ラノベ系レビューです。本日は、七沢またり『勇者、或いは化け物と呼ばれた少女』(KADOKAWA/エンターブレイン)。上下巻完結です。

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 ▼「勇者、或いは化け物と呼ばれた少女」(小説家になろう)
※七沢氏曰く削除しないということなので、完結編が全話読めます。

小説投稿サイト「小説家になろう」出身の、いわゆる「なろう」小説です。なんか余り世間的には評判のよろしくない感じがしますが、私は結構「なろう」小説好きだったりします。以前感想を書いた『竜殺しの過ごす日々』みたいなのは決定的に文体があわないのがあったり、玉石混交なのは間違いないですけど、多くの「有識者」のみなさんがおっしゃるほどワンパターン展開じゃないし、異世界転生俺TUEEEしてればウケてるわけでもないと思います。むしろワンパターンの「洪水」があったからこそ、そこからの差別化をはかろうと各著者いろいろな工夫を凝らしている感じ。いまが爛熟期という見方もありますが、スタイル的にはまだまだ未成熟(未熟ではなく)な領野なので、これから勢いは落ち着きながら変化成長していくのではないかなぁ。

と、話がズレました。ともかく本作はその「なろう」小説。しかも、『死神を食べた少女』の前日譚にあたります。 その辺の情報を聞いて敬遠する方も多いかなと思ったので、ちょっと「食わず嫌いは勿体ないかもしれませんよ」というアピールで筆を執りました。

コミカルな箇所もあるのですが、全体の基調は暗い話です。人によっては「鬱本」に分類するかもしれません。私は、途中のエンタメ感満載の展開や妙に余韻の残る終わり方もあって「鬱」にまでは感じませんでしたが、いろんな意味で残酷な(変な言い方ですが同時に優しい話でもあるんですけどね)話だなぁと思いました。 若干のグロ描写もあるので、その辺ダメな方は回れ右してご退室の方向でお願いします。

BOOKデータベース登録情報によればあらすじはこんな感じ。

魔物は、殺して殺して殺し尽くす。

かつて少女は“勇者"と呼ばれ、賞賛された。
そして“化け物"と呼ばれ、恐怖された。

魔物を殲滅させるまで、
少女の足は止まらない。
殺して殺して殺し尽くす――
それが、勇者の宿命。

過去を失い、
新たな仲間を得ても、
少女の目は魔物を追い続ける。

理由は、ただひとつ。
「私は、勇者だから」

『死神を食べた少女』七沢またりの最新作!  (BOOKデータベース)

さて、この物語の主人公は「勇者」という少女です(この紹介にも一応意味があります)。数多くの世界を救ってきた彼女ですが、その力ゆえに怖れられたり、あるいは人の欲望に晒されたりして摩耗しています。とはいえ余り深刻な感じではなく、最初は単なる皮肉屋のような感じ。

その彼女が、流れ着いたある街で冒険者として生活をはじめ、紆余曲折を経て新しい仲間たちとパーティー(全員女)を組んでダンジョンを踏破し、実績をあげていきます。 基本的には「勇者」であることが周囲から冗談ととられている少女が、問答無用の実力でさまざまな事件を解決する中で街で認められていく話だからある種のサクセス・ストーリーなのですが、最初にも述べた通り、まとわりつく空気感が割と重たい。

たとえば、「勇者」が戦う相手の多くは、単なるモンスターより街の人間であることが多い。迷宮で初心者を食い物にしている盗賊崩れだったり、よくわからん実験や儀式のために人間を殺し回っている狂人だったり。1つ1つの事件がなかなか重たいし、救いのない話もあります。

また、その相手も単なるゴミみたいな悪党だけではなく、読んでいる側からすると気持ち……は無理にしても事情がわからなくもないところはある。娘が死んでしまったので生き返らせようとしたとか、コンプレックスをこじらせたとか、ある種どうしようもないかなという辛さの中で、自分の目的しか見えなくなって「狂った」連中が結構出てくるんですよね。

そして、そういう連中を通して見えてくるのは、「勇者」も実は似たり寄ったりではないか、ということ。つまり、「勇者」は「世界を救う」(そういう表現であったかどうか忘れましたが)ことが目的で、それしか見えていないわけです。たまたまベクトルが周囲の人に迷惑をかけない方向だっただけで、壊れているという意味では彼女もじゅうぶん壊れている。そして、彼女と共に戦う仲間たちもまた壊れていきます。

この辺が実にうまくて、その壊れ方に読者を共感させる力がありました。単に「こいつ頭おかしいだろ」じゃなくて、どこかで道を誤った感じがあるんだけど、ハッキリとどことは言えない。心情的にはむしろ分かる気がする。私はそんな感じで読んで行ったので、非常にハラハラしました。彼女たちが壊れていくのが辛いし、でもそうせざるをえないのもわかるし……という。幸せになってほしいなぁと思って読んでいたのですが。

最後どうなるかは読んでのお楽しみとして、後味悪くはないです。ただ、「勇者」たちが世界を救ったとして、彼女たちは救われているのか? という問いはしっかりと投げかけられている感じがする。この終わり方は果たして救いたりえているのか。彼女たちは幸せだったのか。そんな問いがどうしても出てきてしまう。

書かれた順番は逆ですが、ストーリーとしてはこの後が『死神を食べた少女』になります。こちらも割と切ない話。ただちょっと最後の方ごちゃごちゃしたところがあって、読後感がほんとうに少しだけ損なわれたところがあったのが残念でした。『勇者~』はそこをうまく余韻を持たせるかたちで纏めてるなぁと思いました。私的にはこっちのほうが好みです。あるいは、動かしようのないあとの歴史が決まっている話だからこそ出てくる味なのかもしれません。

心情的な方向にばかりスポットをあてましたが、ダンジョン探索型の冒険モノとしてもなかなか。WEB版作中の職業システムやアイテムを見ていると、たぶんもともとドラ○エ(ドラゴエではない)をベースに考えられていたのだと思うのですけど、その辺を取っ払っても世界観がしっかり構築されているし、主人公たちの成長や事件解決の爽快感などはエンタメ作品として見てもじゅうぶん面白い。

あまりうまい紹介になった感じはしないなぁ。まあ、WEB版は上記リンクに貼った通り全話無料で読めますし、百聞は一見にしかずというやつで、ご関心があればご覧になってみてください。