アニメ化を控えていた漫画『ハイスコアガール』にトラブルが浮上していました。

昨日(8月5日)にスクエニがこの件で捜査を受けたようで、本日刑事告訴を行ったSNK側からコメントが出ています。

 ▼2014年8月6日
  株式会社スクウェア・エニックス等に対する刑事告訴について(SNK)

民事ではなくいきなり刑事告訴(*1)とは穏やかではありませんが、どういう事件なのか、報道を見ながら簡単に整理してみましょう。

 ▼「「ハイスコアガール」スク・エニ告訴でSNKプレイモアが説明 「なんら誠意ある対応なかった」」(ITMediaニュース)
 人気漫画「ハイスコアガール」がゲームのキャラクターを無断で使用していたとして、出版元のスクウェア・エニックスが著作権法違反容疑で家宅捜索を受けた問題で、告訴したSNKプレイモアは8月6日、「販売の即時停止を求めたが、なんら誠意ある対応がなかった」などとするコメントを発表した。

 ▼「人気漫画に他社のゲームキャラが…ドラクエの「スクエニ」を著作権侵害容疑で捜索 大阪府警」(MSN産経ニュース)
ハイスコアガールのアニメ化にあたって、関東地方の映像製作会社が昨年夏ごろ、SNK社にキャラクターや音楽の使用許諾について問い合わせたことがきっかけで、漫画に無断使用されていたことが発覚。SNK社が今年5月、大阪府警に告訴していた。

 ▼「スクエニを家宅捜索 他社キャラ、漫画で無断使用」 (産経新聞)
コミック誌で連載されている漫画の作中で、人気ゲームのキャラクターを無断で使用したとして、大阪府警は5日、著作権法違反容疑で、発行元の「スクウェア・エニックス」(東京都新宿区)の本社など関係先を家宅捜索した。

おおむねどの記事もSNK側の言い分を中心に組み立てられていますので、中立的とは言いがたいかもしれませんが、とりあえず事実関係として以下のようなことがわかります。

 ・ 『ハイスコアガール』のアニメ化がきっかけで今回の件が「発覚」した。
 ・今年の5月、SNK側が大阪府警に刑事告訴した。
 ・8月5日にスクエニに家宅捜索が入った。

SNK側の言い分としては、こうです。

 ・スクエニは、SNKのキャラクターを許諾なしに勝手に使用した。
 ・にもかかわらず、許諾をとったかのように「コピーライト」表記をしている。
 ・『ハイスコアガール』の販売の即時停止を求めたが、スクエニから「誠意ある対応」がなかった。

果たしてほんとうに許可をとっていないのか。とっていないなら、なぜ取らなかったのか。そして、スクエニはなぜ「誠意のある対応」を拒んだのか。そのあたりについてスクエニ側からの反応が注目されていましたが、本日午後になって、スクエニ側から提出されたコメントは、非常に簡潔で、残念ながら事態を明らかにする内容ではありませんでした。

 ▼「本日の一部報道について」(スクウェア・エニックス ホールディングス)
本日の一部報道について
 
本日、当社子会社に関する一部報道がございましたので、以下の通りお知らせいたします。

当社子会社の株式会社スクウェア・エニックスが発行する出版物の一部内容について、著作権法違
反の疑いがあるとして、平成 26 年 8 月 5 日に、警察当局による家宅捜索を受けました。

当社およびスクウェア・エニックスは、捜査に全面的に協力しておりますが、現在、警察による捜査が
行われているため、本件に関する詳細の公表は控えさせていただきます。

以 上  

スクエニ側が「対応を拒んだ」理由としては、たとえば、許諾はとったつもりだった(たとえば担当編集者が、許諾をとったと主張している等を含め)であるとか、あるいは許諾はとっていなかったことを認めつつも、SNK側が要求している「同作品の電子書籍、単行本、月刊誌その他の販売の即時停止」というのが厳しすぎるため、それを避けた上で改めて許諾をもらえないか交渉して、それがSNK側の怒りに触れた可能性などが考えられるかと思います。

