代々木公園から一気に拡大の傾向かと思われて、幸い9月の涼しさと雨のお陰で止まった感じのあるデング熱ですが、まだまだ油断はできません。蚊の恐ろしさを示したこのグラフ。直接の引用はビル・ゲイツ氏のブログからで、出典元はWHO。

 ▼「The Deadlist Animal in the World」 

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世界の動物が1年間で人間を殺す数

蚊、ヤバいですね。記事によると、マラリアで毎年60万人以上の人が死亡しています(WHOによると、2012年のマラリアによる年間死者数は約627,000人)。パナマ運河の建設中には数万人の犠牲者が出たとか。他にも黄熱病や脳炎(日本脳炎とかありました)。あと、今話題のデング熱(dengue fever)なんかも蚊が媒介する伝染病です。

デング熱はここ数十年で患者が30倍に増えたとも言われており、現在では世界の約40%の人に罹患の危険性があるのだとか。このままいけばネズミ算式に感染の可能性は高まっていくでしょう。なんせ蚊って世界中にいますからね……。

蚊は繁殖力と分布範囲がえげつないこともあって、ヒューマンキラーNo.1の座をキープしているようです。ただ、お返しというわけではありませんが、たぶん地球上で蚊を一番殺しているのも人間でしょう。なんせここまで「殺られて」いるのですから人間だって黙っているわけではない。

近年注目されているのは、放射線などによって不妊化、あるいは致死遺伝子をもたせた蚊を放ち、蚊を絶滅……とまではいかなくともその数を減少させようという研究。ハエの駆除などで実績のある「不妊虫放飼」のアレンジですね。日本では沖縄でハエを相手に凄い成果をあげています。

ただ、蚊には非常に難しいらしい。「さいえんす徒然草」の「飛べないメスの蚊はただの虫けら」という記事によれば、蚊の不妊虫放飼には次のような困難があるそうです。

1.従来の方法で不妊化することが難しい
 通常、昆虫の不妊化は蛹期に放射線を照射することで行われる。しかし蚊の場合、蛹の時期は水生生活(オニボウフラ)なので、扱いが困難で大量に処理できない。

2.蚊の個体群サイズは幼虫期の資源獲得競争に規定されている
 蚊の幼虫(ボウフラ)と蛹は水中で生活する。ネッタイシマカの場合、人工的な水溜りに卵を産み付けるが、これらの生育環境は限られている上に狭く餌資源も乏しいので幼虫同士の資源獲得競争が激しい。一方で、メスは一回の吸血―産卵で潜在的に沢山(数百)の卵を産み落とせる能力を持っているので、成虫の繁殖力を大幅に減らしても次世代の個体数に関してあまり影響は無い。つまり、蚊の個体数を減らすには成虫期ではなく幼虫期の個体群にインパクトを与えることが重要である。しかし、従来の放射線による不妊化では大抵の場合次世代は胚性致死(卵から孵らずに死んでしまう)になるので幼虫期で競合することは無い。

3.メスを放飼することはできない
 もしあなたの家の近くにできた怪しげな施設が、血を吸うメスの蚊を毎日大量に放出し始めたら、迷わず最寄の行政機関に苦情を申し立てるにちがいない。従って放飼する蚊はオスだけでなければならない。雌雄の区別が明確に分かるのは蛹か成虫期だが、これを人間の手で区別してより分けるのはいずれにしても労力が必要だ。

4.健康なまま放飼することが難しい
 不妊虫放飼法にとって重要な点は、放飼するオスが野外のメスの獲得に十分競争力が無ければならないということだ。ヨレヨレの草食系オス蚊をいくら放しても、野生のオスたちに「へっ、見ろよあのオカマ」と鼻で笑われるだけで野外のメスと交尾する確率が低くなる。とくに蚊のオスはこれまで不妊虫放飼が行われてきたどんな虫よりもか弱く、不妊虫生産工場での様々な扱いで弱ってしまう。

また、絶滅するまで何度も何度も蚊を放ち続けねばならないというのも、実際問題手間や費用を考えると面倒なところです。

そこで更に発展的な手段として、蚊の遺伝子を組み換え、雄の蚊が生まれやすいようにして、徐々に蚊の勢力を削いでいく方法の研究が進められているようです。これだと、世代を重ねるごとに蚊が勝手に減っていくことになりますね。

とはいえ、変な遺伝子操作によってとんでもない事態が引き起こされる可能性というのは当然あるわけで、その辺への懸念もささやかれてはいます。まさか『テラフォーマーズ』みたいなことはないと思いますが、かえって面倒な事態を招いたらあまり意味が無いですからね。

上記記事で「問題は遺伝子組換えの昆虫を野外に放すということに対して社会的な理解が得られるかどうかだ」と述べられている通り、この辺のことを不安視する声が大きいというのはわかります。蚊が人間を殺す以上に残酷な、悪魔の所業と言われても仕方ないかもしれない。しかし、世界中でやはりこれだけの被害が出ていることを考えると、こういう研究の成果がうまく出てほしいというのも分かる気がするのです。