過去を振り返り、それを引き受けつつ未来の目標へ向かって走って行くこと。少なくとも私はそんなふうに、この物語からメッセージを受け取った。

それはつまり、青春というのが「若さの特権」ではない、ということでもある。30になろうが40になろうが、私達はいつでも「青春」できるし、そのことは決して未熟さの証ではない。誰だっていつだって、「ビャッコ」のような青春を始められる。今度は傍観者としてではなく、自分が主人公になって。

私にとって本作は、そんな勇気を貰える作品だった。


▼ 未来へ
最後に、少し蛇足めいた感想を。

私は最初、『はれたか』は青春の物語だ、と言った。同時に、始まりの物語でもあるとも思う。各ヒロインのED後には、「End」や「Fin」ではなく「To be Continued」という文字が表示される。これは、「まだ完結編がありますよ」という意味かもしれないが、そこをあえて、もう少し深読みしてみたい。

乙矢たちの物語は、まだまだこの先も続いていく――「To be Continued」は、そんな意味ではないだろうか。そして、作品が終わっても彼らの生が続いているという確信を持たせてくれる力が、本作にはある。あるいは、その続きを見たいと思わせるだけの力が。

だが、それならば。彼らの物語を見守ることができない私たちは、ここからどこへ向かうのだろう。いや、改めて問う必要などなかった。私たちの人生もまた、この先ずっと続いていく。だからこの物語は、終わりが始まりにもなっている。新しい挑戦への始まりであり、乙矢たちとは違う、私たちの生活の再出発に。私たちもまた、ここから未来に向かって走りだす。

まだ若い世代のユーザーなら、まっすぐ目標に向かう力と、ときどき立ち止まって過去を振り返ることの大切さを受け取るだろう。そして私のように世間的には中年と呼ばれるくらいの年齢に差し掛かった世代は、後ろばかり振り返るなという叱咤激励と、再び前を向いていく勇気を貰える。5年、10年をしてプレイしなおせば、違った風に見えてくるかもしれない。明るく楽しい世界の中に、そんな懐の深さも持っている。 

また、深読みついでに邪推をしてみるならば、10周年を迎えたChuablesoftがこの作品を出したということは、自分たちはまだまだ「青春」していて、ここを新たな出発点として、まだまだ変わっていくという意思表明なのかもしれない。




(以下ネタバレありに続く……)
 


(ここからネタバレあり)




というわけで、 ここからは若干のネタバレをしつつ各ヒロインについてとか話をしたいと思います。

まず個人的な話でアレなんですが、黎明さんめっちゃ可愛い。 まぢ天使……。これからは夏帆って呼びます。夏帆。夏帆ちゃああああん(テンションあげていくぜ)!

無口系あんまり好きではないと自分で思ってたんですが、認識を改めました。新しい世界を見せてくれたヒロインです。……ん、ごめん、嘘つきました。いま好きなキャラを思い浮かべたら、結構無口系が多かった。綾○さんと惣○さんを較べるとアスカのほうが好きだから、無口系ダメみたいな思い込みがあっただけでした。

って夏帆の話からボール3つ分くらいズレた。戻します。あじ秋刀魚さんの演技がいいですね。ヒロインの魅力50%アップくらい(当社比)。こういう長いセンテンスでなくて単発でしゃべる系のキャラって起伏とかつけにくくてむずかしそーな感じなんですが、いやー、すごいですわ。

好きなヒロインとしては、僅差ですが下のような順番。

夏帆 > ほのか > 有佐 >ファイアーさん那津奈。

脇役もいれて良いなら、明里先輩とかゆい、横綱あたりも上位に入ってきます。


▼全体構成
ルートロックは特にありませんが、有佐、那津奈、夏帆、ほのか、の4人を個別に攻略すると、完結編(Liftoff!ルート)がタイトル画面に表示されます。また、それを全部クリアーしてもCG・シーンが埋まらないのですが、これは「EXTRA」モードに追加エピソードがあるから。それを見れば全部うまるはずです。

ボリュームとしてはだいたい「マックスファイブ」までの共通部分が6~7割、個別ルートが3~4割(X4人)くらいの感覚。完結編は各個別よりちょっと短いかな。共通ルートでもちょっとした分岐があるので、テキスト量としてはかなりありますが、基本骨格が同じであるため、それほど長さは感じませんでした。


▼夏帆ルート
序盤から何度か出てきていた「夏帆の目が悪い」という話がクローズアップされてきます。彼女が母親を喪う原因となった事故と、ロケットにこだわる理由が明らかになっていくお話。そのいじらしい姿と、母親がいないという共通点をきっかけにして乙矢が夏帆に惚れていきます。告白シーンの中では一番乙矢くんの男らしい姿が見られる展開。