一方、SNK側の怒りは何なのか。無断でキャラクターを使ったことを既に許すまじと思っているのか、その後のスクエニの対応がマズかったのか、あるいはカプコンとはコラボ展開してるのにSNKはスルーされたことを根に持っているのか……。先程も言いましたが、民事すっとばして刑事であること、作者ではなく出版社と担当部門の関係者を訴えたというあたりに、怒りの方向性が見えてくる気がします。

何にせよこのあたりは憶測の域を出ませんので、今後捜査が進むにつれて明らかになるでしょう。関係者の発言などにも注目していきたいところです。 

ところで、こうした「二次利用」については下のような話もあります。

 ▼「「やぶ蛇」嫌い? 出版業界に一貫したルールなし 著作物の二次利用」(MSN産経ニュース)
 著作権に詳しい早稲田大の上野達弘教授(知的財産法)によれば、作品の二次利用については出版社同士が事前に話し合うこともあれば、許諾を持ちかけて断られる「やぶ蛇」を嫌って「あえて聞かない」こともあるという。一貫したルールがないのが、出版業界の現状といえる。

 後でトラブルに発展するケースも少なくないが、オリジナル作品にとっても、二次利用されることで再度脚光を浴びる可能性がないわけではない。こうした思惑が入りまじり、「あいまいな形で運用されている側面がある」と上野教授は指摘する。 

この「あいまいな形の運用」というのは、ブログ、Twitterなどでゲーム画像を使ったり、あるいは同人誌という文化に馴染んでしまっている私のような人間には耳の痛い話でもあります。今回のようなトラブルを起こした一因だと言われれば、(まだ事実関係は明らかになっていませんが)その可能性はあるのでしょう。「宣伝になってるからいいじゃないか」というような開き直りはやっぱりよくない。その主張自体は良いとしても、許諾をとらないとどんどん恣意的になって歯止めがかからなくなるから。

ライトノベルでも、実在するゲームを作中で扱った『僕と彼女のゲーム戦争』(電撃文庫)で、著者の師走トオル氏が、権利関係の問題もあって富士見ファンタジアではなく(同じKADOKAWA系列だけど)電撃文庫から出すことになった、みたいな話をされていたので、このあたりキチンとしている会社はキチンとしているんですよね。またそれは、自分たちが権利者ともなる出版社であれば当然の態度と言えるかもしれません。

ただ、どこぞの音楽系著作系団体のように権利が利用者の「締め付け」となるような運用をするのも、そのコンテンツにとって有益たりえないというのもまた事実。「表現の自由」のような原理原則を重んじるタイプの問題と違い、著作権(知的所有権)関連の問題は、権利者の利益やそのコンテンツの豊かさを護るという実際の効果が重視される。その点から考えると、政教分離の「目的効果基準」ではないですが、知的所有権自体はあくまでも制度的な保障と考え、実際の運用においてはある程度柔軟な態度をとることもアリなのかなとは思います。

もちろん、現状そのような規定になっているわけではありませんから、今回の件について私が上記のような立場でどちらかを擁護・非難するということはしないつもりですが、デジタルメディアなどが凄い勢いで進展していっている現在、新しいかたちでの法整備が早晩必要とされてくるのではないでしょうか。

いずれにしても、今回の件が漫画・アニメと言った文化の自由度を著しく奪う結果にならないように祈りたい。結論としてスクエニ側が刑事罰の対象になったとしても、それによってキチンとした「制度」づくりの流れが進んで、息苦しくないようなルールができれば良いのですけれど、なかなか難しいですかね。



(*1):著作権を巡る刑事・民事の違いについては、次のサイトなどに詳しい。
 ▼「第9講 著作権等の侵害」(著作権法 (東京情報大学・総合情報学部・情報文化学科))
著作権法をはじめとする知的所有権各法は刑罰規定を設けて,知的所有権の侵害行為を犯罪としてこれに刑罰を科すこととしています。もっとも,刑事上の責任には原則として「故意(犯意)」が要求されますから,過失による著作権等の侵害行為は罰せられません(刑38条参照。ただし単なる法律の不知は故意を阻却しません。)