「父の設計したロケットエンジンを使って、ペイロードに母の遺骨をのせて、宇宙にロケットを送りたい」

という、半ば「他人のため」だったロケット打ち上げという目標が、いつからか自分の「夢」になっていく。そんな想いを語る夏帆のことばが、いちいち胸に響きます。

「いつか、見えなくなってもいい。わたしは今、どうしても夢を見たい」

不安を押し殺し、それでもなんとか折り合いをつけて前を向こうという夏帆。こういう意地の張り方は、すごく好きです。そこに気づいてキチンとケアしてあげる乙矢くんもカッコイイですね。

というか乙矢くん、普段の言動がアレすぎてあんまり真面目な奴に見えませんが、こと女の子との関係に関して言えば、数あるエロゲー主人公の中でもかなり誠実かつグッドな対応をしてる気がする。ホントいいやつや。・゚・(ノД`)・゚・。。

また、このルートでは漁師の息子としてのスキルが大活躍。風を読みきって見事電装部門の優勝に貢献します。他のルートでは、あくまで大活躍するヒロインのおまけ、という感じが否めなかったので、その点でも満足度高し。

一番印象的だったのは、流れ星を見上げながら涙を流すシーン。これ後の伏線になってるんですが、その時の夏帆の気持ちを思うとすごく切なくなります。 ただ、視力がなくなるというのは物凄く重たいテーマの割に、あくまで物語のアクセントというか、そこまで深刻にかかわってこなかった(夏帆の不安や焦りがストレートに表現されているシーンが少ない)ので、もうちょっと色々あってもよかったかなぁ。

ロケットに関する知識提示が行き届いていることもあってか、視力を喪うような怪我をした人の手術と日常生活のほうで「目が見えなくなることがあるのに対策らしい対策してないな」とか、「え、ホントに運動とかしていいの?」とか、「手術ってどんな手術なんだ」みたいな具体的な部分が気になることが多かったです。

あと、これは個別ルート全般に言えることですが、夏帆との話ばっかりになってビャッコ廃部の話がやや遠いところへ行ってしまったため、クライマックスに向けて緊張感が緩んでしまったように感じました。


▼ほのかルート
全ルート中一番笑いました。ほのかちゃんは主人公との(エロい)掛け合いでイキイキする素晴らしいヒロインです。特に最高だったのは告白シーン。主人公は愛の告白をしているつもりが、ほのかのほうでは色々勘違いが自己完結した結果、「セフレになってくれ」という告白だと思い込み、周囲まで巻き込んでとんでもないことに。いや、笑った笑った。

ほのかのルートも、劉生さん(ほのか父)が倒れるというアクシデントによって、びゃっこの廃部そっちのけで話が進行します。というか、たぶん分類としては部活に精を出す有佐・那津奈ルートと、ヒロインの個人的な事情に踏み込んでいく夏帆・ほのかルートという2つに分かれていますね。

こちらもいろいろとたいへんなことが起きた割に深刻な方向にはいかず、割と表面だけなぞってさらっと終わる感じ。どちらかというと、トラブルを解決するために得られた仲間の協力、みたいなところに力点が置かれています。若干物足りないとは思いつつ、重たい話にしすぎないというのは1つ方向性としてはアリでしょうか。ただ、お見合いのシーンはできれば見たかったな……。カッコイイ乙矢くんの見せ場だったと思う!

あと、このルートでは高乃酉くんの意外な過去が明らかになります。「このNC工作機械が、新しい僕の新しい両腕だ」というのはすごくかっこよくて好きなんですが、ややロマンチックすぎるというか、それまでのドライな高乃酉のイメージが崩れてちょっと驚きました。

 
▼那津奈ルート
燃焼フェチ、那津奈先輩のルート。ロケットというかエンジンが恋人、いつもニコニコ、頭からっぽ、しゃべることばは通訳が必要という、私の苦手要素が揃い踏みしているヒロインだったのでたいへん危惧していたのですが、終わってみれば存外楽しめました。

特に、乙矢が「那津奈語」を次第に翻訳できるようになっていくというのは、二人の距離のつまり方としては使い古された手法とはいえ味わいがあるし、そういう中で色恋に興味のなかった那津奈が、自分の想いに気づいていくという変化の描写は、恋愛ものの王道的な面白さがあります。

加えてそこに、ちょっとだけ有佐との恋の鞘当てというアクセントもあって、恋愛ものとしてはとてもよかった。ただ、色々思わせぶりだった那津奈の夢とか家庭の事情みたいな個人的な部分にはそこまでがっつり踏み込まなかったので、その辺で物足りなさを感じることはありました。

また、割と熱心にエンジン開発に取り組むので、ストーリー的な緊張感は持続します。エンジンに改良を重ねて、最後にARCとの一騎打ちを制し、2000秒の壁に挑んでいく、というシーンでは、単なる勝負を離れた志の高さも垣間見えて、満足&納得。

それにしても毎回いいところまで残る「つくば」のみなさんに、一度くらい見せ場があってほしかった。


▼有佐ルート
ある意味この物語の本命。なぜ有佐が「死んでもロケットを打ち上げる」と言うのか、「ビャッコ」はどうして廃部寸前に追い込まれたのか……というあたりが明かされるルート。ぶっちゃけ、理事長の「演説」も有佐ルートを経ないとかなり唐突に聞こえるので、全体を見渡す意味でも最初に有佐からクリアーしたほうが良いんじゃないかと思います。私は最後にやっちゃいましたが。

「恋愛禁止」を掲げた有佐との恋愛……という話になりますが、あんまりその辺でトラブルが発生することはなく、基本イチャイチャしてるだけ。どちらかというと部活がらみの問題が中心になります。

面白いのは、有佐の先輩であり「ビャッコ」の元部員であるピカリン先輩こと明里さん(明里は名前じゃなくて名字だよ! 光が名前ですから)。この人、乙矢といい感じになって告白までいっちゃうという怒涛の展開。しかも超可愛い。これ攻略不可とかホンマ生殺しやでェ……(夏帆はどこいった)。なんでしょう。名字が名前っぽいサブキャラは可愛い人が多い気がする。

ピカリン先輩との微妙な三角関係も面白いのですが、みどころはやはりクライマックス、全国大会PM部門での有佐のスピーチ。「ほぼ結果は出た」という絶望的な状況から、見事に大逆転を果たすところでは、やはり胸が熱くなりました。しかもその理由が、「観客の支持を得たから」という感情的なものではなく、きちんとこれまで通りの理性的な部分で判断されている、というのは良かったと思います。(とはいえ、大会内でのポイントではないところを持ってきたので、多少横紙破りという感じがしないでも)

なお、このルートでの高乃酉は、いきなりリサーチもせず「時間を金で買えるなら安い」みたいなことを言って10倍の値段でジャンクを買うなど、「ちょっといけ好かない貴族」みたいなノリになってます。この辺も軸がぶれているというか、高乃酉に対する「説明」としては、「ロケット中心」で「合理主義」という説明で統一されているものの、具体的な態度はルートによって結構違っていると思います。たとえば、(1)厭味でいけ好かないライバルキャラ(合理主義というより、空気読めてないだけ) (2)感情の入らない合理主義の権化(本当にロジカルにロケットのことを考えている) (3)実は結構ウェットなところがあって、感情に振り回される側面もあるなんちゃって合理主義者(ゆいへの恋愛感情とか、那津奈ルートで職人否定をするところとか)、(4)完結編の時に見せる、ロケット愛と一本通った筋のある爽やかイケメン。

彼も人間ですからいろんな側面があるのだろうし、この辺を統一する高乃酉像というのもおそらくは描けるのだと思うのですが、私にはどうもうまくイメージできませんでした。そのせいか、ちょっとライバルキャラが「壁」になりきれておらず、「ビャッコ」を守るための戦いの盛り上がりに欠けたようにも見えました。ただ、各キャラ個別ルートはVS高乃酉(ARC)を前面に押し出すより、部活を通して深まる恋愛模様にシフトウエイトしていたので、このくらいの存在感ほうがかえってよかったのかもしれませんが。


▼Liftoff!
そして完結編。

完結編は、正直良いところと悪いところがハッキリ分かれたかなと思います。まず悪いところを言うと、完結編での「トラブル」を絆に負わせたこと。これ、あまり意味があったとは思えません。有佐を意識不明にしたのもやり過ぎというか。普通に、「後遺症が残るかもしれないくらいの骨折」とかではダメだったのかな。

意識不明から植物状態というのは「軽い」話ではないし、それだけに周りの人には物凄い負担がかかると思う。その辺をきちんと描かないなら「単なる設定」にしかならなくて深刻さがでないし、実際「どうせ意識戻るんだろ」みたいなちょっと醒めた感じで読み進めてしまいました。

もちろん、「死んでもロケットを打ち上げる」というスローガンが単なるハッタリではなかった、ということが後から送られてくる有佐からのメッセージでわかるという仕掛けの意図は汲むんですが、その辺は重傷を負いながらも懸命にロケットのために働く姿とかで「言わずとも語る」ことができたんじゃないかなあと。

また、ロケット解体にいたる流れで、有佐のような「人為的なミス」が思わぬ理不尽とセットになってくるというのを繰り返し、それを乗り越えさせたかったのかもしれませんが、ここまできて1人のキャラにヘイトを集める意味あるのかなぁ……。それに、その後絆ちゃんの出番がほとんどなくなって、フォローもあまり無いし。

そういうわけで、最後に山場を持ってくるための手法と、その山場の内容がちょっとやり過ぎというか、劇的にしようとしてかえって話を大きくさせすぎているように見えました。

いっぽう良いところは、やっぱり最後に「打ち上げ」という大きなイベントが来たところ。全国大会は、確かに盛り上がるし「ビャッコ」の廃部を免れるという意味では1つの完結を迎えるんですが、やっぱりこの話だとロケットを打ち上げないと満足しないよな! っていうのはありまして。

乙矢くんだって、ロケットに魅了されて入部したわけですから、そこはガツンといってほしいじゃないですか。

これまでのライバルたちと手を結んで、過去から未来への「願い」を託した人工衛星が流れ星となって降り注ぎ、大団円というのは非常にドラマチックで、物語の締めくくりにふさわし展開だったと思います。

加えて、

ずっと、ずっと――いつまでも色あせることのない、はじまりの思い出だった。

という「終わり」方は、ネタバレ無し感想の方でも書いたのですが、やはりこれから先も彼らの物語が続いていく
、あるいは続いていったということをにおわせる、意味深で良い「終わり」でした。ひとつの物語が終わって一息つくと同時に次の物語への可能性が開け、それを想像して「もっと見ていたい」という気持ちになる。この余韻が、良質な物語の醍醐味ですよねぇ。


▼再び、まとめという名の蛇足
長くなったうえに書きたいことが多すぎてどうもまとまらなくなってきたのでそろそろ終わりますが、まあ色々気になるところはあります。決して「完璧」な作品ではない。でも、魅力的な部分もたくさんあって、その軸がぶれていないなと感じました。

ウリの1つだったロケットの話というのは、私にはちょっと分からなかったので詳しく触れていません。専門の人が見れば善し悪しも言えるのかもしれませんが……。個人的には、そこまで大きく内容に絡んでいるわけではないので、細かい検証みたいなことはしなくていいのかなとか。ダメすかね。

ただ、いちいち図で説明してくれていて私のような素人にも分かりやすく、終わる頃には「ロケットおもしれーな!」と思えるようになっていたのは良かった。こういうところから入ってロケットファンになる人がいるかもしれないし、そうでなくても、全然分からない相手にも面白さが伝わるようにできるというのは凄いと思います。きっと、スタッフの方が本当にロケット好きだからこそ、その雰囲気が伝わってくるのかなと。

時々書いてますが、大学時代に実感したのが、分かりやすくて丁寧でも「義務感で淡々と行われる講義」より、何言ってるかさっぱり分からないけど「やってる本人がそのことを好きなのが伝わってくる講義」のほうが面白いということ。語学とか概論が前者。宇宙物理学とかイスラーム学、考古学なんかのゼミ前の専門授業が後者でした。「まあオメーらには分かんないだろうけど、俺こんなに面白いことやってんだよね~」という雰囲気が伝わってくると、分からないなりにポイントはわかるし、こっちも分かりたくなってくる。そういう、「面白い講義」に似た雰囲気があったと思います。

まあ人によっては、「きちんと考証してます」「ロケットに詳しいんですよ」というのを過剰にアピールしていて、しかもそれが本編のテンポを殺すくらいたくさん入っているというのは本末転倒で鬱陶しい、という人がいるかもしれません(そしてそのようい言われたら、妥当な部分はあると思う)。ただそれでも、ろくに取材も調査もせず想像だけで作品作っているのと比べればはるかにマシだと思いますけど。

あ、でもエロいことしながら新しいアイディアを思いつくというのはネタとして面白かったです(笑)。勃起じゃなくて熱膨張と言い張ったおかげだ!! みたいな流れはニヤニヤしながら読みました。あとは、おおっぴらに言われているわけではないけれど随所に散りばめられたネタ(キャラの名字とかOP歌詞とか)なんかを見る限り、「まだまだ言い足りてないことがありそう」な気配がします。

いずれにせよ、気合の入った「青春部活もの」として、やりごたえのある作品でした。やっぱり、エロゲーっていいですね